2014/02/18

アフリカのサイをオーストラリアへ 苦肉の絶滅防止対策

南アフリカでサイの密猟が本格化したのは2008年。ツノを効果のない「漢方薬」に使うため、約80頭が殺された。その後、密猟数は毎年飛躍的に増加し、2013年には1000頭以上のサイが無駄に命を落とした。3日に1頭の超ハイペースである。絶滅の危機に晒されて「希少価値」があるから、余計高く売れるのだろうか。そして、高く売れるから、益々密猟が盛んになる。。。

主な消費地である中国ベトナムにおける、生活水準の向上人口増も大きな原因だろう。昔だったら、サイの漢方薬など買えなかった人々の懐が豊かになった。環境保護に対する意識の低さや、「サイのツノは爪と全く同じ成分で、全く効能がない」という正しい知識・情報が浸透していないことは深刻な問題だ。

「ハタリ!」のオリジナルポスター(Wikipedia
このままでは種としての存続が危ない!と、オーストラリア在住の南アフリカ人環境保護活動家イアン・プレーヤー(Ian Player)氏が奇策を編み出した。大胆にも、オーストラリアにサイを送るというもの。その名も「オーストラリア・サイ・プロジェクト」(Australian Rhino Project)。アフリカでサイが絶滅してしまった場合の「保険」(insurance policy)だという。

イアン・プレーヤーはゴルファー、ゲーリー・プレーヤー(Gary Player)のお兄さん。1927年3月15日生まれだから、来月87歳になる。1952年から環境保護に関わり、ハワード・ホークス(Howard Hawks)監督、ジョン・ウェイン(John Wayne)主演、1961年公開のハリウッド映画「ハタリ!」(Hatari!)を手伝った経験もある。

(余談だが、10年以上前、ゲーリー・プレーヤーが日本向けゴルフ練習機械を開発(?)した時、コマーシャル用の日本語発音指導をしたことがある。「狭い日本の家やアパートでも練習できる」という触れ込みだったが、どのくらい売れたのだろう? 使い勝手が悪そうだったけど。)

オーストラリアに送ればサイの命が保証されるわけではないが、アフリカより密猟の危険性が低く、汚職も少ないから望みがあるという。(アフリカの密猟は、腐敗した政治家や公園職員に助長されている。) 更に、オーストラリアにはシロサイ、クロサイの生息に理想的な自然環境があるという。

取りあえず、タロンガ動物園(Taronga Zoo)と協力して、数十頭のサイを移動する予定。タロンガ動物園はシドニーの市立動物園。いくら「種の保存」とはいえ、また、死ぬよりはましかもしれないが、大自然の中で伸び伸び暮らしていた野生動物を動物園に押し込めるのには、個人的にかなり抵抗がある。「種」さえ残れば、「個人の生活の質」はどうでもいい、というわけにはいかないだろう。

オーストラリアに巨大なサイの保護地を作る話もあるらしいので、是非、実現して欲しいものだ。

南アフリカからサイを別の国に大量移動する試みは、実はこれが初めてではない。1960代と1970年代にジンバブエのフワンゲ国立公園(Hwange National Park)に数百頭送った実績がある。しかし、ジンバブエでは近年サイの密猟が進み、最近、フワンゲ国立公園では最後の1頭が殺されてしまった。

また、南アフリカのサイ100頭をボツワナに送る計画が進行中だ。ボツワナのサファリ業者によるもので、来年実施する予定。

絶滅の恐れがある動物を別の大陸に移す例は他にもある。例えば、野生では1500-3500頭しか存在しないトラ。皮や「漢方薬」(また!)の材料を求めて、殺戮に歯止めがかからない。「アジアでは保護は無理」と見限って、なんと南アフリカにトラの保護地を設立した人がいる。ヒョウのドキュメンタリー制作で有名なジョン・ヴァーティー(John Varty)だ。フリーステート州の「タイガーキャニオン」(Tiger Canyon)に現在10頭余りが暮らしている。

「元々生息しないところに野生動物を送って繁殖させる」なんてことをしないで済めば勿論一番良いけれど、藁でも掴みたくなる悲惨な現状では、少しでも選択肢を増やそうという努力は歓迎されるべきだろう。

サイ、トラ、そして最近ではライオンなど、「漢方薬」の材料にされるために殺される動物たちについては、中国人やベトナム人の価値観が変わらない限りどうしようもない(象牙は中国人と日本人)。そんな中、内部からの変革にひと肌脱ごう、というのが、あの、ジャッキー・チェン(Jacky Chan)!  ビデオでサイのツノを買わないよう呼びかけている。でも、何故、英語・・・? それに、「サイのツノの売り上げで武器が購入される」という他人事(ひとごと)より、「サイのツノは効き目ゼロ」と個人的な関心に訴えかける方が、効果が大きいような気がするが。。。



(参考資料:2014年2月17日付「The Star」など)

【関連HP】
イアン・プレーヤー(Ian Playner)
タロンガ動物園(Taronga Zoo)
タイガーキャニオン(Tiger Canyon)

【関連記事】
2020年にクルーガー公園からサイがいなくなる可能性。最新報告書が予測する絶望的な未来。(2013年1月13日)
サイのツノの新しい効用? 「二日酔い」の薬用に密猟 (2012年12月30日)
サイを「合法的」に「密猟」する方法 (2011年7月28日)
サイの密猟急増 絶滅を見込んでの在庫増やし? (2011年4月5日)
ビッグファイブがビッグフォーに? ライオンが絶滅する日 (2010年10月4日)

0 件のコメント:

コメントを投稿