不吉な予感。
あっ、数メートル離れたところに横たわっている2頭が見える。頭と足としっぽが切り取られた悲惨な姿で。。。
ライオンやトラなど大きな猫が大好きなサヴァンナさんは、弱冠16歳だった2012年、南アフリカのリンポポ州にハウザー家が所有する5000ヘクタールの土地に、大型猫のための聖地「エモヤ」(Emoya)を開設した。サーカスや動物園などで虐待されてきたライオンたちに、アフリカの地で幸せな余生を送ってもらいたいという一念からだ。
サヴァンナ・ハウザーさん(Emoya Big Cat Sanctuary) |
最初にやって来たのは、カイロで救出されたライオン。2013年6月のことだ。保護する猫たちは3年間で8頭になった。あくまでも、虐待されていた猫たちに安息の地を与えることが目的だから、商売ではない。また、繁殖も行わない。メスには避妊薬を与えている。
2016年、サヴァンナさんとエモヤは、大きくニュースで取り上げられた。世界中で動物保護のロビー活動を展開する「アニマル・ディフェンダーズ・インターナショナル」(Animal Defenders International)が、コロンビアとペルーのサーカスから救出したライオン33頭の終の棲家として、エモヤを選んだのだ。
虐待の日々がやっと終わる(Africa Geographic) |
エモヤに到着!(News24) |
今回殺されたジョゼとリソは人生の大部分をペルーのサーカスで過ごし、何年もの間虐待を受けていた。狭い檻に閉じ込められ、むちで打たれる日々。愛情のかけらも与えられない。虐待のために2頭とも脳障害を持ち、視力をかなり失い、方向感覚がはっきりしない。また、残酷な扱いを受けてきたことから、人間嫌いの攻撃的な性格になっていた。
2頭はとても仲が良かった。お互いをいたわりあい、いつも寄り添って寝ていた。虐待の後遺症がよりひどいジョゼを、リノは優しく導いていた。
最初はどのライオンよりも攻撃的だった2頭だが、アフリカの青い空の下に広がるエモヤで、十分な食事と愛情を与えられ、何も恐れる必要がなく、のんびりした生活を送るうちに、段々落ち着いてきた。人間を信じ始めていた矢先の惨事だったという。
在りし日のジョゼとリソ(IOL) |
アフリカの人々はライオンの体の一部を伝統的魔術や治癒に利用する。しかし、今問題になっているのは、アジアへの輸出である。漢方薬の原料となるトラの数が激減したことから、アフリカのライオンを殺して、アジアに送っているのである。
野生動物保護団体「Panthera」、「 WildAid」、「Wildlife Conservation Research Unit」の報告書によると、野生のライオンはアフリカ全土で僅か約2万頭しか残っていない。20年前より43%も減った。そして、アフリカ広しといえども、ライオンの骨を合法的に輸出できるのは南アフリカだけである。2008年から2014年の間に、4900頭以上のライオンの骨が南アフリカから中国、ラオス、ベトナム、タイに輸出された。現在、1年に約1400頭分の骨が輸出されている。1頭分の骨は、約2万ランド(20万円)で売れる。
合法的に輸出できるのは「飼育されているライオンの骨」だけ。「保護地のライオンの骨」はだめ。「狩猟の対象となったライオンの骨」はOK。だが、保護地のライオンを密猟して、その骨をまぜてもわからない。エモヤのように、1日24時間警備体制が敷かれ、武器を持った警備員がパトロールしている保護地ですら、密猟の対象となっている(ジョゼとリソは毒殺されたらしい)。更に、南アフリカほど野生のライオンが保護されていない近隣諸国で、ライオンの密猟が増加しているという。
南アフリカの場合、「飼育されているライオン」のうち、動物園でちゃんと飼われているのはごく少数。大部分は、「狩猟するため、または骨を取るために繁殖させているライオン」だ。楽しみのために殺すことを目的にライオンを繁殖させることも、効能が怪しい漢方薬の原料とするためにライオンを繁殖させることも、個人的には絶対反対である。ライオンの骨の輸出は全面禁止にして欲しい。しかし、需要がある限り、非合法化しても、密猟や密輸が増えるだけだ。
サイのツノや象牙と同様、なんとか消費者の意識を変え、需要をなくすしか究極的な解決策はないのだろう。
【参考資料】
"No Place to Hide", Sunday Times (2017年6月11日)など
【関連ウェブサイト】
Emoya Big Cat Sanctuary
Animals Defenders International
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