サイは不思議な動物だ。草食動物なのに、何故これほどまで完全装備なのか。アフリカの大自然をバックに草をほおばるサイは、21世紀より恐竜時代の方が似合う。子供が粘土遊びで間違って作ってしまったような不恰好さなのに、サイの周りにはまるで異次元空間で包まれているかのような静寂さがあり、崇高なまでに美しい。それに、デカイ! 畏怖の念に打たれ、何時間でも見とれてしまう。
ところが、いるのである。このサイを虐殺する人間たちが。
15年前は胸を張って、南アフリカの自然保護の手厚さを語ったものだ。密猟者の取り締まりに苦労するケニアやタンザニアと違い、絶滅寸前とされる象やサイがいかに保護されていて、その数がいかに増加しているか誇らしかった。
サイの密猟など、南アフリカでは耳にしたことがなかった。それが、2007年には全国で13頭が殺された。その数は飛躍的に増加し、2010年にはなんと333頭が無駄に命を落とした。
無駄、というのには理由がある。
サイの角の使い道は漢方薬。伝統的には媚薬、最近はガンに効くともされているらしい。成分は爪や髪と同じケラチンだから、勿論、科学的な裏付けはない。
一歩譲って、実際効果があるとしても(だったら、爪を煎じて飲めば良いという気がするが)、やはり無駄死に、なのである。というのは、サイの角は爪や髪と同じで、どんどん伸びて来るからだ。奈良公園のシカみたいなもんですね。角を得るために、殺す必要はないのである。
例えば、サイ農場を展開し、角を切って売れば、角の価格は暴落し、消費者は喜び、密猟もなくなってサイも喜ぶ、という構図が理論的には可能なのである。(現状では、サイの角の売買はワシントン条約で禁止されているから不可能だが。)
野生のサイの角を切り落とし、そこにオレンジ色のプラスチックの角をつけて、殺しても無駄だということを密猟者に知らせるという試みが、東アフリカで行われているという話を聞いたことがある。
南アフリカで密猟が急増した原因は、いくつか考えられる。
汚職で15年の実刑判決を受けた警察長官ジャッキー・セレビ(Jackie Selebi)が、2002年に絶滅種保護班を廃止したことは大きい。
野生動物の生息地域を拡大するために設立された、巨大な越境公園が裏目に出たこともある。
大リンポポ越境公園(Greater Limpopo Transfrontier Park)はそのひとつ。南アのクルーガー国立公園と同じ規模のモザンビークの公園をくっつけたものだ。公園内の国境を取っ払ったので、南アフリカより警備の甘いモザンビークから密猟者が自由に出入りできる。これまでモザンビーク側で逮捕された密猟者は数人、有罪になったのはゼロという。
中国マフィアがサイの絶滅を見越して、在庫確保に精を出しているという説もある。野生のサイが1頭もいなくなってしまえば、値段はつけ放題。その儲けは計り知れない。
南アフリカでは1960年代からの地道な努力が実って、現在、約1万9400頭のシロサイ、1678頭のクロサイが生存しており(どちらも灰色です)、繁殖による増加率は年3%から6%。
沢山いる、と安心してはいけない。南アフリカのシロサイは南部の亜種。北部シロサイ(northern white rhinoceros)は既に絶滅している。アジアに生息するインドサイ、スマトラサイ、ジャワサイも虫の息。
一番数の多い南部シロサイでも、大人になるまでにオス10~12年、メス6~7年かかる。2,3年に1頭しか子供を産まないから、密猟が進めばあっという間にその数は激減してしまう。
密猟取り締まり強化と消費者の啓蒙教育が強く、強く望まれる。
密猟者に殺され、角を切り取られたシロサイ。 |
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