10年前、中国で映画の撮影中、中国政府に夕食に招待された。まず出て来たのは、フカヒレのスープ。高級食だが世界の中国人の経済力拡大に従い需要が急増し、毎年数千万匹のサメがこのために殺されているとして、アメリカではフカヒレ採取目的のサメ漁は全面禁止となっている。
乱獲自体問題だが、生きたままヒレだけ切り取ったサメを海中に放り込み死ぬに任せる、という映像が巷に流れ、動物保護団体などの怒りを買った。(自分が麻酔なしで鼻とか、耳とか、腕とかをナイフで切り取られ、海に放り込まれるのを想像すると、非常に苦しそうだ。サメは声を出さず、表情もないので、どのくらい知覚しているかはわからないが、神経があるのなら痛いはず。。。しかも、人間と違って、水中で呼吸できるから、死ぬにも時間がかかるかも。。。)
ジャッキー・チェンは、高級スープの材料とするためにサメを乱獲することに反対している。ただ、そこは人格者と言おうか、外交上手の中国人と言おうか、招待してくれた相手に「動物保護!」を声高々にお説教したりせず、「フカヒレスープは好きじゃないんで、他のスープに替えてもらえませんか」と丁寧にお願いしたとのこと。
2度目に中国政府から招待があった時は、メニューにフカヒレスープはなかったとか。
そんなジャッキー・チェンも子供の頃は違った。伝統的な治療法を素直に受け入れていた。トラの骨から作ったオイルを塗れば、打撲傷が治ると信じていた。フカヒレスープを飲めば、肌が丈夫になり、体が柔らかくなると信じていた。サイのツノはガンを治すと信じていた。ブタの脳みそを食べれば、頭が良くなると信じていた。
ジャッキー・チェンが野生動物保護に関わり始めたのは1996年。南アフリカで映画をロケ中だった。撮影していたのは『フー・アム・アイ?』(Who Am I?)。
「フー・アム・アイ?」のポスター(Wikipedia) |
南アフリカのジャッキー・チェンの元に、野生動物保護団体「ワイルドエイド」(WildAid)のエグセクティブディレクター、ピーター・ナイツ(Peter Knights)から支援を求める手紙が届く。
ナイツは正直言って、返事が来るとは思っていなかった。「数撃ちゃ当たる」論理で、沢山のセレブに手紙を出していたのだろう。しかし、3日後、ジャッキーから「私に何が出来ますか?」という返事が届いて驚く。
後になって、ジャッキー・チェンはピーター・ナイツに「私がサイやゾウに囲まれて、南アフリカで撮影していたことをどうして知っていたのか?」と尋ねた。勿論、ナイツは知らなかった。そして、こう答えた。「運命に違いない。」
それ以来、ジャッキー・チャンは中国で、「象牙を買うのをやめよう」「サイのツノやトラの骨などが病気を治すと信じるのをやめよう」と国民に呼びかけるTVコマーシャルに出演している。
「政府に言われても耳を貸さない人でも、相手がセレブだと信じるんだ」とジャッキー。「だから、もっと多くのセレブを巻き込む必要がある。」
ジャッキー・チェンはワイルドエイド制作のコマーシャルを自分のノートパソコンに入れて、出会った人に見せている。「僕が言えば、皆信じてくれる。『こうやってゾウは殺されるんだ』と映像を見せると、『え~!!』っとショックを受ける。」「『僕の言うことを信じれくれ。これは間違ったことなんだ』と教えれば、時間はかかるが、正しいメッセージを信じるようになる。」
欧米で野生動物保護に熱心なのは大抵リベラルな人々だが、ジャッキー・チェンは政治的には保守的で、中国共産党寄り。2013年には、中国政府の諮問機関のひとつ、「中国人民政治协商会议」(Chinese People's Political Consultative Conference)のメンバーに任命されている。(「协」は「協」、「议」は「議」)
政府の力が強い中国で野生動物保護の考えを広めるには、保守的であることは強みかもしれない。
中国政府はジャッキー・チェンの様々なプロジェクトに好意的。「サイのツノ不買運動」コマーシャルを放映した際、プライムタイムにも関わらず、料金をタダにしてくれたという。
さて、絶滅の危機に瀕している動物の中で、窮状をあまり耳にしないものの、とても気になっているのがジャイアントパンダ。毛皮を求めて乱獲されたり、生息地が少なくなったりして、野生で暮らすのは推定僅か約1600頭!
そんな中、最近、台北の公園に、1600頭の張り子のパンダが所狭しと並んだ。
(「サンデータイムズ」より) |
(参考記事:2014年2月23日付「Sunday Times」など)
【関連HP】
ワイルドエイド(WildAid)
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