2012/11/14

映画『シュガーマンを探して』(Searching for Sugar Man)


映画館で何週間も上映されるのはハリウッドの大作。多くの国で、そう相場が決まっている。南アフリカでも事情は同じだ。

では、地味な、心温まるアートハウス作品が好きなお年寄りとか、英語以外の映画が見たい国際人とか、ドキュメンタリーに目がない知識人とか、インディー系に心惹かれる若者の行き場は・・・?

南アフリカの大手映画配給会社兼映画館チェーン「スターキネコー」(SterKinekor)がジョハネスバーグ、プレトリア、ケープタウン、ダーバンの4都市に計5軒を展開している、「シネマヌボー」(Cinema Nouveau)だ。

(ジョハネスバーグには、人種を問わずヒップでトレンディーな若者が集まる、インナーシティの活性化を狙った再開発地区「マボネン」(Maboneng)がある。ソーホーやウェストビレッジの雰囲気で、その中には南アアートシーンの先端を行く「アーツ・オン・メイン」(Arts on Main)や、インディー系映画館「バイオスコープ」(BioScope)があるが、インナーシティを怖がる、お年寄りや普通の会社員にはまだ行きにくいかも。全然怖くなくて、素敵&面白いところなんですが・・・。)

それでも、大抵の映画は2-4週間で打ち切り。人気のある作品でも、2週目からはガラガラ。最初から全然客が入らない作品も多い。

ところが、最近、上映開始後4週間経っても、「ソールドアウト」(売り切れ)が続出する映画が登場した。それも、人が集まりにくいドキュメンタリー。

 タイトルは、『シュガーマンを探して』(原題:『Searching for Sugar Man』)。

主人公はシクスト・ロドリゲス(Sixto Rodriguez)。メキシコ系アメリカ人のシンガーソングラクター。1970年代初頭にアルバムを2枚発表。関係者は「ボブ・ディランより凄い!」と絶賛する。だが殆ど売れず、米ミュージックシーンから消え去った。レコード会社の社長曰く、「私の家族を入れても、6枚しか売れなかった」。

ところが、どこをどう間違ったのか、そのアルバムがアパルトヘイト下の南アフリカで大ヒット。アパルトヘイト政府の検閲に引っ掛かり、放送禁止になったにも拘らず、口コミで、当時としては史上空前の50万枚が売れたという。

買ったのは、体制に反抗的な白人の若者。アパルトヘイト政権による徹底的な情報操作・遮断により、国外の情報はもとより、自分の国で何が起きているかさえ知らされていない。先進国を揺り動かした、60年代の学生運動や市民権運動やウーマンリブにも取り残された。アパルトヘイトがおかしいと思いながらも、表現方法を知らなかった白人の若者の心を、アメリカのマイノリティー、若者、貧困層の行きどころのなさ、やるせなさを歌った、メキシコ系のロドリゲスの歌声がつかんだ。

アフリカーナの反体制歌手たちは、ロドリゲスに触発されて誕生した。ロドリゲスの音楽は、反アパルトヘイトデモを繰り広げたヴィッツ大学やケープタウン大学の学生たちのテーマソングとなった。

当時、リベラルな白人家庭には、3枚のレコードが必ずあったという。ビートルズの『アビーロード』(Abbey Road)、サイモンとガーファンクルの『明日に架ける橋』(Bridge over Troubled Water)、そして、ロドリゲスの『コールドファクト』(Cold Fact)。

アルバムジャケットから、ラテン系ということがわかる以外、ロドリゲスに関する情報は一切なかった。


そんな中、ロドリゲスが死んだという噂が南アフリカに伝わる。舞台上で灯油を頭からかぶり、焼身自殺したというのだ。別のバージョンでは、舞台上でピストル自殺したことになっている。。。

一体、ロドリゲスとは誰だったのか。本当はどうやって死んだのか。。。

アパルトヘイトが終わった後、青春時代にロドリゲスを愛した男ふたりが、ロドリゲス探しを始める。。。(「シュガーマン」はロドリゲスの代表作の題名。)

事実は小説より奇なり。ひとひねりも、ふたひねりもあり、ロドリゲスを知らない人でも大いに楽しめる。

映画館を埋めた観客は、元活動家タイプの中年白人男女だった。時代を語る作品という意味でも、感慨深い。

『シュガーマンを探して』の英国版公式予告編はこちら。



3 件のコメント:

  1. この映画、私もひと月前にアメリカ出張時に見て、大変感動し、計3回見て、CDもすべて買いました。日本での春公開でブレーク必須です。
    それにしても、面白い活動をされ、素晴らしいブログを書かれているを今、知りました。私も2010年にワールドカップで南アフリカを旅して、その魅力にとりつかれ、何とか両国の架け橋になれないかと思っています。今年か来年にはまた行きたいので、その時は会ってください。

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  2. DVDで『Searching For Sugar Man』を見ました。

    >映画館を埋めた観客は、元活動家タイプの中年白人男女だった。時代を語る作品という意味でも、感慨深い。

    そうだったのですね。興味深いです。ロドリゲスの生き方ももちろんですが、70年代アパルトヘイトに反対するアフリカーンスの人々の状況を知ることもでき、とても勉強になりました。

    素晴らしい作品との出会いに感謝です。

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