2017/06/05

ドキュメンタリー映画『モガディシュ・ソルジャー』(Mogadishu Soldier) 出口の見えない内戦に身を置く平和維持部隊の兵士たち


エンカウンターズ国際ドキュメンタリー映画祭」(Encounters South African International Documentary Festival)。南アフリカで1999年から毎年開催されているドキュメンタリーの祭典だ。今年は6月1日から11日まで、ケープタウンとジョハネスバーグで約50作品が上映されている。

6月3日の土曜日、『モガディシュ・ソルジャー』(Mogadishu Soldier)を見に行った。2016年の作品。



モガディシュは東アフリカの「アフリカの角」(Horn of Africa)に位置するソマリア共和国の首都だ。

エチオピア、ケニアと国境を接するソマリアは、1980年代から内戦状態にある。1990年代半ばからイスラム原理主義グループが台頭し、2006年6月、とうとう首都モガディシュを占拠してしまう。同年12月にソマリア暫定政府軍とエチオピア軍が首都を奪回。しかし、内戦はまだ続いている。

2007年からはアフリカ連合(AU)が平和維持部隊を派遣している。現在の敵ナンバーワンはイスラム過激派の「アル・シャバーブ」(Al-Shabaab)だ。AU平和維持部隊、ソマリア政府軍、それにアル・シャバーブが首都モガディシュで睨み合っている中、ノルウェー人のドキュメンタリー映画監督がブルンジ人の平和維持部隊兵士2人にカメラを与えた。「これを使って1年間、自分が面白いと思うものを撮影してくれ」。

1年間に使ったテープ523本。それを編集したのがこの映画である。

素人が撮った映像だから、ボケたり揺れたり斜めになったり。。。しかし、ブルンジ人の兵隊がジブンジ人の兵隊仲間を撮影しているため、外部から民間人の撮影隊が入り込むのと違って、通訳なしの自然な、生の会話である。仲間に対する安心感・信頼感に溢れた本音の姿が浮かび上がる。外部の人間には、とてもここまで踏み込めない。映像的にも、心の中にも。。。

ブルンジの兵隊たちはどことなくのんびりしている。規律があまりなく大雑把。すぐ歌が始まったりして、大変な仕事なのに悲壮感がない。いい人たちっぽいけど、兵隊としてはどれほど使いものになるのだろう。平和維持部隊なので、自ら反乱軍に対して戦闘をしかけることは許されない。それでも、AU平和維持部隊ミッション(AMISOM)はこれまで1100人もの兵士を失っている。生きて帰れない可能性が結構ある危険なミッションなのだ。

派遣国にはメリットがある。兵士1人当たり月約1万ドルが支給されるからだ。人件費だけでなく、制服や食料や武器弾薬などを含めた金額だとは言え、例えば千人派遣すれば、月1千万ドルの収入。発展途上国にはおいしい話だ。ミッションに参加しているブルンジ兵に支給されるのは、月僅か650ドル。命と引き換えにするには安すぎる。

国連軍から南ア人が派遣されて来た。いかにもプロっぽい、キビキビした動き。射撃訓練のインストラクターだ。ライフルを構え、地面に腹ばいになるブルンジ兵たち。インストラクターが「ひとたび狙いを定めたら、腕を動かしてはいけないよ」と、噛んで含めるように、ゆっくりと優しく英語で諭す。それを、通訳がブルンジの言葉に直す。何発か撃った後、的をチェックし、「ほら、上達しただろう」と優しく褒めるインストラクター。

う~ん。訓練を受けているのは、ブルンジ陸軍のプロの兵士たち。こんな基本的な訓練が現場で必要なんて、大丈夫だろうか。

そして、そのブルンジ軍がソマリア政府軍の兵士たちを訓練する。制服もない。バラバラの私服で整列。号令に合わせて足踏みすることもうまくできない。「回れ右!」と言われ、左に回る者もいる。イスラム過激派との戦闘に、耐えられるだろうか。心配だ。

アル・シャバーブの兵士が捕虜になった。「今日が初めての戦闘」という。「自分で進んでアル・シャバーブに参加したのか、それとも強制されたのか」との尋問に、「騙されたんだ」。「戦闘で死んだら、72人の処女が待つ天国にまっすぐ行けると言われた」という。

別のアル・シャバーブ兵士が捕虜になった。少年だ。「僕の部隊は大人1人と子供4人」。アル・シャバーブは子供を誘拐して、兵士に仕立てているという。どちらの捕虜も、「イスラム過激派」とは程遠い。

政府軍とアル・シャバーブ軍。どっちもどっち。いつの日か和平交渉がまとまるまで、または国際社会の支援を受けた政府軍がイスラム過激派を制圧するまで、素人同然の両軍兵士が武器を手にして殺し合いを続けるのだろう。そして、一般市民は家を破壊され、家族を殺され、食料もなく、仕事もなく、自分たちに関係のないところで決着がつくまで、ひたすら忍耐強く待ち続けるのだろう。

CNNのレポーターに取材を受けたAMISOM兵士が言う。「僕たちはピースキーパー(平和を維持する者)じゃない。維持(キープ)する平和(ピース)がここにはないからだ。僕たちはピースメーカー(平和を作る者)なんだ」。

しかし、積極的介入を許されない平和維持部隊に、平和作りはしたくてもできない。出口が見えない内戦。一体いつまで続くのだろうか。


【関連ウェブサイト】
Encounters South African International Documentary Festival
Mogadishu Soldier (IMDb)

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