2010/10/02

顧客センターでの半日 ジョハネスバーグ市と格闘 その2

ブラームフォンテーン地域の顧客センターは、朝7時半に開く。8時に着いたら、A58の番号を渡された。Aはaccount(口座)のA。用件によって、B、Eなど違うアルファベットで始まる番号が用意されている。待合室には、既に100人近くの老若男女がとりわけ焦る様子もなく待っていた。

アフリカーナのお婆さんと付き添いの娘が若い黒人夫婦とにこやかに談笑している。20年前、このお婆さんが口をきいた黒人は、雇い人であるメイドと庭師以外殆どいなかっただろう。黒人の3割が中流階級になった今、4人とも同じような服装をし、市に対して同じような問題を抱え、同じような不満を持ち、人間対人間として対等に話している。時代の流れを感じた。

A57の札を手にして、中国系の中年女性が「もっと早く来たかったんだけど、息子を学校に連れて行かなければならなかったから」とため息をつく。周りの白人、黒人、インド系が理解のある目で応える。スクールバスがあまりないジョハネスバーグでは、歩いて行ける距離に学校がある一部のラッキーな家庭を除いて、子供の送り迎えに親、特に母親の時間がかなりとられる。

隣に座った年配の白人男性フォルカーは、元クワズールー大学教授。ズールー語を流暢に話す。退職後、弁護士の息子の手伝いで、顧客センターに良く来るという。若い黒人男性が老人のE38という札を見て、「それじゃあ一日かかるよ」と気の毒そう。しばらくして、E21の札を持つ更に若い黒人男性を連れてきた。札を交換してくれるという。丁寧にお礼を言う老人に、「気にしなくていいよ」と照れる。

「ここでは忍耐が第一。係員の多くは全然役に立たない。ごく少数の、能力のある人が頼みだ」とフォルカー。アフリカーナのお婆さんと話していた若い黒人女性が口をはさむ。「それに、こちらの態度が大切。いばった挑戦的な態度では、係員もちゃんと応対してくれない。にこやかに話しかけるのがコツよ。」

フォルカーが通りかかった知り合いに紹介してくれた。アフリカーナの大柄な男性、ヨハン・ピータース氏。名刺には「municipal accounts consultant」とある。光熱費や土地建物登記などの問題で困っている市民が、市にかけあうのを手伝ってくれるコンサルタントだという。市職員の非能率や無能さが生んだ新ビジネスである。

「君はどうしたの?」とヨハン。早速、毎月の請求書と昨日撮ったばかりの電気メーターの写真を見せる。「これはひどい。明らかに間違いだ。ちょっと待ってて。」 2分ほどで戻って来て、「一緒に来なさい。」 雰囲気に押されてついていく。周りに座る人たちも、「グッドラック」とにこやか。ヨハンは有能な係員の列に連れて行ってくれた。「あなたへのお礼は?」「気にしないでいいよ。埒があかなかったら、いつでも連絡して。」

係員のピーター・クブジャナ氏は、ソエトのドブソンビル地区に住む。テキパキと仕事をしたいものの、市が導入したばかりのコンピュータシステム、SAPが遅いと嘆く。

私のアカウントを見せてもらうと、なんと毎月メーターをきちんと読んで数値を記入したことになっている。実際はたまにしか来ていないのに。しかも、記載された数字はデタラメ。メーターを読むのは、市から委託された会社である。各家庭を回る係が個人的にさぼっているのか、メーターを読む会社による組織的なごまかしか、それとも市の数値記入担当者がいい加減なのか。

更に、有能な顧客係と言っても、ピーターの仕事はコンピュータへの入力のみ。実際の事務処理は、別の係が行うという。「一カ月くらいして、電話で問い合わせをしなさい。」「電話に誰も出ないんだけど。」「う~ん。一か月くらいして、ここにまた来なさい。」

その時に、ピーターのような有能な係員にあたるという保証はない。また、今回の問題が解決しても、新たに記入される数値が嘘だと、来月も同じ問題を抱えることになる。複雑な思いで顧客センターを出たのは、お昼時。それでも、センターで出会った暖かい人たちと初夏のジョハネスバーグに広がる青空のおかげで、優しい気持ちになれた半日だった。

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