といっても、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が紙幣の顔になるから下がったわけでは当然ない。
発表のやり方が問題だった。
「明日、大統領による記者会見がある」と発表があったのは、2月10日の金曜日。つまり、記者会見の日は土曜日なので市場が閉まっている。土曜日の記者会見の如何によって、月曜日に損失が出ることをなるべく避けたいから、金曜のうちに出来るだけの手を打っておきたいというのは人情。
ところが、「紙幣の顔がマンデラになりま~す」という金融政策にも国家財政にも関係ないお知らせなのに、それを告げなかった。それどころか、大統領、ジル・マーカス(Gill Marcus)準備銀行総裁、プラヴィン・ゴーダン(Pravin Gordhan)蔵相という、超大物3者による「国家的重要事項」(a matter of national importance)の発表と予告したのだ。
「国家的重要事項」の発表、それも金融取引が行われない日に・・・。これは市場にネガティブな影響を与える政策発表に違いない・・・。
憶測が飛び交い、通貨と株価の下落につながったわけだ。まずいと思った準備銀行、副総裁が「市場に悪影響を与えるようなものではない」との声明を出したが、あまり効果はなく、金曜日、終日下がり続けた。翌日になって、「な~んだ」というわけである。
さて、マンデラ紙幣。
マンデラの釈放22周年を記念して、とされる。現在のサイ、ゾウ、ライオン、バッファロー、ヒョウがマンデラの顔に置き換えられるわけである。その費用、約2500万ランド(約2億5千万円)。今年の年末近くに導入予定。
個人的には賛成ではない。
1994年、アフリカ民族会議(ANC)が政権を取り、マンデラが大統領になった時、公共の場から政治色を消す努力をした。アフリカーナの歴史的人物の名前がついた飛行場、ダム、道路、市などを改名し、植民地時代、アパルトヘイト時代の「負の遺産」を拭い去ろうとしたのだ。
名前を変えると道路標識や地図や、その他いろんなことに影響し、その費用は馬鹿にならない。「田舎に電気や上水道を通したり、道路や住宅を建設したり、やることは沢山あるのに、お金がもったいない」という気がしないでもなかったが、「民主国家として、心身共に新しいスタートを切るのに必要なのだろう」と思った。
そして、感心したのは、政治家、特に現役の政治家の名前をつけなかったこと。他のアフリカ諸国では、大統領の名前がついた通りの名や、大統領の顔がついた通貨はザラ。国民を忘れた、独裁政権や独裁者の驕りが鼻につく。それが、南アフリカでは、中立的な命名が大半を占めたのだ。
こうして、ヤン・スマッツ空港はジョハネスバーグ国際空港になり、北部の都市ピータースバーグはポロクワーネになった。それまで紙幣の顔だった、アフリカーナにとっての「建国の父」ヤン・ファンリーベックは、野生動物に取って代わられた。
ところが、ANC政権が長期化し、公務員や政治家の汚職が目に余るようになるにつれ、公共の場所に解放運動の功労者の名前がドンドンつくようになった。ジョハネスバーグ国際空港は、ORタンボ国際空港と再改名されてしまった。ターボ・ムベキが大統領時代、リンポポ州のポロクワーネで「ターボ・ムベキ通り」を目にした時は、ちょっと背筋が寒くなった。
そして、今回、紙幣から動物たちがいなくなってしまうという。
確かにマンデラの偉大さは否定出来ないが、ANCが政権取得後これまで取って来た道、これから進みそうな道を考えると、手放しで喜べない。「聖人」「偉人」として扱われることを嫌ったマンデラ本人も、動物たちの方が南アフリカの紙幣の「顔」としてふさわしい、と感じるのではないか。
マンデラ紙幣を手にするズマ大統領 |
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