2012/02/29

「人種差別」を理由に亡命する南ア白人たち

アメリカ合衆国在住のアフリカーナの一家が、必死になって国外退去処分に抵抗しているという。「身の安全」を恐れて名前は公表していないが、一家に雇われた弁護士レヒム・ババオグル(Rehim Babaoglu)氏は現在、「人種差別のため、南アフリカには戻れない」という家族の主張を裏付けしてくれる学者を探しているところ。

既に、テキサス州メンフィスにあるローズカレッジ(Rhodes College)のマーク・ベア(Mark Behr)教授とメンフィス大学のデニス・ラウマン(Dennis Laumann)博士に断られている。

ラウマン博士は弁護士からの依頼に、文書でこう回答した。

「人種差別がない民主的なアパルトヘイト後の南アフリカで、差別されると主張するアフリカーナを助けることに、私は全く関心がない。」「学者としての意見を言わせてもらえれば、一家がたとえどのような証拠を提示しようと、彼らの主張には全く根拠がない。」

ベア教授はアフリカーナだ。家は代々農家だったが、土地を失った経験を持つ。それでも、弁護士にこう語った。

「貴法律事務所が弁護しようとしている人々が人種差別の被害者だとしたら、それは悲しいことだが、作り物の人種差別、彼らの頭の中にしか存在しない人種差別だ。」

アパルトヘイト後の南アフリカを脱出しようという白人は、この家族だけではない。

1994年以来、約44万人の白人が国外に移住し、「難民」として外国に居住する南ア人は世界で800人と推定されている。

米国土安全保障省(Department of Homeland Security)の最新統計によると、2001年から2010年の間に、129人の南ア人が亡命を許可された。

ニュージーランドでは、2006年、48人の南ア人が難民申請をしたが、全員却下された。

ドイツでは、2009年から2011年の3年間、南ア人から9件の難民申請があった。

カナダでは、2006年から2011年の間に、18人の南ア人が難民として受け入れられた。

「南アでの人種差別」を理由にした、南ア白人による「難民申請」が注目を集めたのは、ブランドン・ハントレー(Brandon Huntley)氏に端を発する。

「7回も犯罪の被害に遭った」「白人なので南アでは職を見つけることができない」「南ア白人は黒人の憎悪に晒されている」「南アフリカ政府は白人を黒人から守ることに関して無力である」と主張。2009年、カナダで難民申請が許可された。ところが、この件がマスコミで大々的に取り上げられ、慌てたカナダ政府が再審査を行い、許可を取り消したのである。ハントレー氏が申請時に主張した「7件の犯罪被害」は、いずれも警察に届けられていないことが判明した。

しかし、ハントレー氏の弁護士、ラッセル・カプラン(Russell Kaplan)氏の事務所には、家族の身の安全を心配する南ア白人からの問い合わせが後を絶たない。

移民法の専門家、ゲイリー・アイゼンバーグ(Gary Eisenberg)氏は、難民申請を一笑に付することはできないという。「大学では白人学生の人数制限があり、企業では国の政策により、白人の雇用が難しい」からだ。

「こういった措置が、国家による人種差別支援と解釈されれば、イギリス、カナダ、アメリカなどの法律では、難民受け入れの対象になる。」

しかし、「犯罪」を理由としての難民申請には無理があるという。特定人種の攻撃を国家が容認していると証明するのは困難だからだ。それに、南アにおける犯罪の被害者の大多数は、人口の8割を占める黒人なのである。

それでも、アフリカーナ、特に農家の懸念には一理ある。

世界最高の殺人率を誇るのは、ホンジュラスのサンペドロスーラ。10万人当たり159人だ。ところが、南アの農家の殺人率は10万人当たり、なんと300人以上なのだ。そして、農家の多くはアフリカーナ。「白人だから」というより、「隣の家が遠く、広い敷地に暮らしているから襲いやすい」ことの方が理由としては断然ありえそうだが、被害者にしてみれば、そうは思わないのかもしれない。

また、アフリカーナとは、アフリカーンス語で「アフリカ人」を意味する。白人だが、祖国とは縁を切り、「アフリカ人」として土着した人々だ。つまり、南アのパスポートしかない。

アフリカーナ以外の南ア白人には、イギリス、ドイツ、ギリシャなど2重国籍を持つ人が多い。国外に出たくなったら、難民申請をする必要などない。また、2重国籍を持っていなくても、高学歴や特別なスキルを持つ白人は、まっとうな手段で海外に職を見つけ、労働ビザを取得して、国を離れることができる。

意識的に「アフリカ人」として、アフリカの土になる決心をした白人たちが、犯罪の多さや職のなさから南アフリカに住むことに不安・懸念を抱き、「難民」として国外に出ようとしているのは皮肉である。

(参考資料:2012年2月22日付「The Times」など)

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