2014年10月13日‐15日、ケープタウンで第14回「ノーベル平和賞受賞者世界会議」(World Summit of Nobel Peace Laureates)が開催される。民主化20周年記念ということで、南アフリカが初めて開催地に選ばれた。南アフリカでノーベル平和賞を受賞したのはこれまで4人。解放運動の指導者アルバート・ルツリ(1961年)、アパルトヘイトに反対した聖公会大主教デズモンド・ツツ(1993年)、アパルトヘイト撤廃と民主主義への平和的移行に貢献したネルソン・マンデラとFWデクラーク(1993年)だ。第14回会議は昨年末亡くなったネルソン・マンデラを偲ぶ大会になる予定という。
1989年にノーベル平和賞を受賞した、チベットのダライ・ラマも当然招待された。ところが、南アフリカ政府に査証を申請したところ却下されてしまった。そこで、他のノーベル平和賞受賞者が入国許可を求めたものである。
嘆願書簡に署名したのは、ポーランドの労働組合指導者・元大統領レフ・ワレサ(「ヴァウェンサ」の表記も有)(Lech Walesa)、バングラディシュのグラミン銀行創始者ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)、イランの弁護士・人権活動家シリン・エバディ(Shirin Ebadi)、リベリアの平和活動家レイマ・ボウィ(Leymah Gbowee)、北アイルランド和平に貢献したディヴィッド・トリンブル(David Trimble)とジョン・ヒューム(John Hume)など。
(Collective Evolution) |
ダライ・ラマのジョハネスバーグでの講演会を聞きに行ったことがある。1996年と2004年のことだ。その間、もう一度南アフリカを訪れているので、ダライ・ラマは民主国家南アフリカを3回訪問していることになる。しかし、2009年、ジョハネスバーグの平和会議に出席しようとしたところ、査証が下りなかったという。更に、2011年、デズモンド・ツツの80歳の誕生祝賀会出席のための査証申請も却下された。
2004年と2009年の間に何があったのか。
中国の台頭である。
アパルトヘイト政権はふたつの中国のうち台湾を認めていた。それが、1998年1月1日、ANC(アフリカ民族会議)政権は大陸中国に正式に乗り換える。その後、中国の対南ア経済進出は目覚ましく、2010年には遂にアメリカに取って代わって、南アフリカの最大貿易相手国となった。昨年度、中国からの輸入は1540億ランド(約1兆5400億円)、中国への輸出は1160億ランド(約1兆1600億円)。
南アフリカ政府は「ダライ・ラマの査証申請を却下していない。申請は公平に考慮する。しかし、ダライ・ラマ自身が査証申請を取り消した」と主張している。
しかし、プレトリア駐在のチベット代表がラジオで語ったところによると、南ア外務省から「査証を発行できない」という電話があった。理由は「国益」(national interest)。「中国との関係にヒビが入るから」。それで、どうせ無理なら、と申請を取り下げたのだ。表向きは「申請取り下げ」だが、事実上は「申請却下」である。
南アフリカ政府の卑屈な態度は「中国の経済力が強大だから」とか、「最大貿易相手国だから」とかいう理由では説明できない。GDP世界一のアメリカ合衆国が最大貿易相手国だった時代、ANC政権はアメリカに対し、身の程知らずの傲慢な態度で臨むことが多々あったからだ。また、中国は日本にとっても最大貿易相手国だが、ダライ・ラマは何度も訪日している。中国との関係悪化を心配して、日本政府が査証を出さないなんてことはない。
中国のアフリカ進出、特に大きなプロジェクトは官民が一体となり、賄賂でアフリカ各国の政府高官を抱き込んだものと見られることが多い。南アフリカも例外ではない。かつての最大貿易相手国アメリカと、現在の最大貿易相手国である中国の違いは、政治家・役人を金で取り込んでいるかいないかの違いではないか。
法制化された酷い人種差別の歴史を乗り越えた南アフリカは、残念ながら人権尊重のチャンピオンではない。人権を蹂躙する国家に対する国連決議に、しばしば反対・棄権している。「貧乏になるために解放運動に参加したわけではない」と豪語したANC政治家がいたけれど、それが本音だろう。情けないな~。
さて、ノーベル平和賞受賞者世界会議まであと3週間。ズマ大統領はノーベル平和受賞者の公開書簡にどんな回答をするのだろうか。それとも、黙殺してしまうのだろうか。
(参考資料:2014年9月4日付「The Star」、9月5日、16日付「The Times」など)
【関連ウェブサイト】
World Summit of Nobel Peace Laureates
14th World Summit of Nobel Peace Laureates
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所
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南ア政府がダライ・ラマの入国を認めないことに抗議して、3人と1団体のノーベル平和賞受賞者がケープタウン大会の出席を取りやめた。キャンセルしたのはアメリカの政治活動家ジョディ・ウィリアムズ(Jody Williams)、イランの弁護士・人権活動家シリン・エバディ(Shirin Ebadi)、リベリアの平和活動家レイマ・ボウィ(Leymah Gbowee)、それに1997年、ジョディ・ウィリアムズと共同受賞した地雷禁止国際キャンペーン(International Campaign to Ban Landmines)。
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