大義名分や理想と現実は違うのだ。どこの国でも、どの国の国民でも似たり寄ったりだろう。
ところが、スウェーデンは毛色が違う。本音はどうであれ、「公平」「正義」「民主主義」という理想や建前を重視し、理想に沿った政策を国家が実行してしまうのだから。
(外務省) |
スウェーデンは過去40年にわたり、ヨーロッパのどの国よりも多く移民を受け入れてきた。住民の15%近くが外国生まれという。ヨーロッパで移民受け入れ第2位のデンマークですら、外国生まれの住民は6%強だから、スウェーデンの移民受け入れは文字通り桁違い。親の代まで考慮にいれると、外国生まれがなんと全体の30%にものぼる。
ストックホルム在住の友人マッツは長身、金髪、青い目の典型的なスウェーデン人だが、パートナーのメッシーはエチオピア人美人。幼い頃、家族と共にエチオピアから移住してきた。友だちの殆どはエチオピア人。お喋りはアムハラ語。コミュニティが出来るくらい、エチオピア人の人数が多いのだ。
しかし、スウェーデンは歴史的にずっと移民国家だったわけではない。19世紀後半までは、ほぼ単一民族から成り立つ、中立孤立を好む国だった。
それが、1920年から2006年の86年中、76年間も政権を担当した社会民主労働党、特にペール・アルビン・ハンソン(Per Albin Hansson)首相(1932-36、1936-46)とオロフ・パルメ(Olof Palme)首相(1969-76、1982-86)によって、「現代主義」(modernism)が理想として追求された。「現代的」=「良いこと」という価値観が定着し、「現代的」と認識されたものを真摯に実現したのだ。例えば、「労働組合」が「現代的」とされ、企業の役員会に労働組合の代表を入れなければならなくなった。
その他「現代的」とされたのは「集産主義」(collectivism)、「中立」(neutrality)、「経済的平等」、「男女同権」、「普通選挙権」、「離婚」、「福祉国家」。。。ついには「文化的多元主義」(multiculturalism)や「移民の大量受け入れ」も「現代的」と見做されるようになった。
逆に「現代的」でないものは、「宗教」や「国家主義」。スウェーデン国歌には、「スウェーデン」という言葉が一度も出てこないという。(そういえば、「君が代」にも「日本」という言葉は出てこないが、これは別の理由だろう。)
「自分は世界一幸せ」というデンマーク人と違い、スウェーデン人自身によるスウェーデン人評価は複雑だ。「嫉妬深い」「堅苦しい」「働き者」「自然を愛する」「物静か」「正直」「不正直」「外国人嫌い」。。。
「外国人嫌い」? そんな国民性なのに、率先して移民を受け入れている。
逆に、スウェーデン人とかけ離れてるのは「男らしい」「セクシー」「芸術的」という自己評価。
隣国のフィンランド人も、スウェーデン人は「男らしくない」という。フィンランドにもスウェーデンにも徴兵制度があるが、フィンランド人は入隊したら髪を短く刈らないといけないのに(男性はどこの軍隊でもそうであろう)、スウェーデン軍では長髪OKどころかヘアネットまで支給してくれる。
軍隊が一兵卒にヘアネットを支給? まさかね! ジョークと思って、『限りなく完璧に近い人々』(The Almost Nearly Perfect People)の著者マイケル・ブース(Michael Booth)が調べたところ、本当だった。例えば、1971年、スウェーデン国軍は兵士用に5万個ものヘアネットを注文した。ヒッピー世代の男性の間で長髪が流行っていたため、「変な寝癖をつけたくない」という要求に応えたのだ。
スウェーデン国家と国民が挙国一致して理想実現に当たる例は、他にも沢山ある。「こうしよう」と決めたら、文句も言わず、さっさと実行してしまう。1967年9月3日、右側運転から左側運転に変更になった際だって、しごくスムーズに移行したという。
母国語の文法すら、「民主主義」「平等」のために変更してしまうほど。
ドイツ語の「Sie」と「du」、フランス語の「vous」と「tu」、スペイン語の「Usted」と「tu」などと同様、かつてはスウェーデン語にも2人称が二通りあった。ところが敬称の「ni」は「非民主的」という理由であっさり廃止してしまった。
また、「彼」「彼女」(英語の「he」と「she」など)にあたる「han」と「hun」も、「性別のネガティブなステレオタイプ化につながる」という理由で廃止し、新しい人称代名詞「hen」に統一してしまった。
根っから真面目なのであろう。スウェーデン人のマッツですら、「スウェーデン人は退屈」と公言してはばからないが、ここまで真面目に理想を現実化するなんて、まったく頭が下がる。スウェーデン人、恐るべし。
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✤この投稿は2014年9月24日付「ペンと絵筆のなせばなる日記」掲載記事を転載したものです。
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