飼い猫、それも老猫にしては超硬派。可愛げがないこと、この上ない。しかし、ネルソンの半生を知れば、そんなタフガイになってしまったのも頷ける。
ネルソン(Get It Durban) |
生まれはブラジルの港町、カベデロ(Cabedelo)。トラックの荷台で生まれたらしい。母親が生後数日の子供たちを安全な場所に移そうしたとき、一家は犬の群れに襲われる。騒ぎを聞きつけ駆けつけたのは、ケープタウン出身のヨットマン、ボブ・ヘイワード(Bob Hayward)さん。猫一家は皆殺しに殺されてしまった。溝に身を潜め、九死に一生を得た子猫を除いて。。。
ボブさんは子猫をキャスパー(Caspar)と名づけた。それから2年半の間、キャスパーは「ディファイアント」(Defiant)号のマスコットとして、ボブさんと大西洋を股にかける。ブラジルのレシフェ、サルヴァドール、アレイアブランカ・・・。セントヘレナ島、アセンション島、トリニダード・トバゴ・・・。
ある日のこと、アレイアブランカの町に繰り出したキャスパーが戻って来ない。クリスマスが過ぎる。正月が過ぎる。ボブさんが血まなこになって探すが、キャスパーの姿はない。とうとう、ケープタウンに帰郷する日がやってきた。船着き場に繋いだヨットのロープをゆるめる。子猫の頃から苦楽を共にしてきたキャスターを置いてきぼりにするなんて、心が重い。さようなら、キャスパー。
別れを告げた直後、なんとキャスパーがヨットに飛び乗って来た! ボブさんは満面の笑みを浮かべ、アレイアブランカを後にする。
しかし、喜びは長く続かなかった。2001年2月、大西洋で嵐に遭遇! それも、2回! マストが折れ、傷み切ったヨットは大海原を漂流し始める。やっと通りがかりの船に救助されたのは、40日後のことだった。助けてくれたのは、偶然にも日本の船! ダーバンに向かう途中の、商船三井の巨大な自動車船だったという。
3月21日、ダーバンに到着。迎えに来てくれたのは、古くからの友人ジル・インドリオ(Jill Indrio)さん。全財産をつぎ込んだ「ディファイアント」号を失ったボブさんは、「ディファイアント」号を思い出させるキャスパーと別れ、ケープタウンに戻ることにする。かくしてキャスパーはジルさん宅に留まり、ギャスパー(Gaspar)という新しい名前を与えられる。見知らぬ大陸、見知らぬ環境で、見知らぬ家族との人生が始まった。
ジルさん宅で自由気ままな日々を送るギャスパー。だが、平穏の日々は続かなかった。2008年、ジルさんが捨て犬2匹を貰ってきたのだ。犬には苦すぎる思い出があるギャスパーは、ジルさんの犬と喧嘩し、新たなトラウマを受けて家を出る。ジルさんの必死の捜索にも関わらず、ギャスパーが姿を見せることはなかった。
一方、ノーラ・ミッチェルさんは飼い猫サミーを失ったところだった。ノーラさんは「もう猫はたくさん」と思っていたが、夫のディヴィッドさんは寂しくて猫を飼いたくて仕方がない。ノーラさんに内緒で定期的に近くの獣医に出向き、掲示板をチェックしていた。
そんなある日、なかなかハンサムな黒猫の写真に心惹かれる。「拾いました。飼い主を探しています」とのこと。「この猫だ!」と思ったディヴィッドさん。ノーラさんを説得し、張り紙の番号に電話する。飼い主は見つかっておらず、拾い主にはこれ以上飼うことができないという。7月18日、猫と対面。お互いに気に入ったようだ。猫はミッチェル夫婦に貰われ、「ネルソン」と命名された。
ネルソンの犬嫌いは収まらない。また(といってもミッチェル夫婦に知るすべはないが)、犬と喧嘩し負傷してしまう。治療のため獣医に連れて行ったノーラさんの目に止まったのは張り紙の写真。ネルソンだ! 「最愛の猫ギャスパーを探している」とあるではないか。
電話したところ、どうも聞き覚えのある声。なんとジルさんはノーラさんの古い友人だった。ふたりは25年ぶりに再会する。まさかこんなに近くに住んでいたなんて! ネルソンはノーラさん宅に留まることになる。
ノーラさんはボブさん、ジルさんから話を聞き、自分でもリサーチしてネルソンの伝記『Just Call Me Nelson』(ネルソンと呼んでくれ)を書き上げた。
波乱万丈の人生を送ってきたネルソン。猫は9つの命を持つというけれど、ほとんど使い果たしたのではないか。このまま安楽に天寿をまっとうできそうでなによりである。
ネルソンとネルソンの伝記を手にするノーラさん(Sunday Times) |
【参考資料】
"Nelson's legend in his own 11 lifetime"(2016年11月20日付「Sunday Times」)
"An incredible journey"(2016年9月7日付「Get It Durban」)
"The adventures of Nelson, a Berea rescue cat"(2016年5月12日付「Berea Mail」)
【関連記事】
働くアフリカのネズミたち 地雷撤去のヒーロー (2014年3月3日)
親友は身長2メートル 「キリン乗り」の特訓中 (2012年9月15日)
「捨て犬を救え!」 世界を飛び回る雑種犬「オスカー」(2012年4月20日)
0 件のコメント:
コメントを投稿