勿論、「嘘も方便」ということもある。更に、友人の心を傷つけないために、必ずしも本当のことを言わないこともあるだろう。「最近太ったね~」とか「その服、全然似合わない」とか、よっぽど親しい友人でも普通言わない。皆が皆、本音しか口にしない社会はぎくしゃくして大変そうだ。
日常的な罪のない可愛いプチ嘘ではなく、法律に触れる大きな嘘を平気でつく人もいる。詐欺、脱税、政治家・・・。
政務調査費で妻と一緒に熊本県の「天草キリシタン館」を訪れた兵庫県の加茂忍県会議員(自民党)が偶然にも400万人目の来場者となり、記念品をもらったりする姿が報道されたために、税金の悪用が発覚したそうだが、まさかバレるとは思わなかったんだろうな。本人にしては、ほんの「デキゴゴロ」かもしれない。他の県議も日常的にやっていることかもしれない。加茂県議の政治生命はこれで絶たれるのだろうか。刑務所に送られる可能性はあるのだろうか。それとも「ゴメンナサイ」で済んでしまうことなのだろうか。
(真実を探すブログ) |
8月3日の南ア『サンデータイムズ』紙で、与党ANC(アフリカ民族会議)きってのインテリ、パロ・ジョーダン(Pallo Jordan)の学歴詐称疑惑が取り上げられた。「博士」を意味する「Dr」を称号として使っているのだが、論文審査による博士号も、名誉博士号も貰った形跡がないというのである。それどころか、大学も卒業していないようなのだ。
(South African History Online) |
大臣を務めた芸術文化科学技術省のウェブサイトにも、南ア政府が運営する「政府通信情報システム」(Government Communications and Information System)の公式履歴書にも、同じことが書いてある。
「数多くの学位」が何であるか、具体的な記載はどこにもない。だが、総選挙の後、国会議員は詳細な履歴書を提出することになっている。また、自分の名前と敬称が正しく記録されているかどうか、国会議員本人がチェックすることになっている。ジョーダンの称号は一貫して「博士」。
更に、公式の履歴書ではないが、ケープタウン大学から歴史学の学位、ウィスコンシン大学からやはり歴史学の学位、LSEから経済学博士号を取得した、というプロフィールがよく使われている。
そこで、『サンデータイムズ』紙の記者ギャレス・ファンオンセレン(Gareth van Onselen)が手を尽くして調べてみたが、ジョーダンの「学位」の証拠を見つけることができなかった。ケープタウン大学やLSEには在籍した記録がない。ウィスコンシン大学には1963年9月16日から1964年2月24日まで在籍していたものの、学位は取得していない。ジョーダンに名誉博士号を贈った大学すらない。
困ったファンオンセレンはジョーダンに直接問い合わせた。メールやSMSの頻繁なやり取りを経て2週間待っても、ジョーダンが約束した「証拠」は現れなかった。それどころか、「この件を忘れてくれたら、あなたに私の公式伝記を書かせてあげよう」とオファーをする始末。やましいところがあることを認めたようなものだ。
ジョーダンのこの作戦は裏目に出た。ファンオンセレンは、SMSのやりとりを新聞紙上に公表してしまったのだ。
『サンデータイムズ』紙は8月10日にもフォローアップ記事を掲載。この一週間にジョーダンからの連絡は、謎めいたSMS一本だけ。以前のSMSにあった「30年前、私が行なったファウスト的な取引」とはどういう意味か説明を求めたところ、「遅すぎる。君は学問があると思っていたが? メフィストフェレスは一度しか機会を得ない」。
メフィストフェレスはファウストが魂を売った悪魔である。ジョーダンは自分をファウストに譬えているのか、メフィストフェレスに譬えているのか。謎は深まるばかり。
ジョーダンはANC中央執行委員会のメンバーで、郵便通信放送相(Minister of Posts, Telecommunications and Broadcasting)、環境観光相(Minister of Environmental Affairs and Tourism)、芸術文化科学技術相(Minister of Arts, Culture, Science and Technology)を歴任している大物政治家だが、学位は政治家の必要条件ではない。ジェイコブ・ズマ現大統領など、小学校にも行っていない。小学校を卒業していないどころか、学校教育ゼロなのだ。だから、そもそも何故ジョーダンがこんな嘘をついたのかわからない。両親ともに優れた学者だったため、大学も出ていない自分を認めることができなかったのだろうか。
ギャヴィン・ラジャー(The Oprah Magazine) |
服飾デザイナーのギャヴィン・ラジャー(Gavin Rajah)も、調べればすぐわかる嘘をついたのがバレた。つい最近ケープタウン・ファッションウィーク(Cape Town Fashion Week)で新作として発表したドレスが、世界的に有名なレバノン人デザイナー、ズハイル・ムラド(Zuhair Murad)のドレスとウリフタツだったのだ。ラジャーは盗作を完全否定。朝日を題材にした日本の浮世絵からヒントを得たもので、ムラドのドレスは見たこともないという。
しかし、これ、似てる似てないのレベルではない。そっくりだ。
左がムラド、右がラジャーの作品(Sowetan Live) |
千歩譲って、偶然としよう。だが、これだけではないのだ。例えば、女優ケイト・ハドソン(Kate Hudson)が着ていたアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)のドレスと酷似した作品をラジャーは発表している。
左がマックイーン、右がラジャーの作品 |
ケイト・ハドソン(InStyle)とボナン・マテバ(TimeLive) |
「偶然」にしては怪しすぎる。ここまできたらシラを切り通すしかないのかもしれないが、何故こんな、有名デザイナーのコピーとすぐわかる作品をいくつも発表したのか。デキゴゴロでやったのがバレなかったために、デキゴゴロの歯止めがきかなくなってしまったのだろうか。
やっぱり嘘をつくと後で面倒なことになる。
(参考資料:2014年8月3日、10日付「Sunday Times」など)
学歴詐称疑惑が表面化してから9日間、行方が知れなくなっていたパロ・ジョーダンが国会議員を辞任した。国会議員職と党中央執行委員会から辞任し、離党することをANCに求めたところ、最初の要求だけ受け入れられたもの。グェデ・マンタシャANC書記長曰く、「パロ・ジョーダン同志ほどの知識人なら、いつまでも欺く必要はない。時間をかけて自分の罪悪感に取り組むべき。ANCとしては彼の公の謝罪を受け入れた。謝罪は勇気のない人間にできることではない」。
返信削除確かに、巨額の汚職がばれようと、過去に殺人などの犯罪歴・犯罪疑惑があろうと、ANCの有力者やANC幹部とコネがある人たちが謝ったり辞職したりするなんてまずない。それを考えると、ジョーダンの行為は珍しい。しかし、「公の謝罪」はANC内部に向けてのもの。国民に対して声明を発表したとか、記者会見をしたとかいうわけではない。ジョーダンにとって、一番大切なものがなにか、はからずも露呈した結果となった。
ANCさえ許してくれれば、将来は安定なのである。国民なんて関係ない。南アフリカの典型的な政治家の姿を見た。