2015/09/20

南アナショナルチーム監督が国民に謝罪 ラグビーワールドカップ

「最初に得点したのは日本。日本がリードしているよ。」

9月19日、南アフリカ時間の17時59分に、税理士からこんなショートメッセージが入った。

その日、ラグビーワールドカップで日本と南アフリカが対戦するというので、南アフリカの友人、知り合いから次々に電話やメッセージから届いていた。「あなたのふたつの祖国がラグビーで対戦なんて、心中察しています」なんていうメッセージもあったが、我が家にテレビはないし、とりわけ熱心なラグビーファンでもない。敢えて友人宅やスポーツバーに行って、テレビ観戦しようとも思わなかった。正直、「どうせ負けるだろう」とタカをくくっていた。

税理士からのメッセージは続く。(しかし、なんで一年に一回しか会わない税理士から・・・。)

「また日本が先行した。10対7。日本のプレイは素晴らしい!」(18時25分)

「29対29。日本が勝つかもしれない。まるでニンジャのようだ!」(19時29分)

「日本が34対32で勝った。よく頑張った!」(19時47分)

え~、まさか~!

これは、南ア人にとって非常なショックだろう。『南アフリカを知るための60章』(明石書店)にも書いたが、南ア人は大のスポーツ好き。特にラグビーは、狂信的崇拝者が多い。ワールドカップでも、初参加した1995年に優勝、1999年3位、2003年ベスト8、2007年優勝、2011年ベスト8という成績。世界ランキング3位。一方の日本は1987年の第1回大会からワールドカップに出場しているものの、これまで24戦行った中、勝ったのは1991年の対ジンバブエ戦のみ。1995年の南ア大会では、ニュージーランドに145対17で大敗している。

(ラグビーで3桁という得点は珍しいのでは?と調べたところ、ワールドカップで他に5試合あった。1999年にニュージーランドXイタリア戦の101対3と、イギリスXトンガ戦の101対10、2003年にオーストラリアXナミビア戦の142対0と、イギリスXウルグアイ戦の111対13、2007年にイタリアXポルトガル戦の108対13。)

案の定、南アのメディアはこの話題で持ち切り。予想もしていなかった大番狂わせは、無敵を誇ったボクシングのマイク・タイソン(Mike Tyson)が1990年2月11日、バスター・ダグラス(Buster Douglas)にKOされた試合(東京だった)や、2015年9月、テニスのセリーナ・ウィリアムズ(Serena Williams)がUSオープンでロベルタ・ビンチ(Roberta Vinci)に年間グランドスラムを阻止された試合に比較された。

そして、ナショナルチーム「スプリングボックス」(Springboks)の監督ヘイネケ・メイヤー(Heyneke Meyer)が国民に謝罪するという事態に発展する。

記者会見で「国民の皆さまに謝罪」というのは、日本では結構普通である。スキャンダルを起こした政治家とか、不祥事があった会社の社長とか、大麻所持で逮捕された芸能人とか、「世間を騒がせた」という理由だけでもテレビカメラに深々に頭を下げて謝罪したりする。しかし、南アでは異例中の異例。ここで謝罪しておかないと南アラグビー界で、いや南ア社会で存在できないとの危機感を感じたのかも。

翌日の『サンデータイムズ』(Sunday Times)の一面トップ見出しは「Bok heads roll」。「頭がころがる」というのは「責任を取らされて首がとぶ」という意味の慣用表現だ。「Heads will roll」(誰かの首がとぶ)のように使う。ナショナルチームの誰かが責任を取らされることになるだろう、というのだ。

非難が集中したのは当然のことながら、メイヤー監督。実は、メイヤー監督はこれまでも、戦略が古風で一面的とか、盛りを過ぎて故障も多い、過去の花形選手に頼り過ぎているとか、そのやり方が批判されてきた。黒人を30%チームに入れると約束しておきながら、実際は3%以下に留まったことも批判の対象になっていた。

スプリングボックスは今年8月、ダーバンの対アルゼンチン戦で、全く生気のない試合展開をして負け、ファンを唖然とさせている。

対日本戦では、試合開始前から、選手の陣容に頭を抱えるファンが多かったという。今一番調子が良い選手を外し、1年以上もナショナルチームに入っていなかった盛りを過ぎた選手と、故障続きのキャプテンをチームに入れたのだから。それだけ、日本を甘く見ていたのだろう。

日本に負けてしまったが、日本チームの戦いぶりに南ア人は賞賛を惜しまない。その点、南ア人はからっとしていて気持ちが良い。

エディー・ジョーンズ(Eddie Jones)日本監督の腕はなかなかのようだ。オーストラリアの監督だった時にキャプテンだったジョージ・グレーガン(George Gregan)は、こう語っている。

「65分が日本の限界だと思っていたが、日本チームはあきらめず食いついた。また観客は日本を応援していた。素晴らしいトライだった。エディー・ジョーンズらしさに溢れていた。ジョーンズは選手に信念を叩きこむ監督だ。」

ジョーンズ監督は来年、ケープタウンのチーム「ストーマーズ」(Stomers)の監督に就任するという。国内リーグで優勝経験がなく、これまでの最高が準優勝(それも1回だけ)という、あまり強くないストーマーズだが、ジョーンズ監督の指導を受けて、生まれ変わるだろうか。

ところで、試合前、南アが今回のW杯で優勝した場合の賭けの予想配当率は5倍、日本が優勝した場合は1500倍だった。日本が南アに勝ったことで、予想配当率はどう変わったのだろう。

これでニュージーランドの優勝を阻むものはなくなった、ということか(Sunday Times)

(参考資料:2015年9月20日付「Sunday Times」など)

【関連ウェブサイト】
Zapiro

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