(「サタデースター」紙より) |
ジョハネスバーグでは先週、30もの地区が停電になった。ローランド・ハンター(Roland Hunter)とアヴリル・ジョフィ(Avril Joffe)夫妻が住むオブザーヴァトリー地区もそのひとつ。
停電になって既に2日が経った9月4日水曜の夜、夫妻と3人の息子、それに82歳の祖父は、ロウソクを灯してテーブルを囲んだ。ユダヤ教の新年を祝う特別な夕食だ。
前菜が終わったところで、2階から大きな物音。ローランドの頭に反射的に浮かんだのは・・・「押し入り強盗!」 よりによって、停電の暗闇の中、強盗に襲われるなんて・・・。
ところが目に入ったのは火。火事だ! 二階全体が火につつまれている! 寝室に置いてあったロウソクの火が、カーテンかフトンに燃え移ったらしい。
一家は命からがら逃げ出した。
数分もしないうちに、近所の人々や友人たちや親戚が消火器やバケツを手に集まって来た。プールから水を汲んで、皆で消火作業にあたる。炎以外何も見えない真っ暗闇だ。ローランドの息子は火事が広がるのを防ぐため、勇敢にもホースを手に持ち屋根に上った。
勿論、ローランド一家も、近所の人々も、懸命に消防車を呼ぼうとした。しかし、最初の消防車が到着したのは1時間半後。しかも、タンクは空。水を持たない消防車なんて! その10分後にやって来た2台目も役立たず。3台目にして、漸く消防車としての役目を果たしたが、時すでに遅し。家の殆どは燃え落ち、子供たちが描いた絵や家族の写真など、思い出の品々は灰になった。
一家は親切な近所の人の家に身を寄せ、少なくとも暖かいベッドは確保できた。だが、電気がないことから、気分を落ち着けるお茶も、ススまみれの体を洗うシャワーもなし(南アフリカではガスは一般的ではなく、料理もお風呂もストーブも電気頼みの家庭が殆ど)。洋服は近所の人々が古着を提供してくれた。
ジョハネスバーグが大規模な停電に陥ったのは、事故のせいではない。市の電力供給部門で働いている職員が違法ストに入った際、意図的に配電所のスイッチを切ったのである。やっとプレトリアの病院から退院したネルソン・マンデラの自宅も停電になった。
では、何故職員はストに踏み切ったのか?
そもそもの発端は、昨年の会計監査。市の電力供給部門が、莫大な残業手当を職員に払っていることがわかったのだ。
10人の職員をサンプルとして残業状況を見て見ると・・・。基本給が一年25万ランド(250万円)から40万ランド(400万円)の10人なのに、残業代を含めると、年俸が80万ランド(800万円)から120万ランド(1200万円)にまで膨れあがっている。
労働時間を吟味したところ、平日の昼間は給料を貰いながらも働かず、殆どの仕事を時間外に行なっている。電力は1日24時間供給されるものなのに、普通の会社員のように、1日昼間の8時間働くことに対して基本給を払い、それ以外は50%増などの残業代を払うというシステム自体が間違っているのではないか。もっと労働の実態に即したシステムを構築すべきではないか。
そこで市ではシフト制を採用することにした。職員の労働時間を24時間にムラなく振り分けることで、労働力を効率良く使い、残業代を節約しようという訳だ。しごくモットモであろう。納税者としては、税金の無駄使いはして欲しくない。
しかし、面白くないのが市の職員。今まで、大して働かなくても基本給の3倍もの収入があったのだ。まさに濡れ手に粟。一挙に収入が3分の1になってはかなわない。
市は2つある労働組合と協議し、シフト制に移行する前に特別手当を払うことで合意。関係者全員が署名した。
ところが、職員は特別手当を受け取った後で、「やっぱりシフト制は嫌だもんね!」と労働組合を無視して勝手にストに突入してしまったのだ。そして、最大の効果を上げるために、配電所のスイッチを切ってしまった。電気がなくて市民が困るとか、病院で死人が出るかもしれないとか、マンデラが死んでしまうとか、貯水場のポンプが作動しないことから水も止まる恐れがあるとか、全然気にもかけないで。いや、市民が困れば困るほど、効果が上がる訳だから、願ってもないのだろう。
しかも、労働組合は関していないので、市としても話し合いを行う相手がいない。
電力は徐々に回復しつつあるものの、責任感のない公務員というのは困ったものだ。
白人だがアパルトヘイト政権に反対し、アパルトヘイト政権がモザンビークの反乱軍「レナモ」(Renamo)に密かに軍事援助を与えていることを証明する証拠書類をANC(アフリカ民族会議。当時の解放運動勢力。現与党)に渡したことで逮捕され、有罪判決を受け、刑務所に入った、気骨の理想家ローランド。ANCが政権を取っても、昔の貢献により利益を得ようとはせず、一般市民として、家族を大切にして、真面目に働いてきたローランド。なんだかやるせない。元ジョハネスバーグ市のCFO(最高財務責任者)だったというのも、皮肉である。
このスト、現在警察が捜査中という。ジョハネスバーグ市をサボタージュすることにより、国家の安全を脅かしたという理由だ。
違法ストを行った職員を逮捕することが、根本的な問題解決につながるとは考えにくい。高校3年生が一番困る時期を狙ってストに入る公立学校の教師とか、患者が死んでもへっちゃらでストを行う看護婦とか、犯罪の取締より賄賂をフトコロに入れることに熱心な警察官とか、公務員のメンタリティをなんとか変える方法を見つけないと、どうしようもないのではないか。
(参考資料:2013年9月7日付「Saturday Star」、9月9日付「The Times」など)
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