そこに裁判所の係員数名がなだれ込んだ。警察署が家賃を何か月も滞納したため、建物の持ち主が裁判所に訴え、強制退去の判決が出たという。が、が~ん!
驚く刑事たちを尻目に、裁判所の係員は机、椅子、本棚、コンピュータなどを次々と駐車場に運び出す。途方に暮れる捜査陣。犯人は無事、逃げ失せる。。。
・・・な~んてありえない筋書きが、南アでは現実に起こり得る。
ジョハネバーグ東部のベッドフォードヴュー(Bedfordview)地区の警察署は手狭だ。そのため、捜査班は警察署のすぐ近くに事務所を借りている。ところが、今月初め、捜査員35人が事務所から追い立てられた。机、椅子、事務機器など事務所にあったもの全て、警察署の駐車場に捨てられてしまった。数か月、家賃を滞納したのが原因。
この事務所の捜査官が事務所から追い出されたのは、これが初めてではない。車の中に事件簿を持ち込んで、仕事をしているという。不憫に思った地元住民たちが、新しい警察署建設のため、資金調達に協力すると申し出たが、州の警察当局に断られてしまった。
これであきれたり、驚いたりするのはまだ早い。
今週の月曜日の朝のことだ。組織犯罪担当官がジョハネバーグ中心街のオフィスに出勤したところ、建物の中に入れてもらえなかったという。
リンポポ州のポロクワーネ(Polokwane)では、2週間前、警察の某部署が、借りていた事務所から追い出された。賃貸契約を更新していなかったからだ。
ジンバブエとの国境に近いマカド(akhado)の警察署では、電気が止められてしまった。電気代を払っていなかったためらしい。
ポロクワーネと、やはりリンポポ州のモディモレ(Modimolle)では、立ち退きを求められている警察署が合せて5か所もある。
ケープタウンでも6週間前、ミッチェルズプレイン(Mitchells Plain)地区で警察官がオフィスから締め出された。同じ頃、クワズールーナタール州でも同様の事態が発生した。
しかし、全国の警察署の経理部が揃いも揃って、賃貸契約の更新を忘れたり、家賃や電気代を滞納しているわけではない。警察署を含む公共施設の管理や賃貸契約は、「公共施設省」(Department of Public Works)が一括して行っているのだ。(「public works」には「公共事業」と「公共施設」の2つの意味があり、この場合は後者。)
公共施設省のいい加減さは悪名高い。(というか、ちゃんとしている省の方が珍しい。)
公共料金や家賃を銀行口座から自動引き落としにするとか、賃金契約が切れる数か月前に自動的に「通知」するようコンピュータをセットアップしておくとか、単純に解決できそうな問題なのに、それが出来ない。
能力があろうとなかろうと、縁故で職員を雇用する現政権のお役所のやり方のツケを払うのは、真面目に税金を払っている国民なのである。(能力がある人は、縁故で官庁の事務員になろうとしないだろうから、縁故採用の職員は能力のない人ばかりかも。。。)
ジャッキー・セレビ |
大臣も高官も、省のトップからして、与党ANC(アフリカ民族会議)のコネ任命、コネ採用が殆どである。
警察だってそうだ。中には優秀な警察官もいるだろうが、大多数は無能。平気で賄賂を要求する者も多い。状況を是正しようにも、改革を行うべきトップからしてどうしようもない。
ムベキ前大統領は「腐敗している」ともっぱら評判の友だち、ジャッキー・セレビ(Jacki Selebi)を警察長官に任命。マフィアの親玉を公然と友人に持っても、大統領のカサを着て平然としていた。
ベキ・ケレ |
後を継いだベキ・ケレ(Bheki Cele)は、ズマ現大統領の友だち。ズマ大統領と同じズールー族で、ANCの中央執行委員会(NEC)メンバーでもある。この人も就任前から評判が悪かったが、超有能なパブリック・プロテクター(Public Protector)、ツリ・マドンセラ(Thuli Madonsela)に職権乱用・汚職の動かぬ証拠を突きつけられ、ズマ大統領はケレを停職処分にせざるを得なくなった。(そう言えば、この件も公共施設省絡みだった。)停職処分とは言っても、少なくとも年1300万円とされる給料を全額貰ってのことだ。
ツリ・マドンセラ |
マドンセラは恐らく、与党政治家や腐敗した公務員が最も忌み嫌う南ア人ではないか。今の南アフリカで、「正義の味方」に一番近い存在だ。少ない職員と予算で孤軍奮戦し、公務員の職権乱用、不正、汚職を次々に暴くマドンセラに拍手を送りたい。各方面から嫌がらせを受け、圧力をかけられ大変だと思うが。。。(与党政治家に嫌われるナンバー1のマドンセラも、ナンバー2の第一野党DAの党首ヘレン・ジレも女性です。)
それにしても、公共施設省。犯罪捜査官が家賃滞納で建物を追い出され、駐車場に止めた乗用車の中で事件解決に取り組む、なんて、あまりにも情けないぞ!
(参考資料:2012年3月28日付「The Times」など)
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