新年が始まり、マイカーを運転して職場に戻るオフィスワーカー。早朝の通勤ラッシュ時、異様な光景に目を疑った。普段は歩く人がマバラな道路沿いに、5キロにも及ぶ行列が出来ているのだ。徹夜した人もかなりいるらしい。交通警官が整理にあたっている。並んでいるのは20歳前の男女。
高級デパートの閉店大売出しでも、人気ロックグループのコンサート前売り券発売でもない。
目指すはジョハネスバーグ大学。入学申請の列なのだ。
南アフリカの学校年度は1月から12月まで。大学は通常2月に授業が始まり、11月には終わる。日本のような大学入試はない。その代り、高校3年生(南アでは小学1 年生から通算で数えるので12年生)は「National Senior Certificate」試験(通称マトリック)を受ける。
全58科目のうち、最低7科目を受験するわけだが、合格に必要な点数はかなり低い。第1言語で40%以上、第2言語で30%以上、算数または数学で30%以上、「生徒の個人的、社会的、知的、情緒的、精神的、身体的成長及び発展」(教育省の文書に よる)を目的とする「ライフオリエンテーション」(life orientation)で40%以上、また残り3科目のうち1科目で40%以上、2科目で30%以上。
選択科目には聖書学習とか木工細工とか農業とか、勉強が苦手な人でも点を取りやすいものが結構ある。ライフオリエンテーションの合格率は99.6%だった。つまり、マトリック自体はあまり難しいものではない。中には10科目以上受験して、すべて80%以上というツワモノもいる。
今年度の合格者は36万4513人、合格率67.8%。昨年度の60.6%から大幅上昇。大学入学資格を得た生徒も、昨年の19.9%から23.5 %へと上昇。12万6371人が晴れて大学に入学申請できることになった。
とは言っても、喜んでばかりもいられない。大学進学希望者が増えたのに、受け皿が十分ないのである。
アパルトヘイト時代、大学は人種別だった。英系白人、アフリカーナ系白人、カラード、インド系、黒人・・・とそれぞれを対象にした大学があった。アパルトヘイトが終わって人種枠が取り払われ、誰でも好きな大学に応募できるようになった時、レベルが高く、設備も良い旧白人大学に希望者が集中したのは当然の成行きだろう。
ジョハネスバーグ大学(University of Johannesburg)、通称UJはかつてランドアフリカーンス大学と呼ばれ、アフリカーナのための名門大学だった。授業は元々アフリカーンス語で行われていたが、アパルトヘイト撤廃後生き残るために英語の授業を大幅に増やした。レベルは高いのに、ヴィットヴァータースラント大学(University of the Witwatersrand)、通称ヴィッツほど入学条件が難しくないことから、ジョハネスバーグでは一番人気である。
昨年末のマトリックの結果が発表されたのは、つい先週のこと。UJの今年度の学生登録は1月21日から。つまり、入学申請し合格し登録を開始するまでに10日程度しかない。それで今週、申請者が殺到したわけだ。
今回マトリックを受けたのは64万3546名。12年前小学校に入学した時の総数は131万8932人だった。12年間に半数以上の67万5386名がドロップアウトした計算になる。それを考えると、大学入学資格を得た12万人がエリートと自負(誤解?)しても不思議はない。学位は「貧困を抜け出し人生で成功する近道」と考え、「大学入学資格を手に大学へ赴けば、即座に入学できる」と信じている生徒も多い。
だが、人気のある全国7大学の新入生枠は合計5万人。各大学はマトリックの結果だけではなく、11年生、12年生の年度末試験結果や、大学・学部ごとのクライテリアに基づいて誰を入学させるか決める。
UJでは定員1万3000人に6万3400人が押しかけた。大部分の応募者が不合格になり、10日以内には、泣きべそや怒り顔が続出するだろう。彼らは一体どこに行くのか。職業訓練所や専門学校の増設が望まれる。
(参考資料:1月7日付11日付「The Star」、1月11日付12日付「The Times」など)
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