2015/09/30

ホモ・ナレディに会う

ホモ・ナレディ」(Homo Naledi)の実物が10月11日まで展示してあると聞いて、ユネスコ世界遺産「人類のユリカゴ」(The Cradle of Humanity)内にある「マロペン」(Maropeng)博物館へ行ってきた。我が家から車で1時間の距離にある。

南アフリカのこの辺り(Wikipedia


洞窟「ライジングスター」(Rising Star)内で、洞穴「ディナレディ」(Dinaledi)が見つかったのは2013年9月13日。同年11月から本格的な発掘調査が開始され、2014年3月に少なくとも15の個体に属する化石約1550個が発掘された。
発掘現場(Wikipedia

そして、2015年9月10日、ヴィッツ大学のリー・バーガー(Lee Berger)教授がジョハネスバーグで化石と新説の発表を行う。もしかしたら、人類の祖先の新種かもしれない、というのだ。名付けて「ホモ・ナレディ」。「ナレディ」とはソト語で「星」を意味する。

ホモ・ナレディはアウストラロピテクスとホモの両方の特徴を持っている。アウストラロピテクスに近いのは骨盤、肩、胸郭、親指以外の指、脳の大きさなど。ホモに似ているのは足、足首、椎骨、手首、親指、掌など。アウストラロピテスクスからホモへの移行途中の種なのだろうか。全般的な構造がホモに近いことから、バーガーらは「ホモ」属に分類することにした。

まだ年代が測定・推測されていないので、進化のどこに位置づけるのか難しいものの、「見つかった個体は死後、意図的にこの小さくて奥まった洞穴に運び込まれた」とバーガーたちは考える。初期の「埋葬」ではないか。つまり、ホモ・ナレディには「儀式」の概念があったというのだ。それが本当だとすると、「儀式」は「ホモ・サピエンス」や「ホモ・ネアンデルターレンシス」(ネアンタール人)から始まった、という通説がくつがえされる。

これに対して、「オレンジの大きさの脳しか持っていない種に、儀礼の概念を持つことは不可能」という反論もある。

科学者たちがカンカンガクガク異論反論を唱える中、南アフリカで政治的影響力を持つ人たちが相次いで、あきれてものが言えなくなるような発言を行った。

ヴァヴィ(who's who
例えば、元労働組合連合「コサツ」(Cosatu)の長、ズウェリンジマ・ヴァヴィ( Zwelinzima Vavi)は「俺がかつてヒヒだったという説を証明しようと、古いサルの骨を掘り返しても駄目だぜ」とツイート。「進化論は立証済みの科学」というフォロワーのコメントに対し、「だったら、古いヒヒの骨を持ち出さないで、俺がサルだったと証明しろ」。更に、「俺は類人猿の孫でも、サルの孫でも、ヒヒの孫でもない。そうだというなら、科学的に証明してくれ」。

人類は、類人猿やサルやヒヒから進化した訳ではないんですが・・・。それに、ヴァヴィの祖父母が類人猿とかサルとかヒヒとか言っている訳でもないのに・・・。

法学博士の学位を持つ与党ANC国会議員、マトレ・モチェハ(Mathole Motshekga)は、「知識人、研究者の立場から」という前置きをして、テレビのインタビューでこう語っている。(モチェハは現役の弁護士、大学講師。)

モチェハ(EWN
「(ホモ・ナレディは)現実に即しておらず、私たちアフリカ人が人間以下だという説を擁護するものだ。その説のせいで、私たちアフリカ人は世界から尊敬されていない。」

「(西洋の物質主義者の説によると)我々は動物から進化した人間以下の存在だという。西洋諸国は奴隷制度と植民主義を正当化するために、私たちに人間以下というレッテルを張ったのだ。」

いや、だから、アフリカ黒人がサルから直接進化した訳では・・・。それに、ホモ・ナレディが南アフリカで見つかったからといって、ホモ・ナレディが現在生きているアフリカ黒人のおじいさんとかひい爺さんとかいうのではない。例えば200万年前とか、ものすごい昔の話なのだが・・・。そしてまた、西洋諸国の人たちも、アフリカ人と同じ祖先から進化したのに・・・。

モチェハは別のインタビューでも、「アフリカ人はヒヒの子孫だとヨーロッパ人に言われてきた」など、似たようなことを繰り返している。

さすが、シリル・ラマポザ(Cyril Ramaphosa)副大統領は「この発見によって、人類の過去に関する知識が深まるだろう」「『人類のユリカゴ』が人類のヘソの緒であることをホモ・ナレディは証明した」とソツないが、モチェハによるとマラポザは間違っている。

「アフリカの文献によると、人類の起源はナイル川にあり、人類は宇宙が形成される以前に存在していた。」「アフリカは最も古い文明であり、人類の起源について多くの文献を生み出してきた。しかし、それは、アフリカ人は人間以下であるという考え方を広めようとする西側諸国によって抑え込まれた。」

一万歩くらい譲って、この「文献」が存在するとしても、それを記したのはモチェハの祖先ではない。サハラ以南では文字がなかったのだから。。。

こういう人たちは取りあえず放っておいて、マロペンに話を戻そう。なにしろ、化石の現物が展示されるのは10月11日まで。それ以降、ヴィッツ大学に戻されてしまうというのだから急がなければ。。。

マロペンの入り口

同じ敷地内にある4つ星のブティックホテル「マロペン・ホテル」(Maropeng Hotel)がスペシャルオファーを提供しているというので、利用することにした。宿泊料、朝食、夕食、スタークフォンテイン洞窟(Sterkfontein Caves)チケット、マロペン博物館チケットが全部込みになった料金は、確かに安い。現地で確認したホテル1泊宿泊料金の半額以下だった。全24室しかないこじんまりしたホテルだ。マロペン博物館から歩いて5分!

ホテルに入ると、ロビーを突き抜けて、こんな光景。(水着、持ってくれば良かった。。。)


部屋もちゃんとしている。


各部屋の外はこんな感じ。椅子にすわって、ひたすらぼーっとしたくなる。


スタークフォンテイン洞窟に寄った後、いよいよマロペン博物館!

これが博物館!

マロペン博物館に入ったらまず、小さな丸型ボートに乗って、水→氷→火・・・と地球の時間を遡る。子供騙しなようで、これが結構楽しい。


博物館内は、小さいながらも、見て聞いて触って学べる展示が目白押し。


そして、ホモ・ナレディ! これが発掘された15個体の骨だ。


 とはいっても、あまりにもバラバラで良く分からない。そこで、3Dプリンターで作った頭蓋骨模型がこれ。茶色が発見された骨の部分、白が想像部分。


う~ん、なにかに似ている。
 

そう・・・
POPSUGAR

ダース・ヴェイダーにそっくり!

発掘の共同スポンサー「ナショナルジオグラフィック」は、この頭蓋骨からホモ・ナレディの顔を再現してみた。
(NEWS24)

 本物の化石がヴィッツ大学に移された後は、複製が展示されるとのこと。

馬鹿発言をして「ナショジ」のパロディー雑誌の表紙になったモチェハに対し、ホモ・ナレディ曰く、「俺の脳みそはオレンジの大きさしかないが、お前の言い訳は何なんだ?」(Mail & Guardian

【関連ウェブサイト】
Maropeng
National Geographic
Zapiro

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