2010/08/27

史上最悪の公務員スト

8月18日、史上最悪と言われる公務員ストが南アフリカ全国で始まった。参加者130万人と言われる。

小中高の教師30万人以上が授業をボイコット。組合に入っていなかったり、入っていても子供のために授業を続ける同僚をののしり、授業を妨害する。南アフリカの学校年度は、1月から12月まで。そろそろ年度末試験が近づいている。特にマトリック(高校卒業試験)を目前にした生徒には、迷惑もいいところである。元々、教師の質の悪さが問題となっているところに、アパルトヘイト後取り入れられた教育システムにより、読み書きの出来ない高校生が続出している現状だ。

更に、困るのは医療従事者のスト。さすがに医師で参加する者は殆どいないものの、清掃夫や調理師から看護婦まで、医療現場で働く、あらゆる職種の人々が職場を放棄。ソエトのバラグワナ病院のノエル・ハウザー医師は、「医者は出てきているけど、看護婦をはじめとするサポートスタッフがいないと、どうしようもないんだ」と顔を曇らせる。未熟児に食事が与えられず、重病患者を世話する人もいない。

スト参加者は職場放棄にとどまらない。細々と行われている治療の邪魔をする。手術室に乱入し手術を妨害したり、廊下にゴミをまき散らかしたり、病院の前に陣取って救急車を中に入れなかったり、とても医療に関わる人間とは思えない。患者が死んでいっても、知らん顔だ。

スト2週間目に入り、全国の病院にボランティアが集まり始めた。清掃や食事の世話やベッドの移動など、特別な資格を必要としない雑務を行うためである。8月23日には、7州の37病院に軍隊が出動。医師やボランティアや患者の警護にあたっている。

アンシア・ヒーンさんは、バラグワナ病院の検査技師。20代前半のか細い女性だが、ラボにストライカーが乱入し、乱暴に肩をつかまれ、「お前、何故働いてるんだ。出て行け!」と脅された。軍隊のヘリコプターで病院への出入りを行った。「怖かった」と思い出して身震いする。

南アフリカで労働者のストは日常茶飯事。今年に入ってからも、5月に鉄道港湾を管理するトランスネットの職員が3週間にわたってスト。経済に与えた損害は73億ドルと言われる。組合は11%の賃上げを勝ち取った。

6月には、官営電力会社エスコムの職員が9%の賃上げと月1500ランドの住宅手当を求めてスト。サッカーワールドカップ開催を見越しての脅迫まがいの行為だった。8月には自動車業界がスト。2010年に10%、翌年と翌々年に9%ずつの賃上げで労使が合意に達した。

今回の公務員ストで組合が求めているのは、8.6%の賃上げ(インフレ率の2倍以上)と月1000ランドの住宅手当。国の提示は賃上げ7%と住宅手当700ランド。90%の職員には更に1.5%の賃上げを提示。「組合との要求との差は、0.1%しかない」と国は主張するが、組合は応じない。経済に与える損害は、1日10億ランド(120億円)と概算されている。

自分は一生懸命働いても賃金が低く生活が苦しいのに、政治家や政府高官や企業の幹部は豪勢な生活を送り、ゼロを数えるのが難しいほどの高い給料を貰っている。頭にくるのもわかる。しかし、看護婦や教師といった、人命や国の将来にかかわる重要な職業についている人たちが、僅かな昇給額にしがみついて、仕事の本質をおろそかにするのにはどんなものか。それも、失業率が3割とも4割ともいわれる中でのことである。

労使の話し合いに決着がつかず、ストが長期化しそうな気配の中、組合は全国の警官14万5000人と刑務所の看守をストに参加させる、と強気の構えだ。

(参考資料:2010年8月23日付「The Star」、8月24日付「The Times」、8月26日付「The Star」など)

2010/08/23

南アでロマンス小説 著者は19歳の黒人青年

美しいヒロインが背が高くてハンサムな男性と恋に落ち、紆余曲折の末ハッピーエンド・・・と水戸黄門並にワンパターンなロマンス小説。全世界で20億ドル規模(推定)の、出版業界では大きな市場。北米で販売されるペーパーバックの半数以上が、ロマンス小説である。不況に強く、過去2年で売り上げが急増した。

南アフリカでロマンス小説と言えば、ミルズ&ブーン。1912年に創業されたイギリスの老舗で、1971年カナダのハーレクイン社に買収された。「ミルズ&ブーンが愛読書」と公言する人は殆どいないが(知性のなさを疑われる後ろめたさがある)、英系の若い女性に圧倒的な人気がある。

とは言え、主人公は概ねイギリス人女性。南アフリカ人、特に黒人には感情移入がしにくい。そこで、新市場開拓を狙った南アフリカの出版社クエラブックスが、ロマンス小説シリーズ発行に踏み切った。その名も、サファイヤプレス。伝統を重んじ、黒人であることに誇りを持つ、若い女性がターゲット。執筆者は7人。

著者のひとり、フェゼキレ・コキレ君は、東ケープ出身の19歳。第1作は「Wish Upon a Star」(星に願いを)。少女に結婚を強制する「ウクトゥワラ」(ukuthwala)というコサ族の風習がテーマ。強制結婚から逃げ出し、ケープタウンで編集者として成功したヒロインに過去がつきまとう、というストーリーらしい。「男女関係なんて経験したこともないくせに・・・」と姉妹たちにからかわれたものの、リサーチゼロで書いた小説の原稿料は1万2千ランド(約15万円)。授業料が払えず大学を中退したコキレ君は嬉しそうだ。

(参考資料:2010年8月22日付「Sunday Times」など)

2010/08/16

王妃と大臣の不倫 スワジランド

警察が司法大臣と王妃の不倫現場に踏み込み、大臣を逮捕。そんなショッキングな事件が起きたのは、南アフリカに隣接する小国スワジランドでのこと。国王は台湾を公式訪問中だった。

大臣は国王の幼友達。国王の不在時、王妃は軍隊の制服に着替え、兵隊のふりをして宮殿を抜け出し、大臣とホテルで落ち合っていた。ふたりの関係を嗅ぎつけたのは、諜報機関のエージェント。ンドゥミソ・マンバ大臣は辞任した。

ムスワティ国王はまだ42歳。ふたりの間には、5歳、3歳、0歳の子供3人がいる。王妃の座を危険にさらしてまで、彼女を不倫に駆り立てたものは何か、と野次馬根性をあおられるが、実はこのノタンド・ドゥベ夫人、ムスワティ3世の12番目の奥さんなのである。16歳の時国王に見初められ、現在22歳。国王は毎年のように新しい妻を娶っており、ノタンドの後にも2人と結婚した。

スワジランドは人口100万人強。国民の60%が1日1.25米ドル以下で生活している貧しい国だ。失業率約40%。HIVの感染率、世界一。成人の26%、20代に限定すると50%以上がHIV陽性といわれる。平均寿命は36歳。世界で一番短い。

国民が苦しんでいるのをよそに、アフリカ最後の絶対王政を敷き、贅沢三昧を楽しむムスワティ王は評判が悪い。揃いも揃って浪費好きの妻たちにそれぞれ宮殿と高価なBMWを与え、国王自身のマイカーのお値段は50万ドル。宮殿を3つも持っている。

妻選びは通常、伝統行事「リードダンス」(葦の踊り)の場で行われる。毎年国中から若い娘約2万人が集まり、国王の母親に葦を捧げ、労働を提供し、ダンスを披露するもので、本来は国王の妻選びとは関係ない。だが、ムスワティ王は、腰のまわり以外は裸同然の娘たちの中から、お気に入りの美女を選んで妻にしてしまうのである。

スワジ王は一夫多妻である。国内の平和を保つため、各部族からひとりずつ妻を娶るという政治的意図からだ。先代のソブザ2世が亡くなった時には、妻約70人、子供100人以上、孫が1000人以上いた。だが、妻たちは各部族の有力者の娘で、性格・資質が重視され、同じ場所に住み、移動もバスで全員一緒だったという。見初めた可愛い高校生を学校から拉致し、母親に訴えられたこともあるムスワティ王とは大違いである。

2004年には第5夫人と第6夫人の不倫が発覚。宮殿を去った。第5夫人は現在ロンドン、第6夫人は南アフリカのソウェトに住んでいる。今回の第12夫人の不倫発覚で、ムスワティ王は「恥をかいた」とカンカン。不倫情報を外部に漏らした人間を突き止めると息巻いているらしい。

さて、ノタンド王妃とマンバ元大臣の運命やいかに? イスラム教国とは違い、セックスには大らかなお国柄のおかげで、一番重い処分でも元大臣は国外追放、王妃は両親の家に軟禁で済みそうだ。加えて、賠償金代わりに、牛の提供を求められる可能性もあるとのこと。

(参考資料:2010年8月1日付「Sunday Independent」 など)

関連記事
スワジランド王妃 王宮から追い出される(2011年11月21日)

2010/08/11

絶滅の危機 ヒキガエルに愛の手を

ここはケープタウン郊外。雨が降る暗い夜道に現れた人々。懐中電灯をかざしながら、落し物でも探しているかのようにゆっくり動き回っている。時々しゃがんでは何かを拾い上げ、道の端まで歩く。

実は、ボランティアグループ「トードナッツ」(Toadnuts)の面々。直訳すると「ヒキガエル気違い」。世界でもケープ地方にしか生息しないWestern Leopard Toad(学名:Amietophrynus pantherinus)(和名は何でしょうね?)を守ろうという有志の集まりだ。

かつてはケープ地方の沿岸一帯に生息していたが、急速な都市化に伴い、棲みかがどんどん破壊され、現在その殆どが住宅地の庭に住む。だが、庭つきの家で優雅に一生を・・・というわけにもいかない。配偶者に巡り合い繁殖するには、水が必要だからである。とはいっても、町中のこと。なんとか池にたどりつかないといけない。

不便なところに住んでいると、最寄りの池まで5キロということもある。身長14センチのヒキガエルにとっては、ものすごい距離である。しかも車道を横切るという離れ業が要求される。無事交尾を終えたら、普段住んでいる庭まで戻るから、場合によっては何度も命がけの目に遭う。

このヒキガエルの繁殖期は、7月から9月の間の僅か数日間。大抵雨が降る夜で、しばしば満月の日が選ばれる。満月の夜でも雨が降っているから、運転手には見えにくい。そのため、多くが交通事故の犠牲となる。一匹のメスが産む卵は約千個。つまり、メス一匹が道路を安全に渡れるかどうに、千匹のオタマジャクシの命がかかっているのである。

そこで登場したのが「ヒキガエル気違い」。今年は7月22日、夜でも交通量が多いシルバーマイン道路に集合。101匹のヒキガエルを無事、道路の反対側まで届けた。それでも、約25匹が轢き殺されたという。この道を通るマイカー運転手に、雨の夜はゆっくり走るよう呼びかけている。

Western Leopard Toadは、絶滅の危機にさらされている。ケープ地方の皆さん、自宅の庭に住んでいるのを見つけたら池を作って、せめて「マイトード」の命だけでも助けては?



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(参考資料:2010年8月1日付「Sunday Times」など)

2010/08/05

元警察長官 汚職容疑で有罪 15年の実刑判決

南アフリカの元警察長官ジャッキー・セレビ(Jackie Selebi)に、15年の実刑判決が下った。容疑は汚職。

1950年ジョハネスバーグ生まれ。ハンガリーやザンビアで亡命生活を送り、1980年代後半に解放運動組織「アフリカ民族会議」(ANC)の幹部になる。ANCが大勝した94年の第1回民主総選挙で国会議員に。その後、国連大使、外務省事務次官の要職を経て、2000年に警察長官就任。たたき上げでない初めての警察長官、それも一党独裁の与党から送られた政治的任命である。2002年からインターポール(国際刑事警察機構)の副長官、04年には長官に就任し、世界の警察組織のトップに立った。セレビを汚職容疑で逮捕・起訴しようとした検察長官は、ムベキ大統領に停職処分を受け、後任のモトランテ大統領に解雇された。

これほどの権力者、それも警察長官の逮捕・起訴が実現したのは、ひとりの男の執念による。

ポール・オサリバン(Paul O'Sullivan)が南アの空港を管理するACSA(Airports Company South Africa)の警備担当になったのは2001年。密輸や盗難など犯罪の多いジョハネスバーグの空港の警備刷新に力を入れた。全く無能な警備会社が不正な方法で契約を得たことを発見し、契約を破棄。ところが、警備会社の社長が友人のセレビに泣きついたのである。セレビが「なんとかする」と約束した直後、オサリバンの命が狙わ始める。圧力に屈しなかったら、ACSAから解雇されてしまった。

オサリバンはあきらめなかった。命の危険に晒され、結婚生活が破たんしても、家族の身を守るため海外に移住させ、私財を投じて調査を継続。セレビが国際犯罪組織のボスで麻薬王、グレン・アグリオッティ(Glen Agliotti)と近い関係にあり、1990年から賄賂を受け取っていたことをつきとめた。家族の医療費から、奥さんのルイヴィトンのハンドバッグ、多額の現金まで。2000年以降だけで、120万ランド(1560万円)の現金を渡したと、アグリオッティが証言している。麻薬といえば密輸がつきものだから、空港の警備はアグリオッティにとって死活問題だった。ムベキ大統領は、大物犯罪者の庇護にある者を警察長官に任命していたわけだ。

アグリオッティとの関係がマスコミで大きく取り上げられても、セレビは「彼は友人。私の目の前で犯罪を働いたわけではない」などとうそぶくばかり。与党ANCと大統領を後ろ盾にしての強気の態度。

だが、動かぬ証拠を元に、検察は2007年9月、現職の警察長官を起訴。大統領はしぶしぶ、2008年1月、セレビを休職処分に。しかし解雇はせず、任期終了まで給料を支払うという甘い処分だった。2008年9月のムベキ失脚は、セレビにとって大きな痛手だっただろう。

現職警察長官の逮捕、起訴、有罪判決は、民主主義の勝利と見るべきか、それとも、大統領の後ろ盾を失った権力者の失墜と見るべきか。

また、警察長官の逮捕・起訴が可能になったのは、検察のエリート捜査機関「スコーピオンズ」の健闘のおかげだが、次から次へと政治家や権力者の汚職・犯罪を暴いたスコーピオンは、優秀すぎて恨みを買ったせいか廃止され、その捜査機能は「ホークス」として警察に移されてしまった。

更に、執拗に報道を続けたメディアの役割も見逃せない。だが、政府を批判し、汚職を追及するメディアに、与党は不快を隠さない。つい最近も、南ア共産党書記長でANC幹部でもあるブレード・ンジマンデ高等教育相が、南アのメディアを「ブルジョアメディア」「野党の延長」「民主主義への脅威」と呼び、メディア規制機関の設立を求めている。

どこへ行くのか、南アの民主主義。

一方、ハリウッド映画の主人公並の活躍をしたポール・オサリバン。次の標的は、ターボ・ムベキ元大統領、と鼻息が荒い。悪名高い南アの犯罪を取り締まるトップが汚職にまみれていたにも拘わらず、大統領が庇い続けたためにセレビの逮捕・起訴が遅れ、その間の犯罪防止・捜査が滞った罪を問うという。セレビは控訴する予定だ。

2010/08/01

盲人横断注意標識

実は、道路標識が好きである。 田舎で見かける、カモシカ、象、ワニなど動物の「飛び出し注意」標識は「やっぱりアフリカだな~」と思わせて楽しい。ケニアのキリンやチュニジアのラクダの注意標識にも、土地柄が感じられてほくそ笑んだ。

 これは、我が家の近くで見かけた標識。杖をついた大人の絵と「BLIND PEOPLE」の文字。「盲人横断注意」の標識だろう。ごく普通の真面目な図柄。だが、ちょっと考えて見ると、なんだか変。近くに盲学校があるわけでも、このあたりに目の不自由な人が多く住んでいるわけでもない。アーチスト、ジャーナリスト、学生などで溢れた、ジョハネスバーグでも知的でトレンディとみなされている地域の、横断歩道でもなく、交差点でもない普通の道の側にボツネンと立っている。どう見てもオフィシャルっぽい標識なので、ジョークとも思えない。何故この場所に、どういう意図で設置されたのか。なんだかシュールである。

西ケープ州の小さい町、モンテギューで見かけた「猫横断注意」標識と英オックスフォード近くの田舎道に立っていた「戦車横断注意」標識と同じレベルの意外性。私の中で大ヒットとなった。(オックスフォードの方は、近くに陸軍の演習場があったのかもしれない。地元の人にはなんの不思議もない標識だろうが、心の準備が出来ていない無知な観光客にとっては、のどかな田園風景と戦車の取り合わせはシュールだった。)