その秘密はデビアス(De Beers)社のキャンペーン「ダイヤモンドは永遠に」(A Diamond is Forever)にあった。「ダイヤモンドは永遠の輝き」というキャッチフレーズを使った、数々のコマーシャルや広告を記憶している方も多いのでは?
英語のキャッチフレーズが作られたのは1947年。フランセス・ゲレティ(Frances Gerety)という若いコピーライターによる。デビアス社の世界的なキャンペーンにより、高嶺の花だったダイヤモンドが、「永遠の愛」を象徴するものとして一般庶民の間に普及した。日本はアメリカに次ぐ世界第2位の装飾ダイヤモンド市場に成長する。
婚約指輪という「一生に一度の買い物」だから値が張っても当然とされ、また安易に売り払ったりしないから、大きな中古市場が生まれず、高値の維持につながる。全くよく考えたものである。
面白いのは広告主のデビアス。ダイヤの小売りを始めたのは今世紀に入ってから。つまり1888年の創立以来、消費者と直接接触することがなかった会社が、ダイヤモンド購入キャンペーンを繰り広げた訳である。
こんなことをしたのも、デビアスが世界のダイヤモンド市場を牛耳っていたから。「一部」を押さえていたのでは、キャンペーンの意味がない。ライバル会社の売り上げ促進に貢献してしまうからだ。トヨタやホンダが自社製品の宣伝を止め、世界的な「自動車購入キャンペーン」を展開するようなもの。キャンペーンが大成功しても、日産やアウディやヒュンダイだけが躍進しては困るのである。
ところが、かつてのデビアスにとっては、世界中のどこで誰が誰からダイヤモンドを買おうと、自社の利益になったのだ。(中古は除く。)
そのデビアスの40%を所有しているのがオッペンハイマー家。
ドイツ生まれのユダヤ人、アーネスト・オッペンハイマー(Ernest Oppenheimer)が南アフリカにやってきたのは1902年のこと。当時デビアス社は既に、ダイヤモンド世界市場の90%を押さえていた。アーネストは1917年に鉱山会社アングロアメリカン(Anglo Amenrican)を設立。1927年にはデビアスの会長になる。息子のハリーがアングロアメリカンとデビアスの会長職を継ぎ、現在はハリーの息子、ニッキーが当主。
金鉱から不動産まで、多種多様にわたる業界に君臨するアングロアメリカン。1985年の資産価値は、ヨハネスブルグ証券取引所上場企業の資産価値総計の半分と言われた。アングロアメリカンに加えてデビアスを掌中にするオッペンハイマー家は、鬼に金棒、怖いものなしである。
しかし、1990年前後に冷戦が終わり、アパルトヘイトが終わった。世界、国内の政治・金融情勢の変化は、オッペンハイマー家にも大きな影響を与える。
ロシア、インド、シエラレオーネといった新しい産地がダイヤモンド市場に割り込んできた。世界市場を牛耳るには、デビアスが管理しないダイヤモンドが出回っては困る。
品質の劣ったインドのダイヤは仕方がないものとし、一企業でありながらロシアという国家と協定を結んだ。シエラレオーネなどの「紛争ダイヤ」を買い込み、国際的な非難を浴びた。アメリカには独占禁止法違反で入国できない。アングロアメリカンとデビアスの会長兼任ができなくなった。
なんだかモグラタタキ状態である。
ついにデビアス社は大きな方向転換を図る。世界市場を牛耳るのを止めることにしたのである。そして、アメリカと仲直りし、小売業界に進出。
そして、今月、オッペンハイマー家はデビアスの持ち株全てを売却すると発表。売却先はアングロアメリカン。これにより、アングロアメリカンはデビアス株の85%を所有することになる。
親子3代にわたってデビアスの頂点に立ったオッペンハイマー家。売却を決めたニッキーの心中やいかに。でも、売値はなんと51億ドル!それだけ手に入れば、お家安泰。ダイヤモンド市場と、デビアス社の展望と、オッペンハイマー家の将来を計算しつくした、冷静なビジネス判断なのだろう。
デビアス株売却後も、オッペンハイマー家はアングロアメリカン株の2%を所有し続けるとのこと。
(参考資料:2011年11月6日「Sunday Times」など)
0 件のコメント:
コメントを投稿