『ザ・タイムズ』紙の一面に、こんな見出しが躍った。
「ズマさん」とは、ジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)南アフリカ大統領のこと。大統領特別恩赦で釈放されたばかりの男が、クワズルナタール州の村で、94歳の老女をレイプしたのである。
男は30歳。子供の頃からの犯罪常習者。釈放された時は、強盗罪で6か月の実刑判決を受け、服役中だった。犯罪を犯しては逮捕され、刑務所に出入りを繰り返す男に長年困っていた祖母は、「6か月じゃなくて、終身刑を6つ宣告されたのなら良かったのに」と嘆く。
男が恩赦を受けることになった時、祖母は釈放書類に署名するのを拒否したという。それでも、男は釈放されてしまった。
男は刑務所に戻るために犯罪を犯した、と警察では見ている。家族に見放され、他に行くところがない男にとって、刑務所が唯一の「家」なのである。(しかし、刑務所に戻るためだったら、なにも老女をレイプする必要はなかったのに。。。)
老女が住んでいたのは、昔ながらのロンダヴェル(土壁と草ぶき屋根の円筒形の住居)。その夜、老女はひ孫ふたりと寝ていた。粗末な小屋には鍵がかからないので、レンガをふたつ置いてドアを閉めた。男は足でドアを蹴り倒し、7歳と12歳のひ孫の面前で、老女をレイプ。恐怖と羞恥心にかられ、老女は長年住んでいた家を後にし、姿をくらました。。。
(この直後、同じ村で80歳代の老女がレイプされた。恐怖と羞恥心に加え、耐えられないくらいの肉体的苦痛だったという。 94歳の老女がズタズタに傷ついた心と体を引きずりながら、人里離れた野山や暗闇をさまよう姿を想像するのは、あまりにも辛い。。。。。)
1994年の第1回民主総選挙実施を記念して制定された祝日「自由の日」(Freedom Day)に、ズマ大統領は特別恩赦を発表。4万4985人の囚人が釈放された。ところが、3か月もしないうちに、そのうちの100人以上が強盗、レイプ、麻薬所持などで再逮捕された。
南アフリカ大学のルドルフ・ジン(Rudolph Zinn)教授によると、南アフリカでは、刑務所から釈放された囚人の再犯が多いという。それも、殆どが、最初は軽い罪で逮捕され、刑務所へ出入りを繰り返すうちに、段々凶悪な犯罪を犯していく。本来なら再教育を行い、円滑な社会復帰を助けるはずの刑務所が、その役割を果たしていないからだ。従って、恩赦などの早期釈放は「ハイリスク」以外のなにものでもない、とジン教授。
因みに、現在、南アフリカの刑務所に収容されているのは、14万6千人。アフリカ大陸で最大の数である。(2位はエチオピアの8万5千人、3位はルワンダとモロッコで各6万人。)人口10万人当たり316人に当たる。これは、人口10万人当たり743人のアメリカ、568人のロシアに次いで、世界第3位。
14万6千人のうち、40%近くにあたる5万3千人が18歳から25歳の若者。罪状の内訳は、55%が攻撃的な犯罪、23%が経済犯罪、16%が性犯罪、5%がその他、2%が麻薬関連。4万6千人が未決囚だ。また、女性の服役者は全体の3%に過ぎない。
スブ・ンデベレ(S'bu Ndebele)矯正相は、「犯罪再発を防ぐ最善の方法は、刑務所に入れておくこと」という考え方を見直す必要があるという。
犯罪者に自分の罪を認識させ、手に職をつけさせ、社会復帰を助けること、そして、軽い罪を犯した者は刑務所に入れず、コミュニティ内で矯正を行うことが大切、というのだ。
しかし、ジン教授は悲観的だ。若者の高い失業率と、若者による犯罪の多さには相関関係があると考えるからだ。現在の低経済成長が近い将来、好転するとは考えられない。従って、失業率の低下も見込めない。
統計的には減少し、落ち着いてきた南アの犯罪。だが、まだまだ決定打となるトンネルの出口が見えない。また、たとえ経済が好転しても、警察が頼りにならない現状では、犯罪者の天国だ。更に、男性の考え方が変わらない限り、性犯罪は減少しないだろう。
しかし、少なくとも、逮捕されて刑務所に入るために、94歳の老女をレイプするようなことは止めて欲しい。
(参考資料:7月26日、8月8日付「The Times」など)
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