Denise Rens/Oos-Kaap Plaaswerkers Opstand/Facebook (TimesLive) |
東ケープ州クラドック(Cradock)近くで撮影されたこの写真を、農場労働者の団体が1月19日フェイスブックに投稿し、ソーシャルメディア上で大反響が起こった。日本では「炎上」というのだろうか。
「黒人女性を家畜のように檻に閉じ込め、トラックの荷台に載せて運ぶなんて、運転手はレイシスト(人種差別主義者)の白人に違いない」という思い込みから、南アフリカのフェイスブックやツイッターなどで怒りの投稿、コメントの嵐が吹き荒れたのだ。
翌日いくつかのメディアが取り上げ、運転手と女性を個別に取材した。ふたりの話は一致している。
女性はリンダ・スティアンカンプ(Linda Steenkamp)さん(27歳)。無職。クラドックから60キロ離れた農場に住み込みで働くボーイフレンドと一緒に暮らす。現在3人目の子供を身ごもっている。1月17日、クラドックの診療所に行かなければならなかったところ、たまたま農場を訪れていたヨハン・エラスムス(Johan Erasmus)さん(41歳)が自分の車で連れて行ってくれた。助手席に座ることを薦められたが、トラックの荷台に乗ることには慣れていたし、とても暑い日だったので、荷台の方が風に吹かれて涼しいだろうと思い、自分で荷台に乗り込んだ、という。
ヨハンさんは農場経営者。荷台にはたまたま、子羊の体重を量る時に使う囲いが載せてあった。リンダさんは荷台の真ん中に陣取っている囲いの中に自分で入った。
「困っている人を助けようとしただけなのに、レイシストと非難されて困っている」とヨハンさん。
当事者ふたりの証言にも関わらず、非難の声は収まらない。荷台に乗せること自体、また進んで荷台に乗ること自体が、人種差別的関係の表れというのだ。「荷台の方が暑いに決まっている」とか、「進んで檻に入るわけがない」という、想像に基づいた断定的意見もツィッター上で数多くあった。
ケープタウン大学社会科学研究所(Centre for Social Science Research)のジェレミー・シーキングズ(Jeremy Seekings)所長は、「人種差別的な行動と親切心は共存できる。その一方で、人種差別を批判したり人種差別に反対する人たちが、不親切だったり意地悪だったりすることもある」という。「見知らぬ人を車に乗せてあげるのは、都市に住み、高価な車を運転し、人種差別に反対する人より、レイシストと見られている白人農家の方がずっと多い。」「人によって態度を変えることと、レイシストであることの区別は曖昧だ」。
アフリカ、特に田舎では、通り過ぎる車に便乗させてもらおうと道端に立つ人の姿をよく見かける。バスや乗り合いタクシーが頻繁に通らない田舎では、誰も車に乗せてくれなかったら、照りつけるアフリカの太陽の下を、何時間も歩かなければならない。そのような状況を知りながら、口では差別に反対する都会の人々は、ヒッチハイクをする貧しい人々の傍を高級車で通り過ぎがちだが、保守的でレイシストというイメージがある白人農家は、日常的に軽トラを止め、荷台に乗せてあげるというのである。人間を荷台に乗せること自体、今の世の中では人種差別的行為と見られる。しかし、その行為を生み出したのは、親切心なのだ。
世の中には、白黒と決めつけられないことがたくさんある。
そして、当事者の気持ちと傍観者の解釈が異なるのもよくあること。
もう15年くらい前のことだろうか。『読売新聞』アフリカ支局長夫人の記事が同紙に掲載された。白人ドライバーが飲みかけのコーラを黒人の乞食に渡していたと、筆者はとても怒っていた。「飲みかけのものをあげるとは失礼」というのだ。筆者の目に映った白人ドライバーは、明らかに「レイシスト」だった。しかし、果たしてそうなのだろうか。筆者は交差点で白人ドライバーが黒人にコーラを渡したのを目にしただけだ。ふたりから話を聞いたわけでもなければ、白人ドライバーが人種差別的発言をしたのを耳にしたわけでもない。
このドライバーには乞食を無視するという選択肢があった。実際、ほとんどのドライバーは信号で止まるたびに寄って来る乞食を無視する。だが、このドライバーは窓を開け、コーラを差し出した。自分も喉が渇いていたのに、困った人を見て気の毒に思い、少しでも助けたかっただけかもしれない。乞食は飲みかけであろうとなかろうと、コーラをもらって嬉しかったかもしれない。
勝手に道義心に駆られて、実情を知らないままに非難するのは危険である。簡単なだけに危険である。
(参考資料:2017年1月20日付「The Times」など)
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