「大統領職ほど儲かる仕事はない」とばかりに、私利私欲第一。国や国民のことはまったく眼中にない。
大統領時代のジェイコブ・ズマ |
正規の学校教育を一年も受けていないのは、幼い頃の家庭環境や政治経済環境が原因だとしても、教育を受けるチャンスはその後いくらでもあった。服役中に学位を取った解放運動同志が大勢いる中、ズマは教育に興味がない様子。世界が注目した1999年の大統領就任演説では、自分の原稿がまともに読めなかった。英語の読み書きが苦手にしても、一世一代の晴れ舞台である。それなのに、前もって練習した気配もない。その後も英語の演説原稿を読むのが苦手。大きな数字となるとお手上げである。
もちろん自分で書いた演説ではない。しかし、原稿が読めないのは練習しなかったからだけではない。何が書いてあるか理解していないことが大きな原因だろう。大統領として、国を発展させ、国民の生活向上を図ることに興味がないのである。
ズマは生まれてから一度も、1日8時間なり10時間なり勤務して収入を得る「普通の労働」に従事した経験がない。経済観念が欠落している。1990年モザンビークから南アに戻って来たとき、アフリカ民族会議(ANC)の給料だけではやっていけないズマの面倒を見てくれたのは、インド系ビジネスマンのシャビール・シェイク(Schabir Shaik)だった。数千万円もの無利子無期限ローンを用立ててくれたのだ。洗車やドライクリーニングの代金まで払ってくれた。その代わり、シェイク4兄弟は様々な恩恵を受け、特にズマが副大統領になってからは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
「瀕死」という理由で刑務所から釈放されたシャビール・シェイクだが、釈放されて9年経つのにまだまだ元気 |
シャビール・シェイクが汚職容疑で有罪判決を受け、経済支援力に翳りが出てきたとき、代わりに登場したのがグプタ(Gupta)3兄弟。シェイク兄弟はインド系南ア人だが、グプタ兄弟は1990年初頭にインドからやってきたインド人である。
グプタ3兄弟 |
もともとズマは徹底した縁故主義。支持者や友だちを省庁や官営企業の要職につけた。揃いも揃って、仕事に対するやる気ゼロで、能力も限りなく乏しく、私腹を肥やすことしか考えない人たちだ。その人たちがまた、友だちや家族に職を与えたり、賄賂と引き換えに請負業者を選んだりする。かくして、警察も郵便局も電力会社も航空会社も、教育も公的医療も福祉も、目を覆うばかりの悲惨な状況に陥った。
縁故主義・国政無視はグプタ兄弟の登場で更に悪化する。鉱山、電力、鉄道、武器製造、メディアなど南ア経済の様々な分野に進出したグプタ兄弟にとって、担当省の大臣が自分の言いなりになるのは限りなく都合がよい。グプタ兄弟は「影の政府」(shadow government)と呼ばれ、閣僚の任命まで大きな力を持つようになった。言いなりになりそうな候補者はジョハネスバーグのグプタ邸に連れて行かれ、グプタ兄弟から「いうことを聞いてくれたら大臣にしてやろう」とのオファーを受ける。ほとんどの人は喜んでOKした。
そんなズマのハチャメチャさを執拗に追及したのが、パブリックプロテクターのツリ・マドンセラ(詳しくは「南アフリカの良心、ツリ・マドンセラ マイリー・サイラスのパロディ 」参照)。それでもズマ、ズマの支持者、与党ANCは涼しい顔だった。
ツリ・マドンセラ。後任がまったく無能なのが悲しい |
ところが、意外なところからパンチが飛んできた。南アの4大銀行がグプタ兄弟との取引を打ち切ったのである。外国人であるグプタ兄弟にとって、南アの国庫がカラになろうと、国民が苦しもうと知ったことではない。南アで得た莫大な利益は国外(主にドバイ)に持ち出した。それがマネーローンダリングの疑いがあると、グプタ兄弟が経営する会社の口座を大手銀行が閉鎖した。現在、グプタ兄弟と取引をしようという金融機関は南アでゼロ。グプタ兄弟には逮捕状まで出ている。(法廷に出頭せず、国外脱出。)
・・・とここまでは南アの常識。
著名なジャーナリスト、ジャック・ポー(Jacques Pauw)の The President's Keepers: Those Keeping Zuma In Power and Out Of Prison を読んで、ズマのひどさはそんなものではなかったことを知った。
「keeper」とは「保護者・守護者・後見人」のことだ。この本は、ズマを権力の座にとどめ、ズマが刑務所に入らないように努力した犯罪者たちの物語である。
たとえば、タバコの不法製造業者・密輸業者。ギャング。警察内の犯罪者たち。腐敗した政治家。
大物ギャングに「あいつは俺たちと同じだ。俺たちの仲間だ」と形容されるズマ。犯罪者から犯罪者とのお墨付きをもらっている大統領なんて。。。
友人に要職を渡していただけころは、さすがのズマも経済・予算関係には慎重だった。財務省や準備銀行など、国の財布に近い省庁には有能な人材を配置した。ところが、グプタ兄弟や犯罪者たちにとって、お金を管理する役所は目の上のたんこぶ。
グプタ兄弟が鉱山や電力などのプロジェクトで大儲けをしようとしているときに、財務省から「そんな金は出せない」とストップがかかる。
表に出せない収入を隠したい犯罪者たちや腐敗した政治家に、超優秀なSARS(「サーズ」と読む。南アの税務署)の捜査の手が伸びる。
犯罪者たちにとって、簡単に「落ちる」警察より、税務署の方がずっと怖いのだ。
犯罪者たちは警察内の諜報機関と特別捜査班、財務省、税務署、メディアを次々と篭絡し、SARSの超優秀な特別班に対するスキャンダルをでっち上げ、遂に邪魔者をすべて追い出してしまう。各機関で働く優秀な職員たちのうち、クビにされなかった者たちの多くは「こんな職場では働けない」と退職。
かくして、南アフリカの官庁で最も優秀だった税務署は、ごく短期間のうちにかなり無能な機関になってしまった。税務署が無能になると、税金の徴収に大きな支障が出る。国庫が干からびてしまう。予算が不足して、福祉や社会事業に大きな悪影響が出る。困るのは国民である。
単なる無能だった警察は犯罪者の巣窟となり、現金輸送車の襲撃など派手な犯罪が昨年から急増している。中には優秀な警察官がまだいるけれど、残念ながら焼け石に水程度。
しかし、犯罪者たちに一家ごとすっかり取り込まれたズマ大統領は、税金を払ったことがなく、税務署につっこまれると大変困る収入がたくさんあるズマ大統領は、国よりも国民よりも我が身が可愛い大統領は、なんの手も打たない。。。
この本が出版されたのは、シリル・ラマポザ(Cyril Ramaphosa)大統領誕生直前だった。新大統領になって、一時うやむやになったズマ元大統領の汚職容疑が復活した。
(ズマ大統領と近い大物犯罪者が、ANC党首選でラマボザのライバルだったンコサザナ・ドラミニ=ズマにかなりの財政援助をしていたことが明らかになった。ンコサザナはジェイコブ・ズマの元妻で、その子供たちはズマ大統領時代、大儲けをしている。ンコサザナが勝たなくて、本当に良かった!)
ラマポザ大統領はまっとうな人間だと思う。だが、悪を一掃しようとして、権力を持つ者たちの反感を買い、大統領の座から蹴り落されては元も子もない。いろんな面で妥協しながら、少しずつ改革を推し進めていくのだろう。
頑張って欲しいシリル・ラマポザ大統領 |
題名:The President's Keepers: Those Keeping Zuma In Power and Out Of Prison
著者:Jacques Pauw
出版社:Tafelberg
ISBN:978-0-624-08303-0
出版年:2017年
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