ところが、先週になって、メールとSMSでキャンペーンを開始。「1月9日(月)から13日(金)まで、追加の願書を受け入れる」というのだ。それも、特定の場所(全国で1箇所だけ)に、自分で願書を持って行かなければならない。
1月9日の午前0時には、大学正門前に列ができ始めた。「早めに並ぼう」と朝4時に来た若者たちは、既に数百人が門の前で待っているのを見て唖然とした。5時には列が乱れ始める。7時15分に門が開き、5分で数百人が流れ込む。その後、警備員がなんとか秩序を取戻し、列が再び形成されたものの、志願者は数千人に膨れ上がった。辺りの道路はいずれも、生徒と父兄が乗って来た自家用車で埋め尽くされた。
夕方門が閉まり、願書を提出できなかった人々は、門の前で夜を明かすはめになる。
そして、火曜日、悲劇が起こった。
朝7時。門の前で、願書を手に持つ生徒と付添いの父兄、約6000人。遅く到着した者たちが、列を無視して門に押し掛ける。警察が制止しようとするが、耳を貸す者はいない。
ひとりが柵を乗り越えた。
それを見て、他の若者たちも門を乗り越えようとする。つられて何百人もが一度に押し寄せ、正門をこじ開けてしまった。倒れた人は踏み台にされる。悲鳴が響き渡るが、誰も助けようとする者はいない。
警察の援護隊が到着したのは9時過ぎ。その時には既に、ひとりが死亡、20以上人が負傷。重体2人を含む9人が病院に担ぎ込まれていた。
死亡したグロリア・セクウェナさん(『タイムズ』紙より) |
まさに無駄な死。
早く願書を提出すれば、大学に入学できるわけでは当然ない。提出期限後、審査がある。成績が悪くて、最初から話にならないかもしれない。
ブレイド・ンジマンデ(Blade Nzimande)高等教育相は、受け入れ枠がないため、進学したくても出来ない18万人に受け皿を作ると約束したが、大学入学は早い者勝ちでないこともわからない若者たち、そして倒れた父兄を平気で踏みつける若者たちに進学する資格があるのか。
また、ジョハネスバーグ大学もオンラインで願書を受け付けるとか、新たに募集するのではなく、最初の選抜で落ちた人を繰り上げるとか、他にもやり方があったのではないか。(願書を提出するために、わざわざクワズールーナタール州からやってきた人もいる。)
ンジマンデ高等教育相は、専門学校の質の向上、新しい大学の設立、入学願書を直接大学へ持って行くことの禁止、入学願書受付窓口の一本化(現在は大学別)などを検討しているという。
最初に柵を乗り越えた若者。この行動が連鎖反応を引き起こした(『スター』紙より) |
(参考資料:2012年1月9日、10日、11日付「The Star」、「The Times」など)
関連記事
入学希望者の行列5キロ ジョハネスバーグ大学 (2011年1月13日)
1週間のはずだった追加申請受付。「もう十分候補者が集まった」と2日で打ち切りになった。まだ門の前で待っている3000人や混乱が収まってから提出しようと思っていた生徒たちは、文字通り門前払い。申請もさせてもらえない。こんなことをするから、「早い者勝ち」と思われても仕方がない。
返信削除ジョハネスバーグ大学ではセクウェナさんの息子ホシツィレ(Kgositsile)君とモシマネ(Mosimane)君に奨学金をオファー。「full bursary」と呼ばれる種類で、学費、住居、食事、教科書などをカバーする。ただ、ホシツィレ君は今回、追加募集に応募しようとした。モシマネ君はまだ高校生。ふたりとも入学許可になっているわけではない。成績に関係なく入学させるということだろうか?
ンジマンデ高等教育相はセクウェナさんを「英雄」と呼ぶ。「命をかけて子供たちに良い教育を受けさせようとした兵士」だからという。「英雄」という崇高な言葉を安売りして、ゴマカシて欲しくない。「命をかける」必要など全くなかったし、セクウェナさんは息子の入学願書提出に「命をかける」つもりだったわけではない。
セクウェナさんは持ち物から身元が確認できなかった。身動きできなくなったセクウェナさんの手から、身分証明書、パスポート、財布などが入ったハンドバッグをひったくった不埒な者がいたためである。悲しい。