世界のアントレプレナーシップについて研究・分析するNPO、グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM:Global Entrepreneurship Monitor)は2010年版報告書の中で世界59か国の実情を分析し、経済及びアントレプレナーシップの発達を「要因主導」(factor-driven)、「効率主導」(efficiency-driven)、「イノベーション主導」(innovation-driven)という3段階で説明している。
なんだか難しそうだが、「要因主導段階」にある経済は農業、鉱業、水産業、林業を主とし、労働力と天然資源に頼りがち。「効率主導段階」では工業化と規模の大きい事業が見られ、資本集約的(capital intensive)な大企業が闊歩。「イノベーション主導段階」は知識集約的(knowledge intensive)で、サービス業が発達する・・・
って、小学校だったか中学校だったか、大昔習った「第一次産業」「第二次産業」「第三次産業」を今風にカッコよく言い換えただけじゃないの? 「後進国」が「発展途上国」と呼ばれ、更に「要因主導経済」と、より「非差別化」されただけじゃないの?・・・と思うのは素人の浅はかで、実はディープな議論と考えがあってのことなのでせう・・・。
ともあれ、「要因主導段階」でインフラ整備とか、マクロ経済の安定化とか、医療や初等教育を徹底させるとかいった「基本条件」(basic requirements)が整うと、「効率主導段階」に進む。この段階の特徴として、高等教育や職業訓練、商品市場や労働市場の効率化、洗練された金融市場、技術発展などがある。最後の「イノベーション主導段階」では、起業家を対象にした融資や政策、起業家を育てるための公的な計画、起業しやすい環境などが存在するという。
GEMでは、分析した59か国をこの3段階と6か所の地理的地域に分類。(1)サハラ以南アフリカ、(2)中東・北アフリカ・南アジア、(3)ラテンアメリカ・カリブ海、(4)東欧、(5)アジア・太平洋、(6)西欧・アメリカ合衆国である。つまり、3x6=18の区分けができたわけだ。
サハラ以南アフリカの殆どの国は「要因主導段階」にある。唯一の例外は南アフリカで、「効率主導段階」に属する。
GEMは更に、「アティチュード」(Attitude:態度)、「アクティビティ」(Activity:活動)、「アスピーレーション」(Aspirations:野心)の3つの要因を分析している。(ゴロをよくするために、「A」で始まる単語を無理やり3つ並べたような気もするが・・・。)
「アティチュード」には「起業する機会があるか」「起業する能力があると自分で思うか」「失敗を恐れるか」「社会で起業家がどのように見られているか」「起業する意思があるか」などが含まれる。「アクティビティ」というのは「起業する」「続ける」「止める」。「アスピレーション」は「成長に対する期待」(5年後に何人雇用しているか)、「イノベーション」(提供する商品やサービスの新しさ)、「国際性」(起業した早い段階で、既に世界に羽ばたくことを考えているか)。
面白いことに、「要因主導段階」にある国の中で、「起業するチャンスがある」と思っている人の割合が一番高いのは、サハラ以南アフリカ。また、「起業する能力がある」と思っている人も、サハラ以南アフリカでは平均以上。当然、「起業する意思がある」人の割合も高い。(因みに、「企業するチャンスがある」と思っている日本人は5.9%で、59か国中最低。)
起業家に対するイメージが一番良いのも、「要因主導段階」にある国々。更に、サハラ以南アフリカ諸国は、18-64歳の労働人口のうち、起業して3年半以内の人の割合も、過去12か月の間に商売を止めてしまった人の割合も高い。
85ページあるGEM報告書を詳しく紹介する元気もないし、読む方もかったるいだろうから、「何故アフリカで大起業家が生まれないか」に関係ありそうなことだけ、以下かいつまむと・・・。
「要因主導段階」の起業は、仕事がないから必要に駆られて、というケースが多い。畑で野菜を作ったり、魚を取ったり、林の木を切ったりしたのを売ることにより、地元相手に商売する。雑貨店や靴の修理屋なども、これに含まれるだろう。商売が成功しても、インフラが整っていないので、商売を拡大するのは難しい。
一方、先進国ではインフラや教育などの基本条件が整っているのみならず、労働市場や金融市場などが洗練され、高度な技術もあり、更に、起業しやすい制度やサポートシステムが出来上がっている。リチャード・ブランソンやビル・ゲイツやスティーブ・ジョブやマーク・ズッカーバーグが生まれるはず・・・。
と、キレイに説明してあるが、はっきり言って、全然割り切れない。スーパーで売っているパック入りのササミのように、人工的で味気ない。
「先進国」でなくても、大成功した起業事例はあるはず。
大体、世の中って、そんなにキレイに段階を追って「進歩」「進化」するものだろうか。各国で地元の調査チームを使ったにしては、現実も、人間も見えてこない。
地下資源はうなるほどあるのに、私腹を肥やすことだけに精を出し、国や国民を顧みない政治家や、賄賂がはびこり、コネがないとどうしようもない社会といった、どろどろした現実は「要因」ではないのか。
私有地の概念がないため、土地を担保に融資を受けることができない、といった歴史的文化的要素は「要因」ではないのか。
何故アフリカで(コネのない)大起業家が生まれないのかを探っていくと、政治問題に発展する可能性が大きい。アフリカの人々にとっては難しいし、外部の人間だと「人種差別」「帝国主義」「新植民主義」のレッテルを貼られる可能性が高い。国家権力を恐れない、かなりの批判的精神と勇気がないと取り組めない課題であるような気がしてきた。
途方もないテーマに、足を踏み入れたものである。
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