「ブレードランナー」(Blade Runner)の異名を持つ両足義足のランナー、オスカー・ピストリアス(Oscar Pistorius)がガールフレンドのリーヴァ・スティアンカンプ(Reeva Steenkamp)を殺害した「血のバレンタインデー」から1年以上経ち、やっと裁判が始まった。
リーヴァさんとオスカー・ピストリアス(ENEWS) |
なんと裁判の様子がテレビで実況中継! メディアは連日、裁判の詳細で持ちきりである。刑事事件の裁判なんて、普通、一般市民の生活とは程遠い。それがお茶の間に持ち込まれた。被告弁護士による反対尋問の執拗さ、厳しさを目(ま)の当たりにして、「質問というより、イジメじゃないか」「証人として出頭するよう頼まれても絶対イヤ!」と思った人も多いらしく、オスカー以降の裁判への影響が心配されている。
ピストリアス家の男は皆、銃が大好き。しかも、お金持ちだから、様々な高価な銃を買い揃えることができる。(オスカーの保釈金は100万ランド、約1000万円。それをポンと払って、今オジサンの家に泊まっている。オジサンの家は寝室が20以上ある豪邸である。)
オスカーは気が短くて、喧嘩っ早いことで有名。スポーツカーを乗り回し、どこへ行くにも銃を携行。寝る時も傍から離さない。しかも、「自分は法律を超越している」と思わせる振る舞いをこれまでも何度も行っている。
レストランへ銃を安全装置をはずしたまま持ち込み、誤って発砲。幸いにも死傷者は出なかったが、危ないことこの上ない。だが、オスカーが気にしたのは自分の評判だけ。「僕がやったとなるとマスコミがうるさいから、君がやったことにしておいてくれ」と一緒にいた友達に頼んだ。
また、運転中警察に止められたのを怒って、サンルーフから銃をぶっ放した。何の警告もなくいきなり耳元で発砲され、びっくりした運転手(友人)が「危ないじゃないか!」とたしなめると大笑いした。
・・・などなどなど。
しかし、女性に対する暴力は心の問題、考え方の問題。銃は必要ない。オスカーによる殺人事件は氷山の一角に過ぎない。
ジョハネスバーグに本部があり、南部アフリカ全体で活動するNGO「ジェンダーリンクス」(Gender Links)の報告書『The War@Home』(家庭内戦争)は、南アフリカ4州(リンポポ、ハオテン、西ケープ、クワズールーナタール)での調査結果をまとめたもの。女性虐待を精神的、経済的、肉体的、性的に分けて調査・分析したところ、危害を加えた男性と被害者の大半は「親密なパートナー関係」(intimate partnership)にあるという。「親密なパートナー」とは夫、婚約者、ボーイフレンドなどのことだ。
「医療調査審議会」(Medical Research Council)では、1999年と2009年の女性殺し(femicide)を比較調査した。その結果、わかったこと。
- 親密なパートナーによる女性の殺害が増加している。
- 女性の殺害は親密なパートナーによることが多く、女性を被害者とする殺人の約50%にのぼる。
- 2009年、統計上では、平均して1日に3人の女性が親密なパートナーによって殺された。しかし、女性殺人の18%は犯人が特定されていないことから、実際の数はもっと多いと推測されている。
- 2009年、全女性殺人の17%で銃が使われた。(1999年は30%。)凶器となった銃の75%は許可されたもの。
ヴィッツ大学の研究者リサ・ヴェッテン(Lisa Vetten)は、南アフリカでは女性殺しが「普通の状態」になってきており、警察に届けられることが殆どない、という。「リーヴァ・スティアンカンプは多くの南ア人女性と同じように命を落としたのです。」
「家庭内暴力」(domestic violence)は深刻な問題であるにも関わらず重要視されていない、とヴェッテン。「今回のようなセンセーショナルな事件が起こった時だけ、家庭内暴力が問題であることを人々は思い出すのです。」
ジェンダーリンクスのスポークスマン、キャサリン・ロビンソン(Katherine Robinson)曰く、「女性に対する暴力の殆どは親密なパートナーによるものです」。
「ガンフリー南アフリカ」(Gun Free South Africa)のアデル・カーステン(Adele Kirsten)によると、銃を使った暴力・殺人の犠牲者は男性が大半だが、「家庭内では女性が弱い。男が親密なパートナーを、銃を使って脅したり、言うことを聞かせたり、傷つけたり、殺したりしている。」
銃を凶器とした女性殺人の割合が1999年と比べて2009年に大幅減少したのは「小火器統制法」(Firearms Control Act)のお蔭で、殺害件数そのものは増加している。「南アフリカは世界的に見ても、女性の殺害が多い」という。
有名運動競技選手には別の要素もある、とリサ・ヴェッテン。「彼らは非現実的な世界に住んでいます。」「自分自身のイメージや、自分が持つ権利について、歪曲した考えを持っているのです。」
両足義足というハンディキャップをものともせず、厳しい訓練に耐え、健勝者のオリンピックレースにまで出場したオスカー・ピストリアス。世界中の子供たちや障害者の憧れ、目標、励みになっていただろうに、残念なことである。
(参考資料:2014年3月3日付「The Times」など)
【関連HP】
ジェンダーリンクス(Gender Links)
ガンフリー南アフリカ(Gun Free SA)
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