頭には雄鶏のようなカブリモノ、体には白いコルセット、腕には赤い長手袋、足には7インチのハイヒール。変態っぽくても、何を着ようが個人の勝手でしょ・・・と言いたいところが、問題はそれしか身に着けていなかったこと。しかも、ペニスは生きた雄鶏と紐で結ばれていた。
雄鶏の名前は「フランク」。フランクとスティーヴンはエッフェル塔の前で10分踊ったところで、警察に取り押さえられてしまったのある。
(「Sunday Times」より) |
「パフォーミングアート」(performing art)と言葉は似ているが、ごっちゃにしてはいけない。「パフォーミングアート」が演劇、ダンスといった「舞台芸術」を指すのに対し、「パフォーマンスアート」は「時間」、「空間」、「パフォーマー」、「パフォーマーと観客の関係」という4つの要素が存在すれば成り立つアートだ。かなり曖昧な定義だが、実際かなり曖昧な、結構なんだってありのアートなのである。「コンセプチュアルアート」(conceptual art)のひとつだろう。
「コンセプチュアルアート」というのは、従来のビジュアルアート(visual art)を構成してきた「美しさ」とか「素材」とか「題材」より、「アイデア」や「コンセプト」を重視するアート。従来のアートでは、アーチストが絵、版画、彫刻などを「自分の手で作る」ことが前提だが、コンセプチュアルアートでは既製品を使ってもOK。例えば、イケアで買ってきた椅子に独自の題名をつけ、「インスタレーション」(installation)として展示したって通用するのだ。
註)インスタレーション絵が描けなくても、彫刻ができなくても、超怠け者でも、アイデアひとつで「あなたもアーチストになれる」わけだ。「そんなのズルイ!」(人によっては「やったね!」)と叫びたくなるのも、ごもっとも。しかし、美術関係の大きな賞を取るのは概ねインスタレーション、逆に言うと、インスタレーションでなければ、賞が取れない、というのが近年の現実なのだ。
絵画・彫刻・映像・写真などと並ぶ現代美術における表現手法・ジャンルの一つ。ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術。(『ウィキペディア』より)
(勿論、インスタレーションを手掛けるアーチストが怠け者、というわけではありません。インスタレーションが今の潮流というだけです。念のため。)
ともあれ、従来のアート以上に、観る人の主観によって作品の評価が大きく異なるのが、コンセプチュアルアートの特徴ではないか。
話をスティーヴン・コーエンに戻す。
1962年8月11日生まれの51歳。1984年、ジョハネスバーグのヴィッツ大学で学士号取得(専攻は心理学と英文学)。1985年、ケープタウンの私立美術学校(Ruth Prowse School of Art)に在籍した後、1985年-1987年兵役。1997年にパフォーマンス開始。現在、フランスのリールに住む。
派手な衣装をつけ、裸体に近い姿で人前に現れるのが、代表的なコーエンのアート。その中核をなすのは自分自身。「白人」「ホモセクシュアル」「ユダヤ系」「南アフリカ人」、そして最近加わった「老齢化」。どれもが「憎まれる要素」という。
(テキサス大学HPから。2010年のパフォーマンス) |
今回逮捕された「作品」は、パリのアート財団「ラ・メゾン・ルージュ」(La Maison Rouge)の依頼によるグループ展「マイ・ジョーバーグ」(My Joburg。つまり「私のジョハネスバーグ」)の一部。
フランスの弁護士によると、「このパフォーマンスにより、コーエンは、生まれた国、南アフリカと現在住んでいるフランスという、ふたつの国に引き裂かれた自分の状況を表現したかった」という。・・・う~ん、良くわからない。。。
コーエンがパフォーマンスを行った広場は1948年12月10日、「世界人権宣言」(Universal Declaration of Human Rights)が採択されたシャイヨ宮(Palais de Chaillot)の前。「僕のアートは政治的」だから「芸術と政治が交わる」この場所を選んだ、という。・・・う~ん、まだ良くわからない。。。
『サンデータイムズ』(Sunday Times)紙の取材に応えて、コーエンはこう語っている。
「(僕のパフォーマンスは)色々な方角に同時に引っ張られることを表している。」
「こんなに長い時間勾留され、辱められたことは今までかつてなかった。」「10時間(の拘留時間)の間出来たことは、自分の良心を吟味し、決意を新たにし、ヨガをすることだけだった。」
「ここフランスに僕を引き留めるものはないけれど、南アフリカに戻れるかどうかわからない。一度戦った戦いをまた戦わなければならないだろうから。」
「今、僕が安全に感じることができる場所はどこにもない。世界が突然、暗黒時代のように感じられる。フランスはアートにとって良い国かもしれないが、今世紀は駄目だ。」
「今まで色々変わったことをしてきたが、これほど奇妙な経験はない。正義に対する信頼が揺るがされた。」
・・・う~ん。まだ良くわからない。
公共の場で性器をさらすという法律違反を犯し、民主国家の警察に逮捕され、10時間拘束されただけではないか。国民の大多数に人権がない国で、国民の自由のために27年も監獄に入っていたマンデラなどのことを考えると、ジコチューのナルシスト、我儘な子供みたいだな~。
それに、「コンセプト」がある「アート」だから、逮捕は不当、というのは傲慢なような気がする。大体、スティーヴン・コーエンのような有名人ではなく、無名のアーチストだったら、いくら「アート」と主張しても、単なる「変態」扱いであろう。スティーヴン・コーエンだから、世界的なニュースになり、アート界や人権団体が激怒し、複数のフランスの高名弁護士が弁護を買って出たのだ。
それに、いくら表現の自由と言われても、いくら「アート」と言われても、もし私に小さい子供がいて、冒頭に述べたような恰好をしたおじさんがいきなり子供の前に現れ、踊り出したら、警察を呼びたくなるよな~。
「アート」の定義が広くなった今、「表現の自由」が規定する範囲の線引きが難しくなっている。
(参考資料:2013年9月15日「Sunday Times」など)
【関連HP】
スティーヴン・コーエンの経歴
Ruth Prowse School of Art
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