2017/05/29

すべてはミツバチのために 後ろ向きで走るマラソンランナー

来週の日曜日(6月4日)、今年度のコムレイズ(Comrades)が開催される。クワズルナタール州のダーバン/ピーターマリッツバーグ間の約89キロを走る、世界最古・最長のウルトラマラソンだ。参加できるのは2万人だけ。世界60か国以上から走者が集まる。

今年の参加者のひとりに、変わったスタイルで走る人がいる。コムレイズを走るのは今回で5回目という、ファライ・チノムウェ(Farai Chinomwe)さんだ。ファライさんは後ろ向きに走る。後ろ向きに走ることで、世間の注目を浴び、ミツバチに対する意識を高めることが参加の目的。優勝など目指していない。

ファライさん(storytelling.co.za


ファライさんの人生、人柄はまさに自然体

生まれたのはジンバブエの南東部の町、マスヴィンゴ(Masvingo)。自然に囲まれて育った。誰もが楽器を演奏する村だったという。

2000年にケープタウンに移り、ラスタファリアン(Rastafarian)になる。

カリブ海、特にジャマイカで、アフリカを帰還すべき約束の地と定め、エチオピアのハレ・セラシエ(Haile Selassie)皇帝を黒人の救世主として崇拝する宗教・政治的運動を「ラスタ主義」「ラスタファリアニズム」(Rastafarianism)という。ハイレ・セラシエの本名「ラス・タファリ」(Ras Tafari)からつけられた名称だ。

ラスタファリアンとはラスタ主義の信奉者のこと。マリファナの使用と、ドレッドロックス(長髪を縮らせて細かく束ねたヘアスタイル)と、レイドバックな生き方で知られる。

ドレッドロックスといえばボブ・マーリー

ファライさんの改宗の理由は、「けばけばしいライフスタイルとは関係ない生き方をしたかったから」。

ケープタウン大学で商学を学びたかったものの、学資が集まらず断念。ジョハネスバーグに移動し、伝統的なジンバブエ音楽を演奏するバンドのメンバーになる。

ところが、お気に入りの太鼓にミツバチが住みついてしまった!「火攻めにして追い出せ」と皆に勧められたが、そんな可哀想なことはしたくない。何とか、優しく、安全に移動させることができないものか。良い手段を編み出したのは1年後。太鼓は巨大なハチの巣に変貌していた。

ミツバチと暮らし始めたファライさんは、ミツハチについて学び始める。そして、ハチミツという商業価値があるだけではなく、授粉に欠かせない存在であることを知り、プロの養蜂(ようほう)家になる決心をする。

ミツバチの移動・管理を行う会社「ブレスト・ビー・アフリカ」(Blessed Bee Africa)を設立。ハチミツも作っている。だが、近所に売る程度の規模。「最高品質のハチミツを作り、誰もが入手できるようにしたい」という夢が実現するまで、まだまだ道のりは長い。

さて、大学志望からミュージシャン、そして養蜂家と自然体で転進したファライさんだが、一体どうして、後ろ向きで走るようになったのか。実は、それも成り行きに身を任せた結果だ。

ある日のこと。夜中の1時に古ぼけたプジョーを運転していた。クライエント宅でミツバチの群れを回収した帰り道だ。トランクの中には怒り狂ったハチたち。突然、プジョーが動かなくなる。人里からちょっと離れた暗い道。助けてくれる人が通りかかる可能性は、こんな時間まずない。寒い。。。

坂の上まで車を押し上げることができれば、後は下りだ。なんとか家まで戻れる。

車に向き合って押すが、ビクともしない。ところが、後ろ向きになって、背中をつけて押すと、なんだかずっと楽! 

苦労すること2時間。やっと家に辿り着いた。ハチたちを新居に移し、疲労困憊して眠りにつく。翌朝目が覚めて驚いた。大腿四頭筋の調子がいい。実はランナーでもあるファライさんは思った。後ろ向きって、もしかしたら、すごいトレーニング? 「ミツバチのおかげで、素晴らしいトレーニングテクニックを発見したんだ。」 ハチさん、ありがとう!

後ろ向きに走ることで体力、持久力、バランスが鍛えられ、普通に走った時のパフォーマンスが大きく向上した

ミツバチの世話をしていない時は、毎日ランニングを欠かさず、できるだけマラソン大会に出場している。また、後ろ向き走法のパイオニアとして、月に一度、後ろ向き走法クリニックをジョハネスバーグで開催している。

後ろ向きで走るファライさん(storytelling.co.za

ファライさんは、本番でも後ろ向きで走ることがある。後ろ向き訓練法を教えてくれたハチたちへの恩返しのためだ。後ろ向きに走ることで注目を集め、ミツバチが環境にとって大切であることを一般の人々に知らしめ、募金を募り、都市部での巣箱を増やし、恵まれない家庭の若者に養蜂トレーニングを行うのだという。

ファライさんは、今年のコムレイズも後ろ向きで走る。

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ファライさんの動画。ジンバブエの楽器が素敵です。




【参考資料】
"Honey bee hero gets buzz from running backwards", Sunday Times (2017年5月28日)
"Running Backwards for Bees", Storytelling.co.za (2015年5月3日)

【関連ウェブサイト】
Blessed Bee Africa (フェイスブックページ)
Comrades (公式サイト)

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