ジョハネスバーグのRCHCC(Rabbi Cyril Harris Community Centre)は、シナゴーグに併設されたコミュニティセンター。映画、講演会、絵画展、趣味の集まりなど、毎日のように様々な催し物が行われている。その全てがジューイッシュ(ユダヤ系)絡み。逆に言えば、ジューイッシュ的要素があれば、なんだってあり、なのである。
ジョディ・ビーバー(Jodi Bieber)の講演会に行ってきた。鼻を削がれた若いアフガニスタン女性の写真が「タイム」誌の表紙に採用されたことで、世界中に名前が知られることになった南ア人の写真家。勿論、ジューイッシュ。1967年生まれ。ジョハネバーグ育ち。
1993年にジョハネスバーグの新聞「スター」の暗室助手となり、1996年まで同紙のカメラマンとして、南アフリカが民主化する激動の過程を追った。幸運な時期にカメラマンになったといえよう。その後フリーに転向。報道から身を引き、自分のプロジェクトに取り組む。10年にわたって、貧しい白人やカラードのギャングなど南ア社会の周辺に存在する若者を撮った「Between Dogs and Wolves – Growing up with South Africa」や、肥満の黒人女性や81歳の白人女性をはじめとする、ごく普通の女性たちが下着姿で自分の体に対する思いを語った「Real Beauty」などがある。
報道写真家ではなく、ポートレート(肖像)を得意とすることから、「タイム」誌に仕事を求めて行った時は期待していなかった。だが間もなくして、「アフガニスタンの女性たちを撮らないか」との声がかかる。
表紙のモデルとなったのは、18歳のアイーシャ(Aisha)。夫とその家族の虐待に耐えかねて逃げ出したがつかまる。タリバンの判決は、耳と鼻を削ぎ落すこと。地面に抑えつけられたアイーシャの耳と鼻をナイフで削ぎ落したのは夫だった。ジョディが出会った時は、施設に保護されていた。
ライターに頼まれたプロのカメラマンと被写体。最初はどうもうまくいかなかったという。サジを投げ、通訳を介してひとりの女性とひとりの女性として話し始めた。「望むことは?」の問いに、アフガニスタンにおける女性の地位改善とか、タリバンの壊滅とかいった大きな話はせず、一言「耳と鼻を返してほしい」。その毅然とした正直さに心が打たれた。その瞬間、部屋の空気がすっと明るくなったのを感じた。
「タイム」の編集者はこの写真を喜ばないだろうと思ったという。確かに、耳と鼻があるべきところにぽっかりあいた穴を強調した、いかにも可哀そうな写真を撮ることは可能だった。だが、ジョディは尊厳に満ちたアイーシャを撮りたかった。グロテスクな悲惨な姿では、読者が反射的に目をそむける。そうではなく、見た人にまず「なんて綺麗な少女なんだ!」と思わせ、「あれっ? 何か変・・・・」と考えさせることを狙った。
結果として、「タイム」誌はこの写真に難色を示すどころか表紙に使い、大きな反響を呼んだ。
外に出て資金集めをするのが苦手、というジョディ。これまでは、スポンサーなしに自分のプロジェクトに打ち込んできた。有名になった今は、スポンサーが向こうからやってくるかもしれない。
次のプロジェクトは「まだ秘密」とのこと。「口に出すと、うまくいかないかもしれないから。」 いたずらっぽい目をして、シャイにほほ笑んだ。
2月11日、この写真が「2010年世界報道写真大賞(World Press Photo Award)」に選ばれて以来、南アのメディアで顔を見ない日のない「時の人」ジョディ。
返信削除昨日、映画館前のベンチにひとりポツネンと座っているのを目にした。「おめでとう!」と声をかけ、お互いの友達が現れるまで15分、お喋りに花を咲かせた。
大きな賞を得て、仕事やプロジェクト支援のオファーの電話が鳴り止まないかも、と心配したけど、そんなことはなかった。「それでよかった。安心したわ」と大笑い。
取材は世界中から毎日いくつもあるようで、金曜日には、日本の写真誌の取材を受けたとか。
一段とパワーアップした感のあるジョディ。次のプロジェクトが楽しみだ。