諏訪路家のお父さんは浪費家で女好き。家計は火の車。子供たちは今晩の食事にも事欠くのに、一向に気にする気配がない。
さすがに自分のお小遣いにも影響が出て来たため、銀行に融資を求めた。うまいこと、家計を建て直すという条件付きで融資の約束を取り付けたが、お父さんが一向に約束を守らないことから、銀行はあきれて手を引いた。
他にお金を貸してくれる友達もいない。困ったお父さんは、隣に住むお金持ちのお兄さんに泣きついた。諏訪路家には寛大なお兄さん、今回も助けてくれるという。胸を撫で下ろしたお父さんは更に大胆になった。お兄さんが貸してくれるお金の2割近くを、「手数料」として自分にくれというのである。。。
「手数料」というのは、何らかのサービスを供与した代償に受け取る。金融機関に払う手数料や、うまく口をきいてもらったお礼の「袖の下」もあるだろう。融資したいという人が沢山いる中から、特定の人に便宜を図ったお礼として「手数料」をもらうのなら、法律違反とはいえ、世の中にはよくあることに違いない。
しかし、お兄さんだって、貸したくて貸しているのではないのである。誰も諏訪路家にお金を貸してくれず、あまりにも困っているから、家族の一部の反対を押し切って、貸してあげようというのに、手数料を寄越せとは! しかも、貸してもらったお金だって、大半は自分が使うのだろうに。。。
こんな摩訶不思議なことが実際に起こっている。
諏訪路家のお父さんはスワジランドの国王ムスワティ3世(Mswati III)。お兄さんは南アフリカ。銀行は世界銀行である。
実は、アフリカ開発銀行(ADB)や国際通貨基金(IMF)にも、融資を断られている。過去に、融資条件として指定された財政改革を行わなかったからだ。民主国家でないので、欧州連合(EU)の融資対象にはならない。
最後の頼みの綱が南アフリカ。
もともとスワジランドの歳入の60%以上は、南部アフリカ関税同盟(SACU:Southern African Customs Union)から出ている。
SACUは南アフリカ、スワジランド、レソト、ボツワナ、ナミビアの5か国が加盟。この5か国に外国から支払われる関税を南アが徴収・管理し、加盟国に振り分ける仕組みになっているが、スワジランドは地域経済への貢献度に比べ、受取額が多いとされる。つまり、「まっとうに稼いだお金」というより、「援助」の色合いが強いのである。
SACUの圧倒的経済大国は南アだから、SACUの割り当て金は南アの経済状態に大きく影響される。昨年、南アの不況により、SACUからの収入が3分の2近く減ってしまった。
それでなくても、国民の4分の3近くが1日2ドル以下で暮らす貧しい国。失業率40%。HIV感染率世界一。平均寿命36歳。増税などして、国民に多大な経済的貢献を求めるわけにはいかない。一番手っ取り早いのは、王様が節約すること。
なのに、ムスワティ王は、国家予算中に占める王家の予算を、2010年度の2400万ドルから、今年度は3000万ドルへ大幅増。そして、南アから5年間に24億ドルの融資を取り付け(利子率5.5%)、うち4億ドルを「手数料」として要求しているのである。
プラヴィン・ゴーダン(Pravin Gordhan)南ア財相は「返金はSACUの割当額から差し引くから、取りっぱぐれはない」と説明しているが、南アの経済が回復して、SACUの配当金が急増しない限り、スワジランドの財政難は続くわけである。少なくとも、在位25年とはいえ、まだ43歳で健康そのもののムスワティ王が、絶対君主として居座っている間は。。。
(参考資料:2011年8月27日付「Saturday Star」、2011年7月30日付「The Economist」など)
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