2017/06/07

グラビギャング ピンクのサリーと竹の棒で闘うインドの女性自衛団

エル・パイス』(El País)紙で「グラビギャング」(Gulabi Gang)という言葉を目にして、思わず手を止めた。昨年、南アフリカの「三大陸人権映画祭」(Tri Continental Human Rights Film Festival)で図らずも見逃してしまったドキュメンタリーの題名だったからだ。

グラビギャングはサンパット・パル・デヴィ(Sampat Pal Devi)さんが2006年に設立した女性の人権を守る団体。ピンク色(ヒンディー語で「グラビ」)のサリーを身にまとい、竹の棒で武装する。

(「グラビギャング」のHPから)

メンバーの殆どは貧しく教育のない、低いカースト出身の女性。1958年生まれのサンパットさん自身、貧しい家庭に育ち、学校に行かせてもらえなかった。どうしても勉強したくて、独学で読み書きを習った。その後、なんとか小学4年生まで学校に通わせてもらったものの、11歳か12歳で結婚させられ、最初の子供を15歳で生んだ5児の母。肝っ玉母さん的な活動家である。

インド、特に農村地帯では女性の地位がとても低い。夫のDV嫁殺しの被害に遭う女性が多くいる。グラビギャングはDV夫を竹で叩くなどして懲らしめるのだ。そして、「また奥さんを苛めたら、私たちがやってくるからね!」と脅す。1対1ではか弱い女も、集団になればパワーを発揮する。お蔭で、サンパットさんが住む村では女性の待遇が改善した。

サンパットさんの偉いのは、それに満足せず、活動の範囲を広げたこと。男女を問わず、地域住民の生活向上に全力を尽くした。生年月日がわからないため年金がもらえないお年寄りを助けたり、故意に電気を切って賄賂を要求する役人を懲らしめたり、子供の虐待を止めさせたり、女性の識字教育に取り組んだり・・・。そのため、男性もサンパットさんとグラビギャングに一目置くようになった。グラビギャングのメンバーは、2万人にまで増えたという。

ドキュメンタリー『グラビギャング』(Gulabi Gang)はグラビギャングの活動を記録にした2012年の作品。



ところが、同じ年、「ボリウッド」(Bollywood)が『グラーブギャング』(Gulaab Gang)という映画を製作した。ピンクのサリーを身にまとう女性自衛団の話である。ボリウッドだから主人公は美女で、歌あり踊りありだが、どうみても「グラビギャング」が元ネタ。サンパットさんは「了解を取っていない!」とカンカン。しかし、映画のプロデューサーは「グラビギャングとは関係なし。サンパットという名前を使っていない。ピンクは女権拡大を象徴する色だから使っただけ」とお粗末な反論。

予告編を見る限りでは、敵役も美女。女の戦いになっているようだ。映画をヒットさせるための手段だろうが、これでは女性の人権を守るために、横暴な男性や社会に立ち向かうサンパットさんの努力をコケにしているも同然である。



さて、どんな組織でも、成功し大きくなると、統一を保つのが大変だ。グラビギャングもその例に漏れず、内紛が起こった。挙句の果てに、先月、創立者のサンパットさんがグラビギャングから追い出されてしまったらしい。こっちは、本当の女の戦いだったようだ。

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✤この投稿は2014年4月16日付「ペンと絵筆のなせばなる日記」掲載記事を一部変更したものです。


【参考資料】
"Rosa rebelde", El País (2014年3月21日)
"Madhuri Dixit's comeback film is in trouble!", The Times of India (2015年5月20日)


【関連ウェブサイト】
Gulabi Gang

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