2012/07/15

海賊に誘拐された南ア人カップル 20ヶ月監禁される

「海賊」といえば、「大海原を舞台にした、男のロマン」。

ジョニー・デップ(Johnny Depp)が演じる『パイレーツ・オブ・カリビアン』(Pirates of Carribean)シリーズのジャック・スパロウ(Jack Sparrow)。『フック』(Hook)でピーターパンの敵役、フック船長を演じたのは、ダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman)。古くは、エロール・フリン(Errol Flynn)の『海賊ブラッド』(Captain Blood)。。。



ハリウッド映画の海賊たちは、ヒーローでも、悪漢でも、常軌を外れたスケールの大きさを感じさせ、どこかすがすがしい。(「ヒゲ」と「化粧」と「カツラ」と「カブリモノ」は必須?)

勿論、彼らがスクリーンの中にいるから、私たちは平気で笑ったり、ドキドキしたりできるのだ。

ところが、ブルーノ・ペリツァーリ(Bruno Pelizzari)とデビー・カリツ(Debbie Calitz)は、本物に遭遇してしまった。それどころか、捕虜になり、20ヶ月も監禁されてしまった。。。

当時、ブルーノの小さいヨットを住居として、ダルエスサラーム(タンザニア)で暮らしていたふたり。豪華ヨット『チョイジル』(Choizil)号の船長、ピーター・エルドリッジ(Peter Eldridge)に「働かないか」と声をかけられた。大喜びで乗船し、マダガスカルへ。無事仕事を終え、ダルエスサラームまであと3日のところまで戻って来た。10月25日のことだ。

そこにやって来た3艘の船。ソマリア人の海賊だった。

「携帯電話」「現金」「宝石」の順で要求を突きつけた後、3人を拉致しようとした。

死ぬ覚悟を決めたピーター船長は、下船を拒否。海賊たちはピーターに向かって銃を3発撃ち、ブルーノとデビーを連れて上陸した。(弾は幸運にも当たらず、ピーターはその後、フランスの軍艦に救助される。)

ブルーノとデビーを「ヨットのオーナーである超金持ち夫婦」と勘違いし、「これは金になる」とほくそ笑んだ海賊たち。その後間違いに気づき、「一般人じゃあ、金にならない」と悟ったのか、別のグループにふたりを売りとばした。彼らにとって、誘拐した人間は単なる商品なのである。そのグループはまた転売。結局、ふたりはソマリア人「ビジネスマン」に買い取られたらしい。

勾留と交渉が長引くにつれて、身代金要求額は当初の1000万ドルから、400万ドル、150万ドル、100万ドル、そして50万ドルへと下がったが、国際的に注目を浴びたためか、また88万ドルまで引き上げられた。

その間、ふたりは勾留場所を17箇所も点々とする。どの場所でも、暗い部屋に鍵をかけて閉じ込められ、日常的に暴行を受けた。身に着けていたビキニをはぎ取られ、裸で大半を過ごしたデビー。レイプの被害にも遭った。

ふたりはいつも空腹だった。マラリアにも罹った。体力のある若者だって大変だっただろう。孫のいるふたりにとっては、猶更のこと。

今年6月20日に「家へ帰す」と言われた時は、「殺されて砂漠に捨てられる」と思った。目隠しされ、小さな車のトランクに押し込まれたのだから、そう思ったのも無理ない。

別の車に移された時、目隠しを取るよう言われた。車の中にいた男は「私はあなたたちの味方だ」と言ったが、携帯電話でイタリア人の役人と話した時も、自由になれるとは信じなかった。どうせまた別のギャングだろう、と思った。

モガディシュ(ソマリア)から、プライベートジェットでローマヘ。そこで初めて、自由になったことに気がついた。

そう、ローマ。ブルーノは南アとイタリアの二重国籍を持っていたのだ。南ア政府は頼りにならないが、イタリア政府がかなり動いてくれたらしい。

家族が駆け回って集めたお金と一般の募金を併せて、やっと10万ドル。(一般の募金には、南ア在住のソマリア人コミュニティも協力したとのこと。) 残りの身代金は、イタリア政府が出したという噂である。

誘拐前のふたり(「News24」より)
ソマリア人海賊が活発になったのは、2005年頃から。当初はコンテナ船を対象としていたが、輸送会社が武装して襲いにくくなったことから、狙いを豪華ヨットに変更。

EU軍によると、2010年、ソマリア人海賊にハイジャックされた船は47艘、2011年は25艘、今年は今のところ5艘、と年々減っている。船の武装化と国際協力による海上パトロール強化のタマモノ。EU海軍は今年から、海賊と疑われる船に対し、ソマリア沿岸で攻撃を仕掛けてもよいことになった。

それでも、ハイジャックされ、現在ソマリア人海賊の手元にある船7艘、捕虜213人。

ソマリア人海賊は、商船と豪華ヨットを襲うことにより、昨年だけで1億5000万ドル以上の身代金を手にしたと推定される。

釈放後のふたり(「IOL News」より)

デビーは、犯人を憎んでいない、という。「私の子供と言ってもいい年頃。憎んではいません。彼らは他の生き方を知らないのです。」

(それにしても、ボーイフレンドがイタリア国籍を持っていて良かったですね、デビーさん。ふたりとも南ア国籍しかなかったら、今頃そんな余裕のあること、言ってられなかったかも。)

勾留中、身代金調達を目的としたフェイスブックページが立ち上る。「ファン」は1万人以上に膨れ上がった。

ブルーノとデビーは、体験を本にまとめる予定。それを元に、ハリウッドは現代を舞台とした海賊映画を作成するかも。但し、今回は、被害者側から見た「悪夢の海賊譚」だが。

(参考資料:2012年7月13日付「The Times」など)

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