思えば、朝日新聞のK氏と「マンデラの名言集を出したいね~」と話していたのは、10年以上前のことだった。今から考えると、その時実現しなくて良かった。当時アクセス出来たマンデラの言葉は、演説など公の文書しかなかったからだ。手紙や日記など私的文書を含んだ引用集は、2010年のConversations with Myself (邦訳『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』2012年)を待たなければならなかった。
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『私自身との対話』を訳し終えてすぐ、短い引用を集めたBy Himself (2011年)の訳に取り掛かった。『私自身との対話』同様、ネルソン・マンデラ財団が編集したマンデラ公認の引用集である。
By Himsef は2000もの引用を300以上のカテゴリーに分けて編集したもの。高さ1ミリくらいの細かい文字がぎっしり詰まっていて、見るだけでうんざりしてしまう。しかも、同じような引用が多い。更に、日本人には全く意味をもたないものが沢山ある。マンデラ財団の職員とっては、どれもこれも大切な言葉で、何千、何万もの文を泣く泣く削りに削ったのだろうが、また、1次資料としては大変貴重だろうが、こんな本を訳しても、殆どの人は読む気にならないないだろう。
そこで、原著出版社の許可を取って、引用を削る作業に取り掛かった。内容が重複したものや、日本人の心に響かない言葉を割愛していったのだ。
そうこうしているうちに、アメリカでNotes to the Future が出るという話を聞いた。By Himself と同じ編集者だが、約300の引用を厳選したものだ。是非、翻訳を!と願ったものの、諸事情によりやっと今年に入って明石書店が邦訳の版権を獲得し、出版実現の運びとなった。