2013/07/05

マンデラ対マンデラの戦い マンデラ家の跡取り、家族に訴えられる 遺体を勝手に墓場から移動

ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が入院して4週間を超えた。「critical but stable condition」という。「安定した危篤状態」って、変じゃない?

実は、放っておけば死んでいるところを、生命維持装置のお蔭で命をつないでいるのだ。

そんな中、今週の火曜日(6月2日)、マンデラ家の16人が跡取りのマンドラ(Mandla)を訴えた。それも「民事訴訟」ではなく「刑事訴訟」。穏やかでない。「罪状」は「法律に反して、勝手に墓地をいじくった」こと。

既に死亡しているマンデラの子供は3人いる。テンベキレ(Tembekile 1946-1969)、マハト(Makgatho 1950-2005)というふたりの息子、それに生後9か月で亡くなった娘マカジウェ(Makaziwe 1947)。いずれも最初の妻、エヴェリン(Evelyn)との間に出来た子供だ。

マンデラが育ったクヌ(Qunu)に埋葬されていたこの3人の遺体を、マンドラは無断で掘り返し、自分の住むムヴェゾ(Mvezo)に移動してしまった。16人は、その遺体を元の埋葬場所に戻すことを法廷に求めていた。先週、裁判所は遺体をクヌに戻すことをマンドラに命令。ところが書類に間違いがあり、「6月29日までに」という箇所を「7月29日までに」としてしまった。そのため、一日も早い遺体移動を求める家族が、生存するマンデラの子供の最年長、マカジウェ(Makaziwe 1953‐)を筆頭原告として「刑事訴訟」に踏み切ったのだ。

確かに、マンドラは法律を犯している。正しい手続きは、まず、家族の了解を得る。それから、墓がある村の長から「異議なし」「許可する」という書面を入手する。新たな埋葬先を管轄する首長の許可も必要。その後、家族が「死因」「遺体を掘り返す理由」などを明記した、詳細な許可申請書を保健省に提出。国と州から許可を得た後、葬儀屋を手配し、保健省と環境省の職員立ち合いの元に、遺体を掘り返し移動する。

それなのに、マンドラは法律を完全に無視し、家族にも相談せず、夜の夜中、勝手に遺体を掘り返して移動してしまった。2011年のことだ。

家族があせるのには理由がある。「子供たちが埋葬されていることを理由に、マンドラがネルソンの葬式・埋葬をムヴェゾで行おうとしている」と信じているからだ。ムヴェゾはマンデラが生まれた村。現在、マンデラ博物館の建設が進んでおり、世界遺産登録申請を検討しているという話もある。だが、マンデラ博物館は他にもあるし、「マンデラが成長し、引退した」クヌに比べると大きく見劣りする。マンデラの墓があれば、ムヴェゾを牛耳るマンドラにとって、莫大な観光収入が見込めるわけだ。

訴えた16人の中にはマンデラの現妻グラサ・マシェル(Graça Machel)、元妻ウィニー・マディキゼラマンデラ(Winnie Madikizela-Mandela)、存命中の子供3人全員が含まれる。つまり、マンドラを除くマンデラ家の有力者全員だ。普段は仲が良くないエヴェリン派とウィニー派が手を結び、その確執に距離を置いていたグラサまで名前を連ねるというオンパレード。

医師たちは、これ以上マンデラを苦しませないために、生命維持装置のスイッチを切ることを勧めている。しかし、「マンデラはクヌに埋葬されることを望んでおり、子供たちの遺体が近くにない現状では、尊厳のある死を迎えられない」と家族は主張する。

家族が裁判所に提出した書類には、次のようなコサ族の某首長の言葉が引用されている。

「マンデラの魂は安らかはでない。マンデラ家の人間の遺体がクヌで再埋葬されて初めて、祖先の魂がなだめられる。そうなって初めて、タタ[マンデラのこと]を(あの世に)送り出すことが出来る。また、マンドラ自身が先祖に許しを乞わなければならない。埋葬場所に行って、祖先に懇願する必要がある。これこそ、タタが死にきれない理由だ。」

先の裁判所の命令を覆そうというマンドラの訴えは、同じく6月2日却下され、翌6月3日、裁判所の命令で、マンドラの自宅から、3人の遺体が運び出された。墓石どころか、なんの印もなかったという。父親、叔父、叔母の墓なのに、マンデラ家の跡取りには祖先を敬うアフリカ人の心も、一族を率いる家長の責任感も、肉親を愛する息子の心遣いも感じられない。

クヌにあるマンデラの子供たちの墓(「スター」紙より)
この戦い、どう見ても、マンドラに分が悪い。

マンドラは「マンデラを使って金儲けをしようとしているのは叔母たちの方」と主張。「他家に嫁いだ叔母たちには、マンデラ家のことに口を出す権利はない」と息巻いている。更に、実の兄弟ムブソ(Mbuso)とアンディレ(Andile)を「父の実の息子ではない」と主張して縁を切り、母の違う兄弟ンダバ(Ndaba)を「父が人妻を妊娠させて生まれた子供」と罵った。

マンデラ家の戦いは、益々、泥沼化、矮小化されていっている。あ~、情けない。マンデラが安らかに永遠の眠りにつけるのは、一体いつになるのか。

(参考資料:2013年7月3-5日「Business Day」「The Times」「The Star」など)

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