2012/04/16

財団幹部が語るネルソン・マンデラ

オフィシャルの写真。ちょっとカッコよすぎる~。
ヴァーン・ハリス(Verne Harris)の講演会に行ってきた。ネルソン・マンデラ財団(Nelson Mandela Foundation)「記憶と対話センター」(Centre for Memory and Dialogue)の長。プロの「アーキヴィスト」だ。

アーキヴィスト(archivist)、って?

英和辞典には「記録・公文書保管人」「記録・文書係」「文書館員」などどあるが、どうも職業っぽく聞こえないので、英語をそのまま使う。「歴史的文書や記録を収集、整理、保管することを職業とする人」のことだ。

ヴァーン・ハリスは国立古文書館の副館長を務め、「真実と和解委員会」(TRC: Truth and Reconciliation Commission)などでアパルトヘイト時代の文書整理に当たった。「アメッド・カスラーダ財団」(Ahmed Kathrada Foundation)、「言論の自由研究所」(Freedom of Expression Institute)などの理事会メンバー。小説家でもあるらしい。

マンデラ文書に関わり始めたのは2001年。2004年から、マンデラのアーキヴィストを務め、マンデラ文書だけでなく、マンデラ個人にも深く関わることになる。『ネルソン・マンデラ 私自身との対話』(Conversations with Myself)の編集チームも率いた。(その節はお世話になりました!)

マンデラは「偉人」「聖人」の地位に奉られる一方で、その名前はあらゆる人に利用されている、とヴァーンは感じている。「マンデラ産業」と呼べるほど、様々なマンデラ本やマンデラグッズが巷に氾濫しているが、「人間」としての、また「指導者」としてのマンデラに対する批判は殆どない。

マンデラの死後、批判が表面化するとヴァーンは見ている。そして、その批判は大きく3つに分けられるだろうという。

①マンデラによる「和解」(reconciliation)は表面的なものだった。その証拠に、「和解」のためのプロジェクトはことごとく失敗している。また、「和解」「虹の国」という理想を標榜しても、国民の生活が良くならない限り無意味であるが、マンデラ政権はそれにも失敗した。

②優れた指導者の資質のひとつに、優れた後継者を育てることがある。マンデラ後の政治的指導者の質が悪いのは、後継者を育てなかったマンデラにも責任がある。

③政権の座についてから社会主義を捨て、ネオリベラリズムや資本主義に誘惑された。それが、現在の汚職体質の原因となった。

以上の批判が的を得ているかどうかに、ヴァーンは言及しない。あくまでも、記録を収集、分類、保管するのが役割の「アーキヴィスト」らしい。

講演の後半は、ヴァーンが見た「人間マンデラ」の特徴6点。

①他人の言うことに耳を傾ける。(Listen to the others)

悪名高いFIFAのジャック・ウォーナー(Jack Warner)など、「なんであんな奴の言うことを・・・」と思える人にも、マンデラは分け隔てなくチャンスを与えるという。

②自分自身を笑うことができる。(Laugh at yourself)

③自分の手で記録する。(Labour with a pen and a hand)

マンデラは記録魔。また、大のペン好き。何種類ものペンを持ち歩き、用途に応じて使い分けている。

④自分の間違いや苦しみから学ぶ。(Learn from your mistake and pain)

⑤自分を解放する。(Liberate yourself)

「軍隊は国を解放できるが、自分を解放できるのは自分だけ」と言ったそうだ。心を広く持って、自分を変革することを恐れないことを意味する。例えば、マンデラ自身、ロベン島に収容された時は、アフリカ風の亭主関白で、女性の権利などそれほど関心がなかったが、釈放時には、男女同権を信じるようになっていた。

⑥死を受け入れる。(Live with your dying)

マンデラは自分の老いと間近に迫った死を冷静に、ユーモアさえ持って、受け入れているという。「死んで天国の門に着いたら、あっちの暖かいところ(=地獄)に行きなさい、ときっと言われるよ。そうしたら、電話でANCと大企業を呼んで、助けてもらおう。」(ANCメンバーや大企業家も地獄へ落ちるという意味だろうか? それとも、ANCと大企業は、地獄にまで影響力を持っているという意味だろうか?)

講演会の後、質問に答えるヴァーン

数か月前、マンデラはヴァーンに言った。「もうオフィスには来ないよ。」

ヴァーンはこの言葉を、マンデラ財団が次の段階に進む「ゴーサイン」と受け止めた。今のような厳重なセキュリティは必要ない、開かれた財団にしなさい、という暗黙の教示。

それを受けて、マンデラ財団は来月から改修作業を開始し、今年の11月には終了の予定。その後は誰でも自由に出入りでき、文書や写真を通じて、マンデラの生き様に直接触れることができる場所にするという。

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