マンデラが故郷のクヌ村に移ったのは今年7月。93歳の誕生日を前にしてのことだ。
2010年のサッカーワールドカップ閉会式以来、公の場に姿を見せていない。寝たきりながらも、元気らしい。とは言え、さすがに高齢。しかも、近年衰えが目立つ。次に南アフリカが世界的なニュースになるのは、恐らくマンデラが死亡した時。当然のことながら、多くの報道機関が準備に余念ない。
AP通信がマンデラ邸の道路向かい、ノクワネレ・バリズールー(Nokwanele Balizulu)さん宅にCCTVカメラを設置したのは6年も前の話。ロイターも2か月ほど前、やはりバリズールーさん宅にカメラを設置した。
このカメラが「法律違反」として、最近、南ア警察の特別捜査班に撤去された。
AP通信のスポークスマン、ポール・コルフォード(Paul Colford)氏によると、「他の報道機関同様、マンデラ死亡時に備えているだけ。監視用のカメラではなく、普段はスイッチも入っていない。」「ローマ法王ヨハネ・パウロ2世の時も、バチカンで同様の準備をした。」「カメラ設置時から、南ア当局は知っている」。AP通信は村にテレビスタジオも用意している。
こういったカメラがあるのは、バリズールーさん宅だけではない。クヌ村中に設置されているらしい。村を一望する丘の上に陣取っているのは、国営放送局SABCのもの。
2年前には、マンデラの孫でマンデラ家の跡取り、マンドラ(Mandla)が、「マンデラの葬式の報道権を300万ランドでSABCに売った」として問題になった。(マンドラとSABCは否定したが、真相は不明。)
AP通信とロイターが犯したとされるのは、1980年に制定された「国家重要地点法」(Natinal Key Points Act)。
政府の許可なく、「国家重要地点」に認定された建物などについての「いかなる情報をいかなる方法で提供した」(furnishes in ay manner whatsoever any information)者も、最高3年の実刑または最高1万ランドの罰金に処せられる、というもの。反アパルトヘイト運動や報道機関を念頭においての法律だ。
そして、大統領の家は「国家重要地点」、というのである。
ニューヨークに本部がある「ジャーナリスト保護委員会」(Committee to Protect Journalists:CPJ)のモハメッド・ケイタ(Mohamed Keita)さんは、南ア警察による今回の取り締まりを「皮肉」(ironic)という。
「アパルトヘイトを相手に闘った政府の警察が、アパルトヘイトの最も有名な被害者を守るという名目で、アパルトヘイト時代の残骸である、全く知られていない抑圧的な法律を持ち出している」からだ。
マンデラの活動を長年報道してきた地元のジャーナリストたちも、マンデラの家が「国家重要地点」とは知らなかったという。
自宅にカメラ設置を許可したバリズールーさんは、コサ族の首長のひとり。つまり、「伝統的権威」である。村一番の「伝統的権威」マンドラ・マンデラも、村人たちも、カメラの存在を知っていた。バリズールーさんに対するお咎めはないらしい。
何故、今になって、警察が騒ぎ立てたのか。それも、マンデラのプライバシーを侵害するわけでも、身の安全を脅かすわけでもないことに対して。。。
政府高官が関与した汚職その他のスキャンダルが大々的に報道されているのを受けて、南ア警察は最近、少なくとも4人の主要ジャーナリストを対象として、法律違反容疑の捜査を開始した。また、先月、国家情報保護法案が議会を通過した。
こういった一連の動きから推察して、今回の警察の行動は「汚職など政府に関するネガティブな報道をすれば、マンデラ葬式報道もさせない」という政府の脅しという見方もある。
益々心配な、南アの民主主義である。
(参考資料:2011年12月15日付「The Times」、12月17日付「CPJ News Alert」など)
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