そんな熱い思いで、アフリカ数学研究所(African Institute for Mathematical Sciences:略称Aims)がケープタウンに設立されたのは、2003年のこと。西ケープ州の3大学(ケープタウン大学、ステレンボッシュ大学、西ケープ大学)とヨーロッパの有名大学3校(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、パリ大学)の共同事業である。
HPによると、目的は次の3点。
- アフリカにおいて、数学と科学を啓蒙する。
- 才能ある学生と教師をリクルートし、トレーニングする。
- アフリカが教育、研究、技術の面で率先できるキャパシティ作りをする。
将来的には、同様の研究所を他のアフリカ諸国にも設立したいという。
Aimsが誇るのは、大学院レベルのコース。授業料無料。1年でディプロマ(diploma)が取得できる。ディプロマは学士号、修士号、博士号といった学位(degree)ほど重みはないものの、立派な資格である。希望する生徒には、上記6大学が協力して、修士号や博士号も提供する。
これまでAimsでディプロマを取得したのは、アフリカ30か国からやってきた305名。うち、南アフリカ人は僅か13名。
今年の応募者は306人。合格したのは21か国53人(うち女性15人)。かなりの難関だが、南ア人はなんと、ゼロ!
もともと、南アの学生に数学は人気がない。アパルトヘイトが終わって急増した黒人学生の多くは、文系で学位を得て就職することを好む。どこの大学も、理系、特に数学を専攻する学生を獲得するのに苦労している。
南アの小中学生が数学・理科を不得意とするのは、周知の事実。国際的なテストがあるたびに、メディアから揶揄されている。1995年から4年ごとに行われているTIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study)は、4年生と8年生(日本の中学2年生)の数学と理科の学力を測定しているが、南アは8年生のみ参加。2003年は46か国中、数学も理科も最下位だった(Highlights from the Trends in Internaitonal Mathenatics and Science 2003)。よほど恥ずかしかったのか、2007年は参加していない。
とは言っても、アフリカで最も豊かな国である。大学生の数も多い。それなのに、今年Aimsのディプロマコースに応募した南ア人はたった1人。それも合格レベルに達していない学生だった。
Aimsに予算をつぎ込んだ南ア政府は、当然のことながら不満だ。科学技術省はこれまで1300万ランドの補助金を出した。高等教育省は2007年から1000万ランド、更に今年、「南ア人学生を増やす」という条件付きで、4年分1200万ランドの援助を与えた。南ア人ゼロの研究機関に税金をつぎ込むのはおかしい、というのは正論だろう。
だが、Aimsを責めるのはお門違いである。Aimsが受け入れるのは、大学院レベルの学生だ。小学校レベルから、理科や算数が好きな子供を育てる教育に力を入れる必要がある。一番の問題と言われる教師の質を向上させ、おそまつな授業内容を改善しなければならない。これは、政府、特に基礎教育省の管轄だろう。
Aimsのバリー・グリーン(Barry Green)所長によると、南ア人応募者が少ない理由のひとつは、Aimsの学校年度(9月から)と南ア大学の学校年度(1月から)が異なること。そのため、入学時期を2回に増やすことを計画中だという。
次世代の科学者がアフリカから大量に生まれるのは、いつの日のことか。
AimsのHPは、こちら。
African Institute for Mathematical Sciences
(参考資料:2010年11月12日付「Mail & Guardian」など)
0 件のコメント:
コメントを投稿