2017/12/06

「あなたは生涯の父」 カトリック神父が明かしたムガベ辞任の裏話 ジンバブエ

2017年11月15日、ジンバブエ国軍がロバート・ムガベ(Robert Mugabe)大統領を自宅監禁し、首都の要地を占拠した。その直後、与党Zanu-PFグレース派に対する将軍たちの不満に耳を傾けるため兵舎に急いでいたカトリック神父のフィデリス・ムコノリ(Fidelis Mukonori)に、エマーソン・ムナンガグワ(Emmerson Mnangagwa)から電話が入る。

「ババ(お父さん)と、どうしても話したい。」

ムガベと話す仲介役を頼まれたのだ。

ムガベ、ムナンガグワ、軍隊に信頼されているムコノリ神父(CNN

エマーソン・ムナンガグワは11月6日に副大統領職を解任されていた。サイモン・カヤ・モヨ(Simon Khaya Moyo)情報相によると、解任の理由は、反政府の陰謀をたくらんだ疑いと「不忠、不敬、不実及び信頼できない特性が見られた」から。解任したのは、ムガベである。

ムコノリ神父は「青い屋根」(Blue Roof)として知られる大統領邸にムガベを訪ね、将軍たちが列挙した反乱の理由11項目を伝えたあと、ムナンガグワから電話があったと付け加えた。

「なんだって? どこにいるんだ? 話したい!」

ムコノリ神父はムナンガグワに電話。ムベキとムナンガグワは約10分間、言葉を交わした。

ムベキはまず、ムナンガグワの健康について尋ねた。毒を飲まされたという報道があったからだ。そして、なぜ南アフリカに逃げたのかと問い質した。

自分を絞殺し、自殺に見せかける計画があることを知ったからだという。「お前にそんなことをする人がいるとは、思ってもみなかったよ」とムガベ。本心なのか、猫をかぶっているのか。

ムガベは次に、ムナンガグワの妻について質問した。「わたしのムズクル(姪)はどこにいるのかな? 無理やり一緒に連れて行ったのか?」血がつながった姪ではないものの、家族同様に思っていることを匂わせている。

妻子は身の安全に心配ないのでジンバブエにいる、という返事。

ムガベは、ムナンガグワから受け取った「美しい手紙」(beautiful letter)について話したいという。ムガベは実の父親以上であり、処刑されるところをムガベに救われた、と述べた手紙である。(解任されてから出した手紙のようだ。)

「あなたはこれからも、私にとって父であり、師であり続けるでしょう。しかし、今回、勝利は敵の掌中に落ちました。」

ムガベを実の父親以上の存在、生涯の師と慕っていることを強調し、自分を解任したのはムガベのせいではなく、ムガベを取り巻く悪人たちのせいであり、その人たちはふたりの共通の敵である、と匂わせている。大統領引退後の身の安全、生活、財産保持を保証していると読める。

大狸2匹による、緻密な心理的駆け引きか。馴れ合いの茶番劇か。

「副大統領で百戦錬磨の政治家ムナンガグワ」と、「ムガベ夫人であることしかアピールする点がないグレース」による後継者争いで、ムナンガグワが勝利したこと、自分と家族の安全や生活は保証されていることを理解したムガベ。傲慢で気が短いグレースに、政治家としての器も人望もないことは、さすがのムガベも気がついていただろう。

ムガベは叫ぶ。「戻っておいで! 今すぐ、戻って来ておくれ!」

(ムコノリ神父によると、国外に脱出されたと報道されたグレースは、ずっとジンバブエにいた。「必要があれば電話したが、怒っているか、混乱しているか、またはその両方だった。」)

ムガベはこの時点で、「ムナンガグワをZanu-PFの新党首に任命し、Zanu-PFの大統領候補として大統領選に出馬させ、自分が大統領交代を取り仕切る」という筋書きを考えていたという。あくまでも自分が主導して、円満な権力譲渡を行いたかったのだ。

しかし、ムガベとグレースにウンザリしていたZanu-PFは、ムガベをクビにしてムナンガグワを党首に任命し、ムガベの大統領職即辞任を求めた。

ムガベは腹をくくり、弾劾を始めた議会の議長に電話する。辞任する意思だが、少し時間をくれ、と。

それに対し議長は「今、忙しい」と冷たい。「弾劾のプロセスを遅れさせることはできない。」

もうこれまで。。。司法長官、国防相、内閣秘書官を呼んで、辞任声明の草稿を書かせる。

「3番目の草稿が辞任声明文となった。ムガベはそれを読んだあと、ペンを手に取り、潔く署名した」とムコノリ神父。「署名したあと、ムガベの顔が輝いた。凛々しさがほとばしっていた。」


ムナンガグワ(左)とムガベ(The Zambian Observer

ムガベ一家は財産を保証され、今後も(少なくともムガベが亡くなるまでは)贅沢な暮らしを続けるだろう。Zanu-PFは「独立をもたらした英雄」「建国の父」として、ムガベに(少なくとも表面上は)敬意を払い続けるだろう。独裁者ムガベが「引退」しても、政権は変わらない。これまで甘い汁を吸ってきた政治家がそのまま居座っている。

軍隊が動いたとはいえ、これはクーデターではない。グレース派が失脚し、大統領が交代しても、独立以来同じ党が政権を独占していることに変わりはない。


【参考資料】
'You will always be my father' - How a priest helped to convince Mugabe that his time as president was up, Sunday Times(2017年12月3日)

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