2014/06/29

勝者のいないストライキ 労働者、企業、経済に大打撃

労働組合AMCUによる、5か月にわたるプラチナ鉱山ストライキがやっと終わり、6月25日、7万人強の組合員が職場に戻った。企業側と合意に達した後で新たな要求を突きつけるという、交渉のルール違反っぽい行動もあった。


AMCU組合員(SABC

AMCUは意気揚々と勝利宣言。だが、勝ち得たのは要求していた最低賃金月1万2500ランド(12万5千円)ではなく、3年で約20%の賃上げ。

ストに参加した組合員は5か月間無給。ストを行っていなかったら支払われていた給料の合計は106億ランド(約1060億円)にも上る。故郷に仕送りしている出稼ぎ労働者が多いことから、南アフリカの東ケープ州や隣国のレソト、モザンビークに住む家族・親戚も生活に困った。

ストが行なわれた鉱山の半数は、その前から利益を出していなかったという。それに加えて、5か月のストによる総損失額240億ランド(約2400億円)。このストにより、南アフリカ経済は今年第1四半期マイナス成長となった。

ケープタウン大学のハルーン・ボラット(Haroon Bhorat)経済学教授は、大打撃を受けた鉱山が労働力を削減するのは恐らく避けられないとみている。つまり、AMCUの組合員は5か月無給の挙句、会社の営業不振により解雇される可能性があるのだ。踏んだり蹴ったりである。

2014/06/23

「大統領、売ります」 オンライン販売サイトで

大統領、売ります」(President for Sale)。

こんな広告が6月19日、南アフリカのオンライン販売サイト「ガムツリー」(Gumtree)に掲載された。不用品を売りたい人が利用する人気サイトだ。

売り手は「Average Joe」。「ジョー」は庶民の代名詞。日本語の「太郎」みたいなもの。つまり、「平均的なジョー」とは「一般庶民」のこと。

機能する大統領を切実に求めています。この大統領はメンテに費用がかかりすぎます」との説明がある。勿論、「商品」の写真付き。

ガムツリーに掲載された「大統領、売ります」広告(mybroadband

2014/06/18

ケニア最大の象、惨殺される あなたの印鑑になるのだろうか

サタオ(Satao)が殺された。ケニアで一番大きいといわれた象だ。象の虐殺が続く中、これほどの象牙を持った象は殆ど残っていない。見て下さい、この立派な牙を。

在りし日のサタオ(The Times

1960年代後半に生まれたと推定されるサタオ。2本の象牙は計45キロ以上といわれる。そして、象牙は金より高価なのである。

牙の途中から切りとると、多少でも象牙が死体に残って利益が減ると思ったのだろう。密猟者は無残にも顔を含めて切り取った。毒矢で体を動かなくしたらしいが、せめて死んでから、切り取られたことを祈りたい。体は動かないものの、まだ意識があるうちに、斧やノコギリで顔を切り取られたとしたら・・・。サタオの苦しみを想像するだけで吐き気がしてきた。

2014/06/12

マリカナを考える 鉱山労働組合闘争の陰に政治権力争い

2012年8月16日、ジョハネスバーグの北西に位置するマリカナ(Marikana)鉱山で、ストライキ中の労働者に警察が発砲し、34人が死亡した。犠牲者の多くが、貧しい東ケープ州からの出稼ぎ労働者だった。

("Marikana: One year after the massacre")

より良い生活を求める民衆を国家権力が弾圧する姿は、アパルトヘイト時代の事件と重なり合った。パス法廃止を求め集まった無防備の国民に警察が発砲し69人が死亡した、1960年3月21日の「シャープヴィル虐殺」(Sharpville massacre)、アフリカーンス語による授業に反対する子供たちに警察が発砲した、1976年6月16日の「ソエト蜂起」(Soweto Uprising)、アパルトヘイト政権が樹立した黒人国家シスカイ(Ciskei)の国防軍が解放組織ANC(アフリカ民族会議)の支持者に発砲し28人が死亡した、1992年9月7日の「ビショー虐殺」(Bhisho massacre)・・・。

マリカナ鉱山は世界有数のプラチナ鉱山会社「ロムニン」(Lomnin)が所有している。「マリカナ虐殺」は、大資本家による労働者の搾取の象徴のようにも受け取られた。

だが、私はマリカナに関して、これまで何も書かなかった。なんだか釈然としなかったからだ。「国家権力」対「民衆」、「大資本家」対「労働者」、そして前者(国家権力、大資本家)が悪、後者(民衆、労働者)が善、という単純な構図では割り切れなかったからだ。

2014/06/06

学校数も児童数も把握していない! お粗末な州政府と基礎教育省

今週末、南アフリカをこの冬初めての寒波が襲った。ジョハネスバーグでも、3日前までは最高気温が25度くらいあったのに、今日はいきなり最高気温9度、最低気温2度の予報。今朝の『タイムズ』紙の一面トップ見出しは「Winter of discontent」。

新聞の見出しは、単刀直入に要点を挙げるのが普通。「不満の冬」って、曖昧過ぎない?

実は、この見出し、シェイクスピアの『リチャード3世』(Richard III)の有名な出だしなのだ。

Now is the winter of our discontent
Made glorious summer by this sun of York

日本人にとって、「祇園精舎の鐘の声・・・」とか、「つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて・・・」とか、「ゆく河の流れは絶えずして・・・」とか、古典の出だしを学生時代暗記したのが一般教養の元となっているように(皆さん、暗記しませんでした?)、英語圏の国々では、シェイクスピアや聖書の引用が新聞記事や小説や映画などに何の説明もなく現れる。「知っていて当然」なのだ。

南アフリカでは、アパルトヘイトが終わり、黒人政権が樹立してから20年経つが、初等中等教育の質が向上しないどころか、益々ひどくなっているし、文化のアフリカ化を目指す風潮(ベンツやローレックスは好きなくせに、クラシック音楽やバレーは駄目)と政府の政策のとばっちりで、イギリスの古典なんか勉強しないだろうなあ。大体、教科書が生徒の手元に届く届かないとか、先生が学校に来る来ないとかが取沙汰されているレベルだもの。

だが、南アフリカでは「世界レベルの・・・」(world-class)という表現が良く使われる。ジョハネスバーグ市のキャッチフレーズは「世界レベルのアフリカの都市」(a world-class African city)だ。そんなに世界を気にするなら、「英語を話す国際人」の教養として、有名な引用くらい学校で覚えさせればよいのに・・・。

・・・などとひとり感慨にふけっていたところ、南ア教育界の実態はそんなものではないことがわかった。古典なんて、問題外。ずっとずっと深刻なのだ。

2014/06/01

作中のマンデラ演説は創作 脚本家が爆弾発言 映画『自由への長い道』

ネルソン・マンデラの自伝『自由への長い道』(Long Walk to Freedom)の原著が出版されたのは1994年。2013年、映画版『マンデラ 自由への長い道』(Mandela: Long Walk to Freedom)が公開された。(日本では2014年5月24日から上映。)


映画版で脚本を担当したウィリアム・ニコルソン(William Nicholson)が一昨日の5月30日、イギリスのウェールズで毎年開催される文学祭「ヘイフェスティバル」(Hay Festival)で講演したが、「思いがけない内輪話や苦労話が聞けるのではないか」と期待していた聴衆は当惑したかもしれない。そんなものか、と納得したかもしれない。怒ったかもしれない。

なにしろ、映画の中でマンデラ役のイドリス・エルバ(Idris Elba)が行なった演説は、殆どがニコルソンの創作だったというのだから。つまり、マンデラが実際に行なった演説ではなく、ニコルソンが勝手に作り上げた、というのだ。

一体、何故、そんなことを・・・?

演説のうち、ひとつを除いて全ては私が創作したもの。マンデラ自身が行なった演説はとても退屈だから。

「マンデラが刑務所から出て来た時に行なった演説ときたら、(退屈のあまり)眠ってしまうほどだ。」