2010/11/29

エイズ治療薬から麻薬!?! エイズ患者を狙った強盗増加

ARVとは何かご存じだろうか。antiretroviral(抗レトロウィルス)の略だ。正確にはARV薬だが、南アフリカでARVというと抗HIV薬を指す。HIVは human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウィルス)の略。エイズ(AIDS:acquired immunodeficiency syndrome)を引き起こすウィルスだ。

厳密に言うと、ARVはエイズを治す訳ではないから「治療薬」とは言えない。だが、やせ細って寝たきりで死を待つばかりだった患者が体重を取戻し、元気に通常の生活を送れるまでに回復するため、エイズ患者にとっては「奇跡」をもたらす素晴らしい薬だ。ARVのおかげで、特に先進国では、「エイズは死なない病気」と認識されるようになった。

南アではつい数年前まで、HIV感染率世界一というのに、国がエイズ患者の手当てを拒否していた。ターボ・ムベキ大統領とマント・シャバララムシマン保健相という最有力政策決定者が、HIVがエイズの原因であることを否定していたためだ。金持ちはいい。金さえ払えば、私立病院でARVを買うことができる。しかし、国民の大多数を占める貧しい人々は、公立の医療機関頼みである。国会議員に特権でARVが支給される一方で、一般国民は見捨てられていた。金も薬もある豊かな国なのに、愚かな政策によって、36万5000人が無駄に命を落としたと推定されている。

その後、やっと国が政策転向し、ARVが国民に支給されるようになった。ところが、最近思ってもみなかった問題が。。。

エイズ患者を狙った強盗事件が、全国で毎週100件は起きているというのだ。目当ては患者が持つ薬、ARV。

その原因は、今はやりのカクテル麻薬「ウーンガ」(whoongaまたはwunga)。マリファナ、ARV、ネズミを殺す劇薬の成分などを混合したもので、既に数千人の中毒者がいるという。1錠のお値段は、15ランドから35ランド(200~400円程度)。中毒になると、1日に7錠以上服用する。

麻薬シンジケートにとって一番の問題はARVの入手だ。処方箋がないと買えない。手っ取り早い手段として、薬を持っているエイズ患者が狙われる。

エイズ患者だけではない。診療所や配達トラックも、強盗の対象となる。政府は現在、約4000箇所で約70万人にARVを支給している。つまり、強盗の対象となるのは、全国で70万人の患者、4000箇所の診療所、且つ4000箇所に薬を配達するトラック、と膨大な数にのぼる。これでは、警察もお手上げだ。ロビー団体TAC(Treatment Action Campaign)の話では、ARVをシンジケートに売る看護婦までいるという。

中毒とは恐ろしいものだ。リバヒリセンターなどによると、中毒者の中には、薬の材料であるARVを確保するために、意図的にHIVに感染した者もいる。薬を買う資金稼ぎのために、10代の妹を中毒患者にして売春させた者もいる。

そうでなくても、せっかく軌道に乗り始めた南アのエイズ対策には、暗雲が待ち受けている。ロジスティックな問題と人材不足のために、薬を必要とする人の8割にARVを支給するという目標が、来年達成できないかもしれないというのだ。

ARV強盗で一番困っているのは、40万人以上が国からARVの支給をうけているクワズールーナタール(KZN)州。ジェイコブ・ズマ大統領のお膝元である。かつての日本だと、総理大臣の出身地に高速道路や新幹線が作られたものだが、さて、ズマ大統領は?

(参考資料:2010年11月28日付「Sunday Times」など)

0 件のコメント:

コメントを投稿