東ケープ州のフィドフェスヴィル(Viedgesville)は、半径10キロの円に収まる小さな村。そこに就学年齢の双子が100組以上いるという。ギネスブック記録確実だ。マスコミが押しかけたり、世界中の科学者の注目を浴びてもおかしくないが、やってきたのはサッサ(Sassa)。南アフリカ社会保障庁(SA Social Secirity Agency)である。
Sassaが設立されたのは、2005年。児童手当、老齢年金、身体障害者手当などの補助金年間900億ランド(1兆8100億円)を約1200万人の貧しい国民に支給している。人口の約4分の1が福祉手当を受給している計算だ。様々な手当てのうち、受給者が一番多いのが児童手当。対象となるのは、15歳以下の貧しい家庭の子供たち。ひとり当たり月250ランド(3000円)が約800万人に支給されている。
勿論、手当を受け取るには、受給資格を満たしていることを証明する必要があるが、公務員の汚職がはびこるお国柄、特に田舎では簡単にごまかせる。不正な受給額が全国で年15億ランド(180億円)にのぼると推定されており、とうとう1カ月ほど前、Sassaが設立以来初めての調査に乗り出した。
その手始めが、東ケープ州の農村地域である。内務省やSassaなど地元の役人、伝統的指導者、警察が住民とぐるになり、福祉手当の不正受給に関わっているといわれる。だが、証明するのは大変な作業である。
フィドフェスヴィルで村ぐるみの不正が行われているという密告情報を得たSasaa。本庁の職員が村に足を運び、児童手当を受けている子供をひとりひとり特定していった。存在しない可能性がある双子、なんと125組。
迎え撃つ住民たちは、一筋縄ではいかない。村全体で協力して話を合わせ、聞かれそうな質問を事前にリストアップし、練習までしていた。大人だけではない。4歳の子供に至るまで、親に教えられた通り平気で嘘をつくのだから恐れ入る。限りなく怪しくても、シラを切り通す。どう見ても生後15カ月程度の赤ちゃんを連れて来て「3歳だ」と言い張る親や、「別の州の親戚の家に遊びに行っている」とうそぶく親。出生届の記載誕生日が離れている子供2人を「双子だ」という親。村人たちの殆どが正規の学校教育を受けていないというが、その組織力としたたかさに調査員はあきれるばかり。
東ケープは、南アフリカで最も貧しい州のひとつだ。特に、旧ホームランドの農村部で貧困が目立つ。全国では60%以上が都市部に住むのに、東ケープ州では65%が農村部に住む。一人当たりの収入は、全国平均の半分。
根本的な貧困問題が解決しない限り、住民たちは更にしたたかになって、もっとバレにくい福祉手当の不正受給方法を考えだすに違いない。
(参考資料:2010年9月26日付「Sunday Times」など)
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