2012/02/10

埋葬されたミュージシャン、2年後に「生還」!?!

南アフリカの音楽に「マスカンディ」(Maskandi)というジャンルがある。ズールー族の伝統的音楽に、ギターなど西洋音楽の要素を取り入れたものだ。ジョン・ベング(John Bhengu)、別名「プズシュケラ」(Phuzushukela)が1930年代に作り上げたとされる。

長年、西洋音楽界からも、アフリカ音楽界からも無視され、ズールー族の伝統の中に留まり続けたが、「白人ズールー」ジョニー・クレッグ(Johnny Clegg)のおかげでメジャーになった。

戻って来た「ムグメニ」
そのマスカンディのスター、クレカニ・クワケ・ムセレク(Khulekani Kwakhe Mseleku)、別名「ムグメニ」(Mgqumeni)が戻って来た。

「戻って来た」といっても、音楽活動を暫く休止していたとか、外国で活躍していたとかいう訳ではない。

墓場から戻って来たのである。

ムグメニは2009年12月19日、伝統的祈祷師師(traditional healer)が調合した「薬」を飲んだ後、死亡した・・・はずだった。

従兄弟のサキセニ・ムセレク(Sakhiseni Mseleku)さんは、ムグメニが死んだ現場にいた。「死体」を死体安置所に運んだのも、サキセニさんだった。「死体」はその後、家族の元に返され、手厚い葬式が行われた。衆人環視の中、ちゃんと埋葬されたのである。

「生前」のムグメニ
しかし、突然現れたこの男、「私はムグメニだ」と主張する。

2月5日、クワズールーナタール州の小さい村に詰めかけた数千人のファンを前に、男はこう語った。

「ゾンビが収容されている場所で、とても辛い目に遭った。地獄のようだった。逃げることに成功し、家族やファンの元に戻れて嬉しい。体力を回復したら、また歌うことを約束する。」

2年間収容されていた洞穴が、どこにあるかは覚えていないという。

「私がムグメニであることを疑う者がいることは知っている。しかし、自分ではない人間のフリをすることができる者などいない。」

ファンは拍手喝采。男を温かく受け入れた。

ムグメニと一緒に育ったという、親戚のボンガニ・ムンクベ(Bongani Mncube)さんは懐疑的だ。

「十分にリハーサルを重ねた偽物、犯罪者だ。疑いの余地はない。」「この男がムグメニでないことを証明するために、最高裁でまで争う用意がある。」

一方、ムグメニの祖父、フララリマンジ・クマロ(Hlalalimanzi Khumalo)さんは孫が戻って来て嬉しいという。

「初めは疑ったが、時が経つにつれて本人であることを確信した。家族はとても喜んでいる。」

ムグメニの妻もこの男を夫だと認めた。

賛否両論、DNA検査や死体発掘を求める声が高まる中、ついに警察が動き出す。

そして、男は「偽物」として逮捕された。

子供の時に生き別れになったとか、何十年も連絡がなく容姿が変わってしまったとかいう訳ではない。「死亡した」のはつい2年前のことである。五体満足な死体だって確認している。何故、妻や祖父はコロッと騙されてしまったのだろう。「信じたい」という気持ちが理性の鏡を曇らせたのだろうか。

家族はこれで正気に戻った、やれやれ、と思うのはまだ早い。

とある伝統的祈祷師師が「ムグメニは生きている」と家族に電話してきたのだ。

「本物のムグメニはジョハネスバーグにいる。真っ白なヤギを連れて来なさい。儀式を行ってから、ムグメニに会わせてあげよう。」

家族の大半は、またコロッと信じてしまった。だが、半信半疑のサキセニさんらの主張で、ヤギだけでなく、警察も連れて行った。

結果は・・・ムグメニはもとより、伝統的祈祷師の姿もなかった。

「こんなことが起こって、家族は辛い思いをしている。確かに埋葬したことを知っているからだ」とサキセニさん。

この男が偽物か本物かの議論はあっても、「埋葬した人間が生き返るはずないじゃん」「ゾンビなんかいるわけないじゃん」という意見は出てこない。

ゾンビとDNA鑑定が同じ程度にリアルな社会は、めちゃ面白い。

(参考資料:2012年2月6日、7日、9日付「The Times」など)

0 件のコメント:

コメントを投稿