この一年ではっきりしたのは、米国民の30-35%がトランプの熱烈なファンであり、トランプの言うこと(その多くが虚言)を鵜呑みにするということ。公約を守らなくても全然OK。それどころか、トランプのツィッターをフォローする支持者たちは、トランプが公約を実現していると思い込んでいる。「有言実行の素晴らしい大統領」と信じている。
「公約を破れば支持者が納得しないのでは?」というのは、まったくの懸念だった。
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11月13日、米CBS「60 Minutes」(シックスティ・ミニッツ)がドナルド・トランプ(Donald Trump)の独占インタビューを放映した。2000万人ものアメリカ人が見たという。第45代アメリカ合衆国大統領に選出されてから、初めてのテレビインタビューだ。インタビュアーは1991年から「60 Minutes」で働くベテランジャーナリスト、レスリー・スタール(Lesley Stahl)。
「60 Minutes」の撮影現場(CBS News) |
選挙運動期間中、トランプはかなり無責任で扇動的な公約を繰り返した。それを信じて投票した人も多いだろう。選挙公約をどの程度実現するつもりか、支持者にとっても、反対者にとっても気になるところ。
トランプの姿勢・考えと公約をまとめてみる。
1.移民問題
現状では、外国人はチェックもなく米国に入り放題。テロリストも野放し。犯罪者やレイピストを送って来ているメキシコとの国境に、高くて厚い壁を築き、費用はメキシコに出させる。1000万人以上の不法移民を子供も含め国外退去させる。イスラム教徒の入国を一時的に全面禁止する。
2.ヒラリー・クリントンのEメール問題
大統領に就任したら直ちに、特別捜査班を任命し、ヒラリーを有罪にして投獄する。
3.国民健康医療制度
2000万人の国民をカバーする通称「オバマケア」(Obamacare)は「完全な失敗」(total disaster)なので撤廃する。
4.外交
プーチン、フセイン、金正恩などの独裁者は素晴らしい。クリミア自治共和国のロシア強制編入は問題ない。ロシアと協力して、イスラム国を倒す。テロリストは家族まで殺すべき。拷問OK。分担金を払っていないNATO加盟国が苦境に陥っても助けない。日本、韓国が自衛できるよう、核兵器を持たせてもよい。(最後の点に関しては、選挙後「言っていない」と否定しているが、インタビューに答えて明言している映像がしっかりある。確言した映像や音声が証拠としてあるのに、平気な顔をして「言っていない」と否定するのは、トランプにはよくあること。)
5.経済・貿易
アメリカの産業・経済を復興させるため、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)から脱退し、輸入品への関税を大幅に引き上げる。所得税の課税方法をシンプルにし、富裕層の所得税率を大幅に下げ、遺産税を撤廃する。
6.国内政治の改革
腐りきっている政治を一新する。自分ほどアメリカの政治システムに精通している者はいないから、自分だけが改革できる。
7.人権
妊娠中絶に反対。中絶した女性は罰せられるべき。最高裁の裁判官は、中絶反対派を選ぶ。
8. 環境
地球温暖化は科学者の支持を得ていない空論。
・・・などなどなど。
まず、移民問題について、次期大統領はどう考えているのか。「メキシコとの国境に築く「壁」(wall)は、一部「柵・塀」(fence)にしてもよい」「犯罪歴のある者、ギャングのメンバー、麻薬売人を国外退去させ、国境警備を確立してから、残りの人のことは決める」。
柵にしてもいいって。。。トランプ集会での熱狂的スローガンのひとつが「Build the Wall!」(壁を築け!)だったのに。。。支持者はがっかりするだろう。
アメリカへの入国は、元々、トランプがいうほど簡単ではない。というか、結構シビア。因みに、オバマ大統領はこれまでのどの政権より数多く、不法移民を国外退去させている。また、柵なら今でもある。メキシコが建設費用を払うわけはないし、壁建設は恐らく立ち消えになるのでは?
トランプは更に、「オバマケア」に関しても、「一部残す」と譲歩している。
クリントンEメール問題については、「これから考える」。「彼ら(クリントン夫妻)はいい人たちだから傷つけたくない。次回「60 Minutes」に出演するときには、はっきりとした回答をする。」
「いい人たち」(good people)・・・? トランプはクリントンを「世紀の極悪人」のように形容し、クリントンのEメール問題は「ウォーターゲートより悪質」と罵ってきた。トランプ集会では「Lock Her Up!」(刑務所にぶち込め!)「Kill the Bitch!」(メスイヌを殺せ!)という支持者の叫びが渦を巻いた。今さら「いい人たちだから傷つけたくない」なんて、支持者が納得するのか?
国務長官時代、政府のコンピュータと公的なメルアドに加え、私物のブラックベリーや個人のメルアドを使っていたことに関し、クリントンは「間違っていた。二度としない」と謝罪し、FBIの捜査でも、「非常に不注意だったが、糾弾するほどのことではない」との結論が出ている。余程の背任行為の証拠が新たに出てこない限り、これ以上追求することはできないだろう。
次に、政治改革。トランプの政権移行準備チームメンバーは、共和党体制にしっかり組み込まれた人々や、特定業界の利益のために働くロビイストから構成されているとの批判が出ているが、これに対しトランプは「60 Minutes」で、「悪いのは人ではなく制度」と弁解にもならない弁解をしている。何十年も既成体制にどっぷり浸り、恩恵を受けてきた人間たちが、自分にとって不利な改革を行うとはとても思えない。
トランプ自身、賄賂をばらまいてきたことを公に自慢してきた。例えば、ニューヨーク州は「トランプ大学」(Trump University)を詐欺容疑で訴えているが、フロリダ州の司法長官パム・ボンディ(Pam Bondi)が2013年、同州でも訴訟を考慮中と発表後、トランプはボンディに頼まれ、ボンディの再選を支援するグループに2万5000ドルを「寄付」。ボンディは直ちに、訴訟しないことに決めた。トランプが賄賂を有効に使った好例だろう。
(「金をばらまけば、政治家なんてなんでも言うことをきく」「ヒラリーにだって寄付した」と豪語した時、ジャーナリストに「ではヒラリーは何をしてくれたのか」とつっこまれ、「俺の結婚式に出席した」。それを聞いたコメディアンのセス・マイヤーズ(Seth Meyers)が自分の番組「Late Night with Seth Meyers」で、「金を払わないと、結婚式にも来てもらえないのか」と揶揄していた。)
セス・マイヤーズ(Wikipedia) |
トランプが法的倫理的人間的にめちゃくちゃなことをやって来た事実・証拠は山ほどある。普通の政治家だったら、どれひとつを取っても、政治生命を失うような大問題だ。しかし、トランブの場合、事例があまりにありすぎてメディアがついていけないこと、更に、一般人がセレブとしての「キャラ」として捉えてしまうことから、信じられないほど問題になっていない。
先日、トランプはオバマ大統領と初会談した。15分の表敬訪問のはずだったが、結局90分も一緒に過ごすことになる。意気投合したわけではない。大統領の職務や、国内外の情勢・問題について、トランプがあまりにも無知だったため、オバマ大統領が色々説明していたのだ。オバマ大統領は「アメリカの繁栄のために」、これから「通常の引継ぎよりずっと多くの時間をかける予定」とのこと。
ジンバブエのメディアもふたりの会見を報道(News Zimbabwe) |
トランプ自身、大統領選でまさか勝つとは思っていなかったのだろう。トランプに同行してホワイトハウスを訪れたジャレッド・クッシュナー(娘イヴァンカの夫で、選挙運動の中心人物)が、「ホワイトハウススタッフのうち、どのくらいが入れ替わるのか」と無邪気に質問し、聞かれた人を驚かせた。大統領が変わったら、スタッフはほぼ全員入れ替わることを知らなかったのだ。
トランプも、ホワイトハウスに常時住まなければいけないことを知らなかったらしい。大好きなマンハッタンのアパートとワシントンDCのホワイトハウスを行き来できると思っていたようだ。
共和党幹部は、政治に暗いトランプをうまく操り、党の政策を推進する思惑だろう。大統領、上院、下院のすべてを握った共和党にとって、待ちに待った「春」が訪れた。いくつか空席ができる最高裁では、女性やマイノリティの権利を制限し、大企業の利益を優先する裁判官たちが任命されるだろう(任期は終身)。先人たちが苦労して勝ち得てきた人権擁護の法律や政策が、今後数十年にわたり後退する可能性がある。オバマ大統領が推進し、ヒラリー・クリントンが更なる強化を約束していた、金融業界の規制や消費者の権利拡大も、トランプ政権では立ち消えになるだろう。
トランプ一家は大統領任期中、巨額の富を蓄えるだろう。選挙期間中ですら、選挙事務所、スタッフ、有料広告などの出費を極力押さえ、多額の選挙資金を「オフィス使用料」(自宅、自社ビルなど)、「交通費」(自家用飛行機使用など)などの名目で、トランプ家と関連会社に払い込んでいた。支持者に配りまくった帽子など、選挙の小道具を調達したのも、関連会社だ。情報発信はもっぱら、計2800万人(トランプ談)ものフォロワーを持つ、無料のツィッター、フェイスブック、インスタグラムで行った。政治家ではない、「セレブ」「スター」の強みである。
政治や経済政策で、概ね共和党のやり方に従っても、大統領の鶴の一声で決まってしまうことだってたくさんある。もしかしたら、トランプは共和党幹部の思惑以上に政治に口を出すかもしれない。世界に大きな悪影響を与えることをしないよう、祈るばかりだ。
もしトランプ大統領に何か起こり、マイク・ペンス(Mike Pence)副大統領が昇格しても、あまり嬉しいことはない。一見、可愛い少年風の57歳だが、なにしろ、原理主義キリスト教徒で、進化論を否定し、産まない権利、同性愛者、キリスト教以外の宗教に不寛容な超保守主義者なのだから。
「60 Minutes」インタビューの映像と英文起こしはこちらをご覧下さい。
(参考:CBS 60 Minutes "The 45th President" など多数)
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