2013/07/06

マンデラは植物人間じゃない。裁判所提出書類は誇張。

ネルソン・マンデラの長女マカジウェ(Makaziwe)を筆頭とする家族16人が裁判を起こしたことから、マンデラ家の内部分裂状態が連日メディアを賑わしている。マンデラ家の跡取りマンドラ(Mandla)が勝手に掘り返して、自分の土地に埋めてしまったマカジウェの兄弟3人の遺体の返却を求めた訴えだ。

裁判所提出書類には、マンデラは「回復の見込みがない植物人間状態」(permanent vegetative state)、「生命維持装置のお蔭で息をしている」(assisted in breathing by a life-support machine)とある。医師団は生命維持装置を外すことを提案しているが、子供たちの遺体が離れたところにある現状では、安らかな死を迎えることが出来ない、という言い分だ。

これに対し、原告団に名を連ねる現妻グラサ(Graça)が矛盾することを言い出した。マンデラ夫婦が住むジョハネスバーグ市ハウトン地区の「ネルソン・マンデラ スポーツ・文化の日」(Nelson Mandela Sport and Culture Day)イベントの場で、世界中から寄せられた「希望のメッセージ」(message of hope)に感謝した後、マンデラは「気分が良いというわけではなく、時々苦痛もあるが、元気」(uncomfortable and sometime in pain, but he is fine)と述べたのだ。

また、大統領府も、「安定しているが危篤の状態」(stable but critical condition)という声明を発表。ジェイコブ・ズマ大統領のスポークスマン、マック・マハラジ(Mac Maharaj)によると、「元大統領が植物人間ということを医師団は否定している」。

それどころか、医師団は生命維持装置を外すことに反対しているらしい。内臓が全く機能しなくなるまでは、生かす努力を続けるというのである。

マンデラと共にリヴォニア裁判の被告だったデニス・ゴールドバーグ(Denis Goldberg)は「報道を聞いて予想していたより元気だった」という。

「私が会いに行った時はウトウトしていた。来たことを告げると、目を開けて私を見た。10分くらい話したが、私の言葉に良く反応した。喉にパイプが入っていて口がきけないので、答えることは出来なかったが、話したそうに顎を動かした。」

どうやら、裁判所へ提出した書類では、早く判決を受けるために、マンデラの病状を誇張していたらしい。

更に、何故マンデラが危篤状態になって初めて、マンデラの子供たちの埋葬場所が問題になったか、という疑問も解けた。

元々、3人はムタタ近くの共同墓地に埋葬されていたが、32キロ離れたクヌ村に再埋葬される。2010年になって、やはりクヌ村の、マンデラの所有地に移動しても良いという許可が下りた。家族が墓を建てて準備をしていたところ、最近になって、「2011年にマンドラが掘り返して、ムヴゾに埋めた」という情報を得た。びっくりして墓を掘り返して見たら空っぽだった、というのである。危篤状態だから、というのではなく、勝手に遺体が移動されていたことを今まで知らなかったのだ。

ヴッツ大学の文化人類学者ロバート・ソーントン(Robert Thornton)教授は、今回の騒動には様々な要素が絡んでおり、文化人類学的に見れば典型的なケース、という。

南アフリカの部族は全て、「規則」ではなく「原則」に従って統治されている。新しい首長の任命は自動的なものではなく、常に反対や紛争を伴う。その時、力を発揮するのは、先代首長の第一妻である。

筆頭原告のマカジウェは、第一妻エヴェリンが生んだ4人の子供の中で、唯一の生存者。性別を考えなければ、十分「原則」に沿っている。伝統的には立場が弱い「女」ではあるものの、今は男女平等の時代。ただ、男に支配された村の伝統に従っては負けてしまうから、自分の主張を通すため、裁判所に訴え出た。

一方のマンドラはムヴェゾの首長。第一妻の次男の息子。一家で最年長の「男」として、マンデラ家の跡取りとなった。こっちも「原則」に沿っているが、現行の法律に従えば言い分が通りにくいので、伝統的なシステムによりどころを求める。(尤も、勝手なことばかりやっているから、「伝統社会」からも正当性を疑問視する声が出ている。)

「遺産を誰がコントロールするか」に対する考え方の違いもある、とソーントン教授。西洋的な法律では、自分が死んだ後、誰が遺産を受け取るかは自分で決めればよい。だから「遺書」を残す。しかし、「遺書」はアフリカの伝統ではない。遺産をどうするかは、「先祖の魂」の問題になってしまうのだ。つまり、「先祖の魂を怒らせたり悩ませたりしないためには、どうしたらいいか」を考えるのである。

勿論、「マンデラブランド」には相当の付加価値があるから、「原則」を守ろうとしているというより、「原則」を利用して自分の利益を図ろうとしていることも十分あり得る。エヴェリンの娘マカジウェ、エヴェリンの孫マンドラ、ウィニーの娘ジンジとゼナニ、更には孫の代の多くが、まだマンデラが生きているうちから金儲けに走り、醜い争いを繰り広げているのは周知の通り。与党ANC(アフリカ民族会議)もマンデラの名前を大いに利用しているし。。。

色々考えると、7月18日の95歳の誕生日まで、生命維持装置を外すことはないのではないか。

(参考資料:7月5日付「The Star」、7月6日付「Saturday Star」など)

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