6月24日の日本対デンマーク戦の会場は、収容人員3万8646人のロイヤル・バフォケン・スタジアム(ラステンバーグ)。72%の入りで、空席が目立っ た。「あなたがいなければ、かなり静かな応援席。ありがとう」と思わずブブゼラに手をあわせる。横断幕やコスチュームの派手さでは日本ファンがまさってい たものの、応援の人数は日本とデンマークが半々だった。
プレトリアに舞台を移した6月29日の対パラグアイ戦では、状況が一転。収容人数4万2858人のロフタス・フェルスフェルト・スタジアムに、3万 6742人のファンが集まった。席の86%が埋まった計算にる。
勝てるわけがないと思っていたデンマークを3対1で打ち破り、ベスト16に進出した日本代表。W杯オフィシャルシャツを着て、青と白に染めたアフロヘアのカツラをかぶった若い女性から、日の丸を振りまわしながら奇声をあげる老人、いかにもウソっぽいチョンマゲ、ヨロイ姿のお兄さんまで、ファンはノリにノッていた。
日本人だけではない。顔を白く塗り、安物のお土産っぽいポリエステルの着物を怪しげにはおった白人女性の一群。金髪をジェルで逆立てて、真っ白く塗った額 に赤でJAPAN、両頬に赤い丸を描きこんだ少年。「闘魂」ハチマキを得意げに締めたおじさん。圧倒的に日本を応援する人が多い。
南アフリカで、日本代表の知名度は低い。マスコミが取り上げるのは、ヨーロッパや南米の強豪ばかり。日本代表のニュースや情報は殆ど流れなかった。熱心な サッカーファンでもない限り、知っている日本選手の名前はせいぜい「ホンダ」。それも、車メーカーのおかげで覚えやすいからだろう。そこから連想して、 「カワサキ」とか「ヤマハ」とか勝手に叫んでいる。では、この日の人気はどこから?
第1ラウンドを勝ち残った16カ国のうち、半数が南米の国であることから、少数派のアジアの国を応援することにしたのか。世界ランキング30位のパラグアイと45位の日本のうち、弱い者に同情する判官びいきのためか。殆どの南ア人が具体的なイメージを持たないパラグアイと違い、中高年にはハイテク、若者にはアニメと、日本の一般的な知名度が高いためか。それとも、ハチマキ、キモノ、日の丸など、コスチュームに取り入れ易いという単純な理由だろうか。
PKによる惜敗後、スタジアムから駐車場までシャトルバスに乗った。満員バスの乗客は、8割黒人、1割白人、残りがインド系、カラード(混血系)、中国系など。南アフリカの人口構成の縮図となった。ふっきれないムードの中、太鼓を抱えた黒人のおばさんが「パラグアイは点を集めただけ。勝ったのは日本!」と変な節をつけて歌いだす。10歳くらいのインド系少年が「日本は負けたよ」と不思議そうな顔。「あんた、どこに目をつけてるの!」とおばさん。「さあ、みんなで歌いましょう! パラグアイは点を集めただけ。勝ったのは日本!」
2、3人歌い始めるが、残りはきまり悪そう。ついに、白人の青年が「僕だって日本を応援したよ。でも負けは負け。よく戦ったじゃないか。」おばさんと口論になった。周囲の人々も加わってカンカンガクガク。ブブゼラや太鼓まで参加し、バスの中は大騒ぎ。
その時、誰かがバス中に響き渡る太い声で「ビーバ、ジャパン、ビーバ!」 アパルトヘイト時代、解放運動の集会で「ビーバ、ANC、ビーバ!」「ビーバ、ネルソン・マンデラ、ビーバ!」とやったノリである。別の声が「ビーバ、バファナバファナ、ビーバ!」と南ア代表を称える。踊り始める人も出てきた。
そのまま駐車場まで15分、ブブゼラを持っている人は息が切れるまで吹きまくり、持っていない人は「ビーバ、ジャパン、ビーバ!」「ビーバ、バファナバファナ、ビーバ!」。騒々しいこと、この上ない。バスの中は熱気にあふれ、皆、なんとなく幸せな気分に。まさに、混沌の中の調和。様々な人種や文化が混在しながら、なんとなくひとつの国にまとまっている南アらしい一日の締めくくりとなった。
0 件のコメント:
コメントを投稿