「ババ(お父さん)と、どうしても話したい。」
ムガベと話す仲介役を頼まれたのだ。
ムガベ、ムナンガグワ、軍隊に信頼されているムコノリ神父(CNN) |
エマーソン・ムナンガグワは11月6日に副大統領職を解任されていた。サイモン・カヤ・モヨ(Simon Khaya Moyo)情報相によると、解任の理由は、反政府の陰謀をたくらんだ疑いと「不忠、不敬、不実及び信頼できない特性が見られた」から。解任したのは、ムガベである。
ムコノリ神父は「青い屋根」(Blue Roof)として知られる大統領邸にムガベを訪ね、将軍たちが列挙した反乱の理由11項目を伝えたあと、ムナンガグワから電話があったと付け加えた。
「なんだって? どこにいるんだ? 話したい!」
ムコノリ神父はムナンガグワに電話。ムベキとムナンガグワは約10分間、言葉を交わした。
ムベキはまず、ムナンガグワの健康について尋ねた。毒を飲まされたという報道があったからだ。そして、なぜ南アフリカに逃げたのかと問い質した。
自分を絞殺し、自殺に見せかける計画があることを知ったからだという。「お前にそんなことをする人がいるとは、思ってもみなかったよ」とムガベ。本心なのか、猫をかぶっているのか。
ムガベは次に、ムナンガグワの妻について質問した。「わたしのムズクル(姪)はどこにいるのかな? 無理やり一緒に連れて行ったのか?」血がつながった姪ではないものの、家族同様に思っていることを匂わせている。
妻子は身の安全に心配ないのでジンバブエにいる、という返事。
ムガベは、ムナンガグワから受け取った「美しい手紙」(beautiful letter)について話したいという。ムガベは実の父親以上であり、処刑されるところをムガベに救われた、と述べた手紙である。(解任されてから出した手紙のようだ。)
「あなたはこれからも、私にとって父であり、師であり続けるでしょう。しかし、今回、勝利は敵の掌中に落ちました。」
ムガベを実の父親以上の存在、生涯の師と慕っていることを強調し、自分を解任したのはムガベのせいではなく、ムガベを取り巻く悪人たちのせいであり、その人たちはふたりの共通の敵である、と匂わせている。大統領引退後の身の安全、生活、財産保持を保証していると読める。
大狸2匹による、緻密な心理的駆け引きか。馴れ合いの茶番劇か。
「副大統領で百戦錬磨の政治家ムナンガグワ」と、「ムガベ夫人であることしかアピールする点がないグレース」による後継者争いで、ムナンガグワが勝利したこと、自分と家族の安全や生活は保証されていることを理解したムガベ。傲慢で気が短いグレースに、政治家としての器も人望もないことは、さすがのムガベも気がついていただろう。
ムガベは叫ぶ。「戻っておいで! 今すぐ、戻って来ておくれ!」
(ムコノリ神父によると、国外に脱出されたと報道されたグレースは、ずっとジンバブエにいた。「必要があれば電話したが、怒っているか、混乱しているか、またはその両方だった。」)
ムガベはこの時点で、「ムナンガグワをZanu-PFの新党首に任命し、Zanu-PFの大統領候補として大統領選に出馬させ、自分が大統領交代を取り仕切る」という筋書きを考えていたという。あくまでも自分が主導して、円満な権力譲渡を行いたかったのだ。
しかし、ムガベとグレースにウンザリしていたZanu-PFは、ムガベをクビにしてムナンガグワを党首に任命し、ムガベの大統領職即辞任を求めた。
ムガベは腹をくくり、弾劾を始めた議会の議長に電話する。辞任する意思だが、少し時間をくれ、と。
それに対し議長は「今、忙しい」と冷たい。「弾劾のプロセスを遅れさせることはできない。」
もうこれまで。。。司法長官、国防相、内閣秘書官を呼んで、辞任声明の草稿を書かせる。
「3番目の草稿が辞任声明文となった。ムガベはそれを読んだあと、ペンを手に取り、潔く署名した」とムコノリ神父。「署名したあと、ムガベの顔が輝いた。凛々しさがほとばしっていた。」
ムナンガグワ(左)とムガベ(The Zambian Observer) |
ムガベ一家は財産を保証され、今後も(少なくともムガベが亡くなるまでは)贅沢な暮らしを続けるだろう。Zanu-PFは「独立をもたらした英雄」「建国の父」として、ムガベに(少なくとも表面上は)敬意を払い続けるだろう。独裁者ムガベが「引退」しても、政権は変わらない。これまで甘い汁を吸ってきた政治家がそのまま居座っている。
軍隊が動いたとはいえ、これはクーデターではない。グレース派が失脚し、大統領が交代しても、独立以来同じ党が政権を独占していることに変わりはない。
【参考資料】
'You will always be my father' - How a priest helped to convince Mugabe that his time as president was up, Sunday Times(2017年12月3日)
【関連記事】
ロバート・ムガベの興隆と没落 ジンバブエ (2017年11月25日)
転んだムガベがミーム化 政治批判から無邪気な笑いまで (2015年2月17日)
「最後の独裁者」 ナンドーズ、またもや大ヒット作 (2011年12月2日)
大統領夫人の浮気 ジンバブエ (2010年12月24日)
0 件のコメント:
コメントを投稿