チータを知っている人間にとっては、摩訶不思議な出来事。というのも、チータは普通、人間を襲わないからだ。
四足の動物の中で、チータは最も走るのが早い。走り始めてから2秒で時速72キロに達し、最高時速100キロ以上。しかし、全力疾走できるのは、僅か約400メートル。長時間、獲物を追いかけることが出来ないから、獲物が油断しているスキを狙った短時間勝負になる。
しかも、早く走ることに体が特化しているため、元々、「襲う」というのはあまり得意ではない。ライオンやヒョウは「手」が大きく、ツメがガチっとして、獲物を抑えるのに適してるが、チータの「手」は小さくてお上品。頭部や顎の力も弱い。
走ることに特化したチータ |
野生のチータやヒョウに出会ったらどうなるか。まず、人間が近づく以前にサッサと逃げてしまう。運悪く近距離で人間に出くわしてしまい、身の危険を感じたら、ヒョウは場合によっては襲ってくることもある。チータは大抵、一歩前に踏み出し、「フッ」とか言って襲う「フリ」をして、こっちが一瞬ひるんだスキに逃げ出す。
がっしりしたヒョウ。大きさはチータと同じくらい。 |
さて、先週の土曜日、スコットランドから来た夫婦、アーチボルドさんとヴァイオレットがチータに「襲われた」のは、ポートエリザベス近くのクラッハ・カマ(Kragga Kamma)動物公園。問題のチータは、赤ちゃんの時から人間に育てられた、マークとモンティの兄弟。
檻の中には、この夫婦と子連れの家族。チータは7歳の子供と「遊んでいる」つもりだったようだ。怖がった別の子供が逃げ出すのをヴァイオレットさんが止めようとした拍子に、チータにぶつかり倒される。チータはヴァイオレットさんの頭をモグモグ。
勿論、本気でチータに噛まれたら、 たとえ命があっても重傷だろう。ヴァイオレットさん自身、「チータは凶暴ではなかった。興奮していただけ」と認めている。それでも、2頭のチータに体を押さえつけられ、頭や足を噛まれて、せっかくの「休暇」が「悪夢」になってしまったという。
いくら赤ちゃんの時から人間に育てられたと言っても、相手はチータだ。我が家のグータラ猫に引っ掻かれても痛いのに、体重40~65キロ(家猫の10倍)のチータだと、同じ「遊ぶ」といってもダメージの大きさが違う。
大事(だいじ)に至らず何よりだが、ここで信じられないのは、夫のアーチボルドさんが一部始終を写真に撮っていたこと。(新聞には「filming」とあるが、録画だったのだろうか。)
「タイムズ」紙掲載写真の一枚。右のコはお腹丸出しで、どう見てもネコ気分。 |
勿論、素人が下手に手を出すべきではない。しかし、ジャーナリストとか赤の他人だったらともかく、夫である。しかも、普段、野生動物に縁のない人にとっては、「愛する妻がいきなり猛獣に襲われた」的な極限状況だ。怖くて腰が抜けて立ち上がれないとか、反射的に救い出そうとするならわかる。ところが、冷静に(もしくはワクワク興奮して?)シャッターを切り続ける(もしくは、ビデオを撮り続ける)なんて。。。
面白い映像チャンスを逃さず、何でも録画して、ユーチューブなどに投稿する世相を反映しているのか、それとも、夫婦関係が冷え切っているのか。。。
いずれにせよ、家に帰ってから、一悶着(ひともんちゃく)起きそうですね。
(参考資料:2012年5月4日付「The Times」など)
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