カッコいいけど、この体格で声が出るの・・・?
・・・というのは、全くの懸念に終わった。
ヨナス・カウフマン(Jonas Kaufman)。今、人気絶頂のドイツ人テノールだ。演目はジュール・マスネ(Jules Massenet)の『ウェルテル』(Werther)。ゲーテの『若きウェルテルの悩み』をオペラ化したもの。
オペラというと、体格がとても良いおじさんやおばさんが歌うもの、と思って育ってきたが、最近、従来のオペラ歌手のイメージを打ち砕く、普通体格且つ見目麗しい歌手が目につくようになってきた。ウェルテルが恋するシャルロット役のソフィー・コッシュ(Sophie Koch)も絵になる。
残念ながら、南アフリカまでカウフマンやコッシュが来てくれたわけではない。METライブビューイング(英語では「Metropolitan Opera Live in HD」)のお蔭である。
METライブビューイングは、ニューヨークのメトロポリタンオペラ劇場でのライブをハイビジョンで録画し、世界中の映画館で上映するもの(アメリカとカナダは生中継)。初回は2006年12月、アメリカ、カナダ、イギリス、日本、ノルウェーの5か国だけだったが、人気が人気を呼び、今シーズン(2013-14)は世界6大陸(つまり南極以外すべて)全66か国の映画館にまで拡大した。日本でも、北は北海道から南は福岡県までの17か所で上映されているとのこと。
ハイビジョンで映画館の大画面にドアップで写ってしまうため、声の質量や歌の技量に加えて、演技力や役柄に合った容姿が重要になる。可憐な15歳の日本人少女(『蝶々夫人』)や若くして結核で亡くなってしまうヒロイン(『ラ・ボエーム』『椿姫』)が2重顎3重腹の、いかにも健康そうな中年女性では説得力がない。道ならぬ恋に悩み自殺してしまう繊細な青年ウェルテルを、晩年のルチアーノ・パヴァロッティが演じるのは無理がある。比較的スリムな主役級オペラ歌手が増えて来たのは、その辺りに理由があるかもしれない。
勿論、役によっては太っていても構わないものも多いから、恰幅のよいオペラ歌手の出番がなくなるわけではない。情熱的で肉感的なカルメンなど、太目で迫力がある方が良いかもしれない。『カルメン』の舞台を南アフリカに移した『ウ・カルメン エ・カエリチャ』(U-Carmen E'Khayelitsha)の主役ポーリーン・マレファネ(Pauline Malefane)はリアルだった。(この映画は「ベルリン国際映画祭」で最高賞の「金熊賞」を受賞している。予告編はこちらで。)
また、メットのライブHDになったりせず、舞台のみの場合は、体型・容姿が役柄に合っていなくても、それほど気にならないかもしれない。
しかし、普通体型でも、いい声、出せるもんなんですね~。「オペラは体力が要るから」とか「その方が声が響くから」などなどの理由で「太っている方が良い」と言われてきたのは、「幻想」「思い込み」「迷信」だったんだろうか。
METライブビューイングの次の演目は『ラ・ボエーム』(La Bohème)。ジョハネスバーグでは4月末に上映される。楽しみだ。
世界のMETライブビューイングの上映劇場は以下をご覧ください。
日本。アメリカ。カナダ。その他の国。
日本語のホームページは、上演オペラの説明だけでなく、オペラ用語解説まで載っていて親切丁寧。
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✤この投稿は2014年4月9日付「ペンと絵筆のなせばなる日記」掲載記事を一部変更したものです。
【関連ウェブサイト】
The Metropolitan Opera
METライブビューイング
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