ディー・ブラッキー(Dee Blackie)さんが、プスプスと燃えるゴミの山の中で小さな赤ちゃんの死体を見つけたのは2011年のこと。大きなショックを受け、「なんとかしなければ」と「全国養子縁組連合」(National Adoption Coalition)の結成に尽力した。「どうしても赤ちゃんを育てることができないお母さんのために、養子縁組を促進しよう」と考えたのだ。
(全国養子縁組連合ウェブサイトから) |
貧困、極度の性差別、暴力などが原因で子捨ては増加の一途を辿っているのに、どういうわけか養子縁組は減っている。捨てられる赤ちゃんの殆どは黒人である。
ブラッキーさんはブランドストラテジストの仕事を辞め、修士課程の学生になった。専攻は文化人類学。南アフリカの都市部における、祖先信仰と子捨て・養子縁組の関係を研究している。
この一年間、子捨てを行った母親たち、捨てられた子供たち、子供の保護の専門家たちを調査してわかったのは、「祖先信仰」が果たす大きな役割だった。
「子供を養子に出す」のも「養子をもらう」のも、祖先の不評を買うというのだ。
祖先は生きている子孫を守る役割を果たすが、一体祖先が誰かわからない子供を家族の中に入れると、その子を守ることができない。また、よそ者を家に入れたことで祖先が怒り、家族に不運をもたらす恐れがある。「そんなタブーは気にしない。恵まれない子供に愛の手を差し伸べるべきだ」という果敢な夫婦が養子縁組に踏み切ったとしても、親戚やコミュニティーから村八分にされる可能性が高い。
子供を養子に出すお母さんに対しても、祖先は厳しい。子供は祖先からの贈り物。その大切な子供を意識的に家族から切り離し、他の夫婦に与えてしまう母親には大きな不幸が降りかかる。不妊にされてしまうかもしれない。ところが、子供を捨ててしまえば、「正気ではなかった」「レイプされて出来た子供で、尋常なストレスレベルではなかった」「子供の父親に捨てられた」「望まれない子供が出来たことで親から勘当された」とか理由を挙げ、捧げものをして謝れば、祖先が許してくれるかもしれない。
捨てられた子供には災難が待ち受けている。たとえ生き延びても、父親が誰かわからないので、祖先とコンタクトが取れない。祖先が不明な人間は苦しい人生を送ることになるという。また、伝統的な行事や風習をうまく執り行うことができないとされる。
人口の殆どが農村共同体で暮らしていた昔は、こんなことは問題になりにくかっただろう。父親が誰かわからないことは稀だっただろうし、子育ては村全体でするものだったからだ。ゴミの中に捨てる必要はなかったのである。
では、現在の南アフリカの都会で、望まない妊娠・出産をしてしまったら、どうすれば良いのか。捨てられた子供を「祖先」とか「タブー」とか関係ない、例えば南ア白人や外国人の養子にする、というのも一つの手だ。だが、それでは子捨て自体は減らない。ゴミの中に捨てられ、死んでしまう赤ちゃんも減らない。
そこで、ブラッキーさんと「全国養子縁組連合」は、コミュニティーを巻き込んで文化・伝統の問題に取り組み、養子縁組が行ないやすい環境作りを目指している。
現在、全国養子縁組連合理事会メンバー9人のうち、黒人は1人だけ。各支部も白人が中心だ。黒人職員を増やすことがまずの課題かもしれない。
(参考資料:2014年5月10日付「Saturday Star」など)
【関連ウェブサイト】
National Adoption Coalition
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