2015/07/12

ネットで暇つぶしする、今どきの囚人 刑務所の通貨は「エアタイム」

「あなたのせいで笑い過ぎて、お腹の皮が痛いわ。」

アヤンダ・テンゴ(Ayanda Tengo)がこんなコメントを残したのは、シズウェザケ・ヴマゾンケ(Sizwezakhe Vumazonke)のフェイスブックのウォール。これに対して、ヴマゾンケは「あまり笑うなよ。お腹が落っこちるぜ。」

ヴマゾンケはまた、フェイスブックにこんな写真を投稿している。

news24

この賑やかな服は、南アフリカの囚人服。そう、ヴマゾンケは殺人容疑で勾留され、刑務所に収容されているのだ。

『タイムズ』紙の取材を受けた別の囚人曰く、

刑務所に入っていると、時間は有り余っているのに、することがない。だから、皆ネットで時間を潰すのさ。僕はツイッター、フェイスブック、インスタグラム、それにワッツアップをやってるよ。」

ネットにアクセスするにはスマホを使う。

囚人が携帯電話を持つことは許可されていないものの、様々な手を使って持ち込んでいる。

チェコ人の犯罪ボス、ラドヴァン・クレイチール(Radovan Krejcir)の個室から見つかった、無数のメモリースティックと3台の携帯電話は、「差し入れ」の牛乳の紙パック3個に忍び込ませたもの。牛乳を捨て、その代わりに水でふくらませたコンドームをいくつか入れ、その隙間にメモリースティックと携帯電話を詰め込んで、「差し入れ」したのだ。刑務所内で「販売」する予定だったのだろう。

判決待ちの被疑者は、裁判所に出廷した折、裁判所内の同じ部屋に収容された、やはり出廷中の他の被告人から携帯電話を脅し奪い、プラスチックにくるんで肛門の中に突っ込み、刑務所に戻ってから売りさばくという。

そこまで努力しなくても、賄賂を払えば大抵の看守が見て見ぬふりをしてくれるので、お金さえあれば簡単に携帯電話を持ち込めるらしい。

しかし、せっかくスマホを手にしても、それだけでは電話をかけることも、メッセージを送ることも、ネットにアクセスすることもできない。そこで活躍するのが「エアタイム」(airtime)。

携帯電話会社と月極めの契約をするには、居住証明とか収入証明とかが必要となる。定職を持つ人にとっては何の問題もないが、それが難しい国民の多くはプリペイドを利用する。必要な金額分の「エアタイム」を購入し、引き換えに受け取ったバウチャー番号を携帯電話にインプットすれば、その金額分、携帯電話が利用できる仕組みだ。

かつて刑務所ではタバコが現金代わりに使われていた。今では、エアタイムに取って代わられたという。

エアタイムはタバコより持ち込みが簡単だ。というか、持ち込む必要がない。家族にエアタイムを購入してもらい、バウチャー番号をショートメッセージで送ってもらうだけ。その番号を様々な物品と交換する。例えば、29ランド(約300円)分のエアタイムで、タバコ1箱が購入できる。食品や麻薬も、エアタイムで入手できる。

NGO「ジャストディテンション」(Just Detention)によると、携帯電話やエアタイムが獄中生活の必須アイテムになっていることから、携帯電話の貸し借りをめぐってのいざこざや、借りたエアタイムを返さなかったことから起きる暴力事件が増えているという。

囚人が自由に電話したり、フェイスブックに投稿したり、ツイートしたりしているのに、また、携帯電話絡みの暴力事件が増えているのに、刑務所当局は手をこまねいているのかというと、そうでもないらしい。

刑務所を管轄する矯正省では、携帯電話シグナル妨害装置の導入を考慮中という。だが、人権擁護を専門とする弁護士団体「Lawyers for Human Rights」のクレア・バラード(Clare Ballard)は「無駄な出費」と手厳しい。「携帯電話を刑務所にこっそり持ち込むのは、矯正省職員であることが多い」からだ。大金を使ってハイテクシステムを導入するより、まず、省内の規律を正した方が良いのではないかという指摘である。確かに、プレトリアの重警備刑務所では、1年前にハイテクの携帯電話探知システムを導入したが、全く「探知」できていないらしい。

さて、ヴマゾンケのスマホ使用が全国にバレテしまったのは、メディアで大きく報道された殺人事件の容疑者であるために、注目が集まりやすかったから。

若くて美しく人気があった、ポートエリザベスの教師ジェイド・パナイオツ(Jayde Panayiotou)さんが行方不明になり死体で発見され、告別式で悲嘆にくれる夫に同情が集まった。高校時代から10年付き合い、結婚して間もないカップルだ。夫が告別式に選んだ写真は、結婚式のふたりの姿。

Time Live

ところが、その夫クリストファー・パナイオツ(Christopher Panayiotou)が逮捕されたのだ。ジェイドさんと結婚する前から若い部下と浮気していたことが明らかになり、世間の同情が一挙に醒めた。クリストファーは自分が経営するクラブの用心棒ルタンド・シヨリ(Luthando Siyoli)にジェイドさん殺害のアレンジを依頼。シヨリが実行犯として雇ったのが、別件で逮捕され、保釈中だったヴマゾンケ。先に逮捕されたシヨリが検察側の証人になって当局に協力したことから、クリストファー・パナイオツとヴマゾンケが逮捕された。

メディアの注目を集めていたヴマゾンケが不用意にフェイスブックに投稿したおかげで、刑務所の最新トレンドが一般に知られることになったわけである。

(参考資料:2015年7月8日付「The Times」、7月11日付「Sowetan Live」など)

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