「City Press」より |
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与党ANC(アフリカ民族会議)の指導者12人を描く肖像画シリーズの第1作だそうな。
今年1月には、同じ画家の絵がなんと370万ランドで落札され、メディアに大きく取り上げられた。ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)の肖像画だ。
「Times LIVE」より |
「蓼食う虫も好き好き」とはいえ、通常ならとても買い手がつくような作品ではない。「へたうま」ではなく、単なる「へたくそ」。路上で売っているアマチュア絵画だって、これよりまし。「お金をもらっても欲しくない」という声が多々聞かれた。
(大体、全然似てない。顔が似てないだけでなく、マンデラの「エッセンス」をつかんでいない。ンゴボのマンデラをもう一枚ネットで見つけたけど、やっぱりこれはマンデラじゃないよ。)
「City Press」より |
マスメディアがこぞってリサーチしたが、シフィソ・ンゴボの名前を知っていた画廊や専門家は殆どいなかった。唯一の証言はキュレーターのブレン・ブロフィ(Bren Brophy)氏。「7000ランドの値段がついた絵を見たことがある」という。その絵が売れたかどうかは定かでない。
絵画の値段なんて、あってないようなもの。買う人が「払ってもいい」という金額が「価値」になる。材料代にいくらかかったとか、製作期間が長かったとか、いくらアーチストが主張しても、誰も買う人がいなければ、それまでなのである。
では、どんな絵画に高値がつくのか。
歴史に残る世界的なアーチストなら、名前だけで売れるだろう。現存する絵がわずか34枚というフェルメールの作品が新たに発見されたら、ものすごいお値段がつくことは必至。ピカソは5万点もの膨大な作品(絵画、彫刻、版画、セラミックなど)を残したが、駄作ですら「ピカソ」という名前のお蔭で高い売値がつく。キャンベルスープ缶やマリリン・モンリーを題材にした、ポップアートの旗手アンディ・ウォーホールの作品は、オリジナルデザインでもなく、量産できるシルクスクリーンプリントなのに、やはり「ウォーホール」ブランドで高値がつく。
まだ存命のアーチストは歴史的人物より分が悪いが、それでも目玉が飛び出る額を懐に入れる人もいる。大抵、長年にわたる華々しい経歴を持ったアーチストで、「死後の値段が約束されている」と投資家が確信した人々だ。
ウィリアム・ケントリッジによる比較的大きな作品で50万ランド。小さいスケッチだと15万ランド程度。長い経歴と高い評価を持つ南ア人画家の作品は、画廊で15万ランド程度の値段がつくらしい。ポッと出の無名の作家の場合、いくら素晴らしい作品でも、よっぽど物好きか、お金があまって困っている人でない限り、大金を払う客はいない。1000ランドを切っても不思議はない。
『シティプレス』紙が取材した画廊はいずれも、ンゴボのマンデラ肖像画は扱わないときっぱり。「現代アートに全く貢献してしない」「マンデラをモチーフににした作品は熱心な美術愛好家ではなく、旅行者を対象としたもの」と手厳しい。
この絵の価値はかなり甘く見ても、20万ランド、というのが画廊の評。(個人的には、「もってのほか」の値段だと思う。)
では、差額の350万ランド(370万ランド-20万ランド)はどこから生まれたのか。
この絵が売られたのは、実はANCの資金調達パーティー。席の値段は5000ランドから60万ランド。誰と同席するかで値段が異なる。全70テーブルの席は10日で売り切れた。しめて820万ランド。
パーティーではANC指導者の肖像画がオークションにかけられた。その売上金、2100万ランド以上。一晩で合計約3億円程度も集まったことになる。
ンゴボのマンデラ像を370万ランドで落札したのは、鉱業大臣スーザン・シャバング(Susan Shabangu)。鉱業界の某大物に頼まれたという。シャバングはズマ大統領と同じテーブルに座っていた。そして、同じテーブルに60万ランド支払って席を確保したのは、南ア一の金持ち、鉱業界の大物パトリス・モツェペ(Patrice Motsepe)。とすると、買い手はやっぱり・・・?
(鉱業大臣が業界の大物に頼まれてオークションで落札するなんて官民癒着も甚だしいが、シャバングが平気で公言しているところを見ると、ANCの倫理・論理では普通なのだろう。)
オークションに先立って、ズマ大統領はこう演説した。
「無理強いしているわけではありません。」「(ANCの)党員になれば、単なる支持者であるより、ずっと恩恵があります。・・・あなたのビジネスは何倍にも大きくなるでしょう。あなたが触れるものは何でも、何倍にも大きくなるでしょう。」「賢いビジネスマンはANCを支持します。」「ANCを支持することは即ち賢い投資をすることです。」
つまり、「ANCに金を出せば、色々な恩恵を得て、商売大繁盛」というわけだ。あからさまな賄賂要求である。350万ランドが何かがこれでわかった。
さて、オークションだから、最後に競り負けた人もいるはず。
マンデラの肖像画を手に出来なかったのは、350万ランドをオファーしたジョー・フロングワーネ(Joe Hlongwane)。Nafcoc(「ナフコック」と読む。全国商工会議所連盟 National Federated Chamber of Commerce and Industry)の会頭だ。
「ANCの支持を金で買って、次のナフコック会頭選挙を自分に有利に進めようとしている」とライバル派閥のスティーブ・スコサナ(Stve Skhosana)ナフコック副会頭は非難する。(フロングワーネは聖職者だが、南アではそんなこと、金儲け・権力争いに関係ない。)
でも、負けたんだから仕方がない・・・わけではなかった。
ANCのズウェリ・ムキゼ(Zweli Mkhize)財務部長曰く、「無駄にするのは余りにも惜しい競り値」。
ンゴボに頼んで、もう一枚描いてもらうことにしたという。
オークションでそんなのあり? 新作だから出来る曲芸技だ。
笑いが止まらないのはンゴボだろう。マスコミがタダで大宣伝してくれただけでなく、有力政治家から肖像画の注文が目白押しというのである。
元々は、ANCから便宜を図ってもらうために、法外な値段で売れたマンデラの肖像画。しかし、一旦高値がつけば、「高く売れたから、この画家の作品は良いに違いない」という論理だろうか、それとも「高く売れたから、この画家の作品は投資価値がある」という論理だろうか。いずれにせよ、370万ランドのマンデラ像は製作期間20日というから、ンゴボにとってはかなり効率良い金儲けである。
画廊が見向きもしなくても、へっちゃらだ。世間が芸術性を認めてくれなくても構わない。38歳にして、もう一生遊んで暮らせるほどの大金を手にすることが約束されているのだから。(無駄使いしなければ、の話だが。)
馬鹿なのは、どうしようもない肖像画を求めて、列をなして注文する政治家たちであろう。(その給料が税金から出ていることを考えると頭に来るが。。。)
(参考資料:2013年1月13日付『Times LIVE』、1月16日付『Daily Maverick』、1月20日付『City Press』、6月2日付『Sunday Times』)
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